113話 後夜祭

 決勝戦は、俺とリフェル。双方の激しい戦いの末、勝利をおさめ、優勝のトロフィーも、賞金もたっぷり頂いた。

 これで旅費の足しになったのである。ありがたく、【次元収納】にしまい込んでおいた。

 しかし、南星の剣聖の凄まじさに感嘆したわ。【神速】なんて使えないし、魔法といえ、当てなければ意味がないんだよな。


 獣王レオンの側近らしきキツネ耳の執事の方からの伝言によると、2日後に獣王との謁見のこと。それまでは、獣王国の観光を満喫にした。


 ララも俺のファンになってくれたようで、自ら案内ガイドになってくれた。

 うさ耳をピコピコとしながら、俺に近づいて、らんらんと目を輝かせた。


「イツキさぁん! ララは、すごく光栄でぇす! また来年も来てくれると嬉しいですぅ!」


 実況の時を思い出す。

 仕事としての口調は、ああだろうと思ったが、まさか、これが素だとはね。


 ララはリフェルと相性が良くて、キャッキャッと笑いあっていた。



 その夜――

 ユア、リフェル、ソフィ、ドラセナ、4人は、とあるレストランの個室にて、恋愛トークで盛り上がっていた。


「ユアは、よくイツキを見てるさね? 彼と付き合ってるのかい?」


 ドラセナが問うと、ユアは赤くなって振り向いた。


「な、なにをおっしゃっているのですか……?」

「あれ? 違うのかい。やけに、イツキのことをジッと見てたり、ハラハラしていたりしていたさ。もしかして、付き合ってるのかなと思ったさ」

「そ、それは……イツキさんのサポート役なので……」

「ふふっ、サポートだけなら、そこまで行かないよ? 彼は全く聞こえないって聞いたさ。サポートならサポートして、はい、終わりという流れが多い世の中さ? でもさ、ユアの場合は、最後まで見てあげようとしているように見えるんだけどさ」


 ドラセナは、納得しなさそうに首を傾けた。


「ドラセナ、それはね。ユアは自覚がないんだと思うよ。元々は、旅の聖女で大聖堂の神官だったんだから。困った人を助けることが当たり前だったからね」


 リフェルがそう言って、ユアを見つめた。――本当は好きだから一緒にいるんだよねと、1人でつぶやくリフェルだった。


「なるほどね。ありがとう! よく理解できたさ」


 あっさりと場を引いたドラセナは、場面を切り替えるように、自らの肌を見せる。


「私の肌を見てみな。一部に、竜のウロコ肌に見える? 人間族と見違えるほどの完全な姿になるには、進化か人化スキルをこなさないといけないさ。それが出来るのは、竜王様なのさ」


 確かに、ジグルギウスの顔は人間族と同じような姿だった。竜のような腕、蛇のような目をしていた。威厳のある身なりをしているが、人間族のような姿に変化ができる。

 ドラセナも、人化スキルの習得中だそうだ。


「土の大精霊獣様から直に教えてもらっているさ。知らなかった? 竜人国ドラへニアは、土の大精霊獣様が守護する国さ」


「初耳っ! 土の大精霊獣様と会ってみたい!」

「その時は、竜人国においで。歓迎するさ」

「ありがとう! ドラセナも人化のスキル見せて!」


 リフェルが目を輝かせながら言うと、ドラセナは笑った。


「見せるさね。ただ、尻尾だけは難しいね」


 人間族と同じように変化できる人化スキルを使ったドラセナは、竜の尻尾を除いて完全な人間しか見えなかった。

 それを見つめたユア、リフェル、ソフィは、


「「「うわぁ! 綺麗!」」」


 と、感嘆の声を漏らすのだった。

 ドラセナは言われることに慣れていないのか、照れるように手を振る。


「よせやい! 綺麗なんて、恥ずかしいさ」


 リフェルは、頭をピーンと思い出して、恋愛トークを熱くさせる。


「ねぇ! ドラセナは、どんな人が好きなの?」

「わ、私かい? 恥ずかしいから言えないさ。リフェルはいるのかい?」

「ん? あたしはイツキのことが好きだよ?」


 あっけらかんと答えるリフェルに、ドラセナは目を丸くした。


「どストレートじゃないさ……」


 ソフィは、思い出したかように人差し指を立てた。


「そういえば、モルドは、ドラセナのことをやけにアタックしてるわね」

「ソ、ソフィ……ち、違うさ?」


 ドラセナは、冷静に保つように応えているが、目だけ泳いでいた。さらに、果実酒を飲んでごまかそうしているようだった。


 ユアとリフェル、ソフィは理解できた。

 ――あ、この人は、モルドのことが好きなんだ……と。


 竜王ジグルギウスの護衛副団長の竜人族ドラゴニュートと虎人族モルド。あの2人から、よくアタックされているとドラセナは悩ませた。

 こうして女子会は、夜明けまで続くのだった。


 ◆ ◆ ◆


 一方、行きつけの酒場で、モルドとアレク、俺たち男同士で飲み合いをしている。

 出会った時に、俺が聞こえないことを伝えてから、アレクは必死に【念話】の習得を頑張ってくれた。湯気が出るほど覚えてくれたらしい。

 モルドは【念話】を使える男であった。若いアレクを弟分にように可愛がったおかげだ。


 やがて、俺とクー、モルド、アレク、男3人組1匹は、夜明けまで飲みまくり、語り合う。

 クーは、肉料理をガツガツと美味しそうに頬張っているので、そっとしておこう。


『イツキ、ぼくの国に来てね! 絶景だよ! 絶景!』

『絶景なんだ! 天翼国は、結構高いところなのかな?』

『そうだよ。ぼくの国は塔の上に住んでいるんだ』

『塔の上……もしかして、てっぺんが見えない塔のところ?』

『そうそう!』


 天翼国エルムグラーナは、ガイア大陸の西側にある天に突く塔の上にある。昇るのがしんどい場所であるゆえに、数十人の天翼族が俺たちを特別に国まで運ぶよとアレクは言う。


『行ってみたいね。今度、遊びに行くよ!』

『うんっ! 待ってるよ!』


 アレクは少年らしさの笑みを浮かべた。

 とたん、モルドは、エールをグイッと飲み干して、おかわり! とウエイターに注文した。

 ウエイターはうなずいて、離れていく間に、俺に問いかけてきた。


『なぁ、イツキは好きな人いるのか?』

『と、唐突ですね……』


 まさか、恋バナするとは。


『静寂の青狼のパーティって、おめぇと一緒にいる聖女と南星、赤いコートを着ている猫人族、さっきガツガツと食べている狼だろ? 男っておめぇ、1人だけだから、ぜってぇ好きな人いるじゃねぇか?』


『モルド! いるに決まってるよ! イツキはね、全員と付き合うんだから!』

『ああ、そうだなぁ。いいじゃねぇか! 羨ましいぜ!』


 アレクがそう言って、やけに納得するモルド。


『ちょっと待って! ちょっと待って!』


 なんで、全員なの!? と問うと、アレクは、ジューズを飲みながら語った。


『だって、天翼国は一夫多妻なんだ。ぼくの父上はね、15人の母親がいて、兄弟が32人いるんだ』

『多っ!』

『おいおい! すげぇな! オレ様は彼女募集中だぜ? 嫉妬しちゃうじゃねぇか! 付き合いてぇ女から返事がまだだしなぁ……――ぐびぐびっ』


 アレクに文句を言ったモルドは、やけになって、先ほど持ってくれたエールをすぐに飲み干した。


『一夫多妻と言っても大変だよ! 兄妹が多いから、どっちが上か争うんだ。一番上に立った人は、後継者として認められるから。ぼくは、上を目指しているんだ』

『さすがじゃねぇか。天翼国は強いヤツが多いし、うなずける話だぜ』


 そうだった。ここは日本とは違う異世界だ。

 価値観が、全く違うことをうっかりしたわ。

 モルドって付き合いたい人がいるのか。気になるな。


『モルドさん。好きな人って?』

『あ、ぼくも気になる! 付き合いたい人って誰なの?』


 モルドは、恥ずかしそうに頬にポリポリと掻く。


『ドラセナ……』


 アレクは瞬きした。


『えっ! 異種族恋愛!』

『異種族恋愛は珍しいのですか?』


 ドラセナは見た目は人間っぽいけど、肌の一部に竜のウロコ、竜の尻尾が生えていた。

 モルドの見た目は、虎の姿だけど、人間臭さがある。


 モルドは、違う違うと手を振った。


『異種族恋愛なんて、珍しくもないぜ? おめぇもソフィと言ったっけ。猫人族がいるじゃねぇか? なかなか綺麗な女じゃねぇか! お前が羨ましいぜ!』


 と、恨めしそうな目で見つめられたのだった。

 アレクは、笑った。


『あははっ! モルド! ドラセナから良い返事来るといいね! ――イツキ、そうだよね?』

『あ、あぁ。そうだね』


 俺は、モルドの恋愛を上手くできますようにと、ひそかに祈るのだった。

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