ウサギとカメのレース
とある山の峠。
夜更けだと言うのに大勢のギャラリーが見守る中、遊園地に置いてあるゴーカートのようなマシンに乗ったウサギとカメがレースの準備をしていました。
(この勝負、俺が勝つ――)
ウサギは自分のマシンの性能と腕には自信がありました。
それに対してカメは無名のレーサーでカートも旧式です。
多少腕が良いだけではマシンスペックの差は覆せません。
それにウサギは名の知れた走り屋で県外の走り屋の間でも有名です。
カメは地元の走り屋が苦し紛れに連れて来た上にこれが最初のレースと言うド新人でした。
前評判ではウサギの圧勝と言うムードが漂っています。
「開始三分前!! 各ポイントの確認よろしくお願いします!!」
ウサギのチームのメンバー達がコースの各所に配置された仲間に連絡を取り合い、安全確認を行います。
いよいよレース間近。
ウサギも冷静です。
そしてカメも不気味なぐらいに冷静でした。
(序盤は直線が多い上り坂、後半はカーブが続く――序盤で一気に突き放して勝負をつけてやる!!)
ウサギはハンドルを強く握ります。
「開始一分前!!」
そしていよいよレースが開始されようとします。
はたして勝つのはウサギか?
それともカメか?
「開始十秒前!!」
そして運命のレースが幕を開けた。
先頭はウサギ、その後をカメのマシンが追います。
(このままぶっちぎってやる!!)
そう意気込んでウサギはマシンを走らせます。
前半は直線が多く、ウサギのマシンスペックが最大限に活かせる場面が多くありました。
しかしカメは少し離れた後方から食いつきます。
特にカーブの終わった後などにヒョッコリとゴーカート型マシンに取り付けられたサイドミラーに顔を出してくるのです。
「あぶね!?」
「うぉ!?」
ギャラリーはカメのドリフトテクニックを見て腰を抜かしました。
ノーブレーキの猛スピードでツッコンで、ガードレールとの隙間は僅かしかなく平然と曲がっていく姿。
正に神風走法です。
「あのカメ頭おかしいんじゃねえのか!?」
「普通あんな猛スピードでツッコンだらガードレールに激突するだろ!!」
「死ぬのが恐くないのか!?」
口々にギャラリーは呟きます。
そのギャラリーの驚愕が伝わったかのようにウサギも焦ります。
(まるで俺のマシンが特別鈍くなったみたいだ・・・・・・あのカメ背後霊のように俺のマシンに食いついて来やがる!!)
ウサギは焦ります。
それでもマシンの操作ミスをしないのは流石と言えます。
そしてレースは後半戦。
カーブが多い下り坂に突入します。
カーブを一つ曲がる度に、どんどん、どんどんウサギとカメの間は縮まっていきます。
そして――
「並んでる!! ウサギとカメが!!」
「ウサギが煽られてるぞ!!」
「信じられねえ! あのカメの旧世代機で食いついてやがる!!」
ギャラリーが熱狂します。
ウサギとカメは横に並びました。
差は均等です。
ウサギも上手くカメの走行を妨害しながら走ります。
(次のコーナー・・・・・・流石のカメもアウト(外側)を・・・・・・)
ウサギがそう思っていた矢先――カメのマシンはイン(内側)を取りました。
しかも猛スピードで。
ウサギは驚愕します。
「バカか!? そんなスピードでつっこんだらクラッシュするぞ!?」
しかしカメは表情を変えずにツッコミ――インをスパッと走り抜けました。
追い抜かれた事実よりもその現実にウサギは目を疑います。
「なんだと・・・・・・なにが起こった?」
こうして勝負はカメの勝利に終わりました。
後日、ウサギの兄はこう解説しました。
「溝にタイヤを落として、ジェットコースターのよう走り抜けた!?」
その事実にウサギは驚きます。
「そうだ。サーキットではなく峠だからこそ出来る走りだろう。だからと言って出来る技量ではない。あの芸術的なドリフトテクニックといい、ドライバーの腕もそれ相応。さらにこの峠を知り尽くしたからこそ出来る走りだ。だからこそ峠の走りと言うのは面白い」
つまりマシンのタイヤを溝に落とし、猛スピードを出してもクラッシュしないように固定してコーナーのイン側を走り抜けたのだと言います。
普通の走り屋が真似しても出来ません。マシンがおしゃかになるだけです。
カメの脅威的な走行技術があって出来る技なのです。
「あのカメはきっと全国に名を轟かせる走り屋になるぞ・・・・・・」
このウサギの兄の言う通り、カメは全国に名を轟かせる走り屋になりました。
これがカメの最速伝説の始まりでした。
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