逆転裁判IN不思議の国

 不思議の国にやってきた少女、アリス。


 彼女は不思議の国の密入国容疑で囚われの身となりました。


 そしてハートの女王達同席のもと、裁判が開かれました。


 アリスの弁護人は日本では名の知れた弁護士で戸惑いながらも法廷の場に立ちます。


 ついでに言うと検事とは顔見知りのようです。


「私はアリスさんの無罪を主張します」


 弁護士はそう強気に言い放ちました。

 

「アリスさんは時計ウサギさんの後を追ってこの国に迷い込んだ。そうですね?」


「ええ、その通りです」


 と、被告人のアリスが弁護士の質問に答えます。


「異議あり。それでも密入国した事実には変わりはないのです」


 検察官が反論します。


「待った。そもそも不思議の国は国連にも登録されていません。つまり、法律上では同じ国の領地と言えます」


「異議あり。ここは不思議の国である以上、不思議の国の法律で裁くべきだ」


 ハートの女王はこのやり取りになにやら憤慨していた。

 自分の国が他国の領土の一部呼ばわりされたのが気にくわないようだ。

 それをトランプの兵士が宥める。


「しかしアリスさんは不思議の国の存在を知りませんでした。現場を検証しましたがまさか不思議の国に通じる扉があんな場所にあるなんて今時子供でも思いません。それにアリスさんはまだ子供です。時計兎の存在に惹かれて後を追い、不思議の国からの帰り方も分からず迷子になった――それが事件の真相だと私は考えてます」


 その弁護士の意見にハートの女王は異を唱えた。


「違うわ!! そんな女はこの国に悪意を持って密入国したに違いないわ!!」


 だが検察官は「待った」と制止を掛けた。


「ハートの女王様。それでは裁判が成り立ちません。証拠がなければやってないのと同じなのです。貴方の言い分も証拠がない以上勝手な決めつけにすぎない」


「ちょっと貴方どちらの味方なのよ!?」


「私は真実の味方です」

  

 と、検察官は格好良く決めて裁判を進めます。


「検察側の調べによればアリスさんは普通の少女です。それに凶器などの持ち込みもありません。検察側としては証人をこの場に呼びたいと思います」


「証人ですって!? 誰を呼ぶ気!?」


「時計ウサギさんです」

  

 ハートの女王の問に検察側はそう答えました。


「私は時計ウサギです。私は独自にこの国の悪事を調べていました」


「なんですって!?」


「私――時計ウサギはハートの女王がこの国で行っている悪政の陰謀を掴むために動いておりました」


「なっ――」


 衝撃の事実に場はざわめく。

 

「私が通ったルート。そしてアリスさんが迷い込んだルート。実はアレは違法な薬物をこの国に持ち込むための秘密の抜け道だったのです」


「何を根拠に!?」


 不思議の国にも関わらず突然話が生々しくなった事に弁護側も検察側も複雑な心境になるが本人達はいたって真面目なので顔には出さないようにする。


「それだけではありません。ハートの女王は二人おり、もう一人のハートの女王は幽閉されているのです」


「何をデタラメな!! 国家反逆罪で死罪にするわよ!! 大体なんで裁判なんか開いたのよ!? これもそれもあの小娘が秘密のルートを――」


 弁護士と検察側は聞き逃さなかった。

 

「秘密のルートと言うのはどう言う事ですか? 弁護側はその秘密のルートについて明らかにしてもらいたい」


「検察側も同じです。それがハッキリ出来ない以上、アリスさんの味方につかざるおえません」


「ぐぬ――そ、それは――」


 ハートの女王は言葉に詰まる。

 弁護側は時計ウサギに「証言を続けてください」と裁判を進めます。


「はい。あの秘密の抜け道には薬物だけではなく、地球の武器も運び込まれていました。あの偽のハートの女王はそうして悪の独裁国家をつくりあげようとしていたのです」


「デタラメだわ! 大体薬物も武器も全て証拠が出ないように処分して――」


 再び騒然となる。

 あまりの急展開に場は再び騒然となった。

 ハートの女王もしまった――と言う顔になる。


「弁護側としてはこの事件の真相はこう捉えます。ハートの女王はアリスさんが迷い込んだ秘密の抜け道――この国に薬物を持ち込むためのルートだったのです。だから口を封じるために魔女裁判を行うおうとした」


「検察側としては証拠が無い以上、全てデタラメだと論じます」


 二転、三転する法廷。 

 そしてその場に新たな少女がトランプの兵士達に連れられて現れた。


「いいえ、弁護側の意見は本当です」


「貴方は?」


「私はハートの女王です。証拠はあります。この王家に伝わるペンダント。そして――あのハートの女王の顔は整形による物だと言う証拠もあります」


「なんですって!? あの小娘が!? どうして――誰も知らない場所に幽閉していたのに!! それに整形の証拠なんて全部処分したはず――」


 この場に居合わせた人々の疑惑の目は全ての偽のハートの女王に向けられました。


「ええ、そうです。それと貴方がこの国で運び込んだ薬物や武器の場所も――私がいない間に相当好き勝手してくれたようですね。偽の女王」


「グヌヌヌヌ!!」


 偽の女王である取り巻きのトランプの兵士達は慌てふためきます。   

 そして時計兎率いる捜査員の手で偽のハートの女王は連行されました。


 少し間を置き、法廷が落ち着きを取り戻したところで裁判官のハンプティ・ダンプティが言います。


「裁判は思わぬ形になりましたが――アリスさんは無罪です」


 そしてアリスの無罪が言い渡されました。


 アリスも弁護士も検察側も、地球サイドの人間は思いもよらぬ逆転劇に困惑しながらも真実を掴み取れた事を内心喜びました。


 アリスは真のハートの女王に頭を下げられました。


――私はこの国を建て直さなければなりません。この不思議の国の玄関は開けておきます。待て来てくださいますか?


――勿論よ。今度はゆっくり観光したいわ。


 こうしてアリスを巡る裁判、そして国家転覆劇は終わりました。


 めでたしめでたし。


 

 


 


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