第8話
結局は橋津と何処かギクシャクしたままだった。
沙紀とは志津が2人でいたのを見た時お似合いだなっと思った絢だったが、自分の思いを自覚した今。
橋津が沙紀を好きだとして絢に彼を応援できるのだろうかとただ自問自答を繰り返すばかりだ。
何かと話せないまま、あっという間に一週間が再び過ぎてしまう。
今回こそはと絢は水曜日を迎えて気合いを入れた。緊張しながらも教室を開けると橋津はぼうっとしたように外を見つめていた。
「おはよう」と声を掛けるも緊張で少し声が裏返ってしまうのは仕方が無く、そんな絢に彼も「おはよ」と返すも頬が何時ものように穏やかではなく固いのが見て取れる。
そんな彼の表情にせっかく作った絢の笑顔も引きつってしまっているようだ。
何時もは穏やかな朝の時間も今日は絢の緊張で肩に力が入ったそれが伝染するように固い空気が教室内を覆っていた。
話が弾まない。
まるで当初に戻ったようだが、それ以上に彼の態度も以前には無かった堅さが見られた。
以前ならポツポツとだがちぎれなく続いてた会話も今日は一言二言離しては長い沈黙2人を包んでいた。
「この間のオススメ曲もよかったよ」
「そっか」
「今度お昼の放送で流すね」
「うん」
「先輩も言ってたけど橋津くんはマイナーないい曲知ってるんだね」
最後に黙り込んでしまった。彼に絢はこれ以上どう話掛けて行けばいいのか分からなかった。
確かに何時も絢の方が話す事が多かったが、それでも橋津が質問をしてきたりと言葉のキャッチボールになっていたのだが、今日はまるでただのボール投げで絢が投げたボールは彼まで届いても何か見送られてしまっている感じがした。思いも言葉も一方通行でぎゅっと痛みが蘇る。
ーー嫌われちゃったのかな。
その後はポツポツと何か話しただろうか。絢はさっぱり何も覚えておらず、HRが始まっている事に気づいた時にいつの間にか自分は席に着いたのかとはっとした。ただ彼女の頭の中は彼に嫌われてしまったのかもしれないのは何故なのかという疑問がグルグル回っていた。
あっという間に昼休みになったのに、席から一行に動かない絢の腕を誰かが掴んだ。
「ちょっと来て」
沙紀は彼女の腕を引っ張ったまま中庭まで2人は歩いた。中庭には秋の姿が見え始め少しずつ涼しくなって来たものもあり、何時もは何人もいる中庭もこの日は閑散している。
絢をベンチに座らせて、その隣にどすんっと沙紀も腰を降ろした。
「絢そろそろ話してくれてもいいんじゃない」
その言葉に思わず絢が彼女をぱっと見ると心配げな顔が待っていた。
「沙紀さんはずっと待ってたのよ。最近ずーっと元気が無いのには気づいてたけど、流石に今朝からの様子は見ていられない」
そう言いながら沙紀は絢の顔を覗き込む。
絢はそんな沙紀の気持ちに泣きそうに目が潤むが、今はそんな時ではないっと心配してくれたのに彼女の気持ちを無下にしてはいけないっと思った。
そして今まであった事をポツポツとだが話し始める。
最初は彼の背中をつい見てしまっていた、偶然が重なり毎週の水曜日の特別な時間を持てるようになった事。
彼の微かな微笑みやおしゃべりじゃないながらも穏やかに話してくれる姿に惹かれ独り占めしたくなった事まで話していた。
ようやく自覚した橋津への恋心が話す事であるべき所にはまって行くように絢の心に綺麗に納まって行く。
黙ってただただ絢の話しを聞いていた沙紀だったが、でも何故だか分からないけど彼の態度が固くなって嫌われたかもしれない事を絢が顔を俯けながら零す。
「はぁ、何してんだか……で、絢はどうしたいの?」
「えっ?」
その問いに顔を上げるも今は嫌われたくないという思いに雁字搦めになって、どうしたら嫌われなくて済むのかとしか考えられない彼女だった。
そんな彼女の様子から思いを汲んだかのように沙紀は言葉を続ける。
「嫌われたくないからって距離を置こうとか思ってないよね?」
「さっき独り占めしたくなったって言ってたけど、そんな風に絢が避けているうちに誰かが橋津の隣にいるようになっちゃうかもしれないけど良いの?」
沙紀は畳み掛けるように言う。
その言葉に橋津が他の子にあの笑顔を見せて楽しそうにしている姿が思い浮かんだ瞬間、絢は息が止まってしまいそうだった。
息が止まってそんな想像が出来なくなってしまえばいいと思った。
今にも泣きそうな絢の背中を沙紀はあやすようにポンポンと叩く。
「今思った事が答え何じゃない」
「やだ。私は嫌われたくないけど彼の隣に誰か他の女の子がいるのもやだ」
そういう絢の頬に心に収まりきれない思いが溢れるように1粒に涙が伝った。
その答えに沙紀は安心したように苦笑する。
「そうだよ、諦めないで。嫌われるのが怖いっていうのも分かるけど、橋津も何か理由があるのかもしれないしね」
「ありがとう。何かしちゃったのかもしれないし、ちゃんと聞いてみる。」
「ま〜せっかくの初恋だしね! がんばんな!」
沙紀は一転しニヤニヤと揶揄うようにいうのだった。
そんな空気を明るしてくれようとしたのだろう彼女の言葉に絢は自然と再び後押しされる。
「ふふ、せっかくの初恋だし投げ出さずちゃんと向き合ってみるね」
今度は晴れやかな笑顔を見せた。
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