114話 王の密談

 イツキ一行は、百獣戦を無事に終え、後夜祭で楽しんでいる中――

 空も薄暗くなり、獣王レオンの居城は、やがて松明が灯され、明るく輝いている。

 とある円卓の間にて、各国の王のみの長い長い密談が続いていた。

 小人王国シャルロットの外交官が、各自に分けられている石板に魔法をかけ、発表していた。


「──というのが、現在の状況です。物価も変動が激しく、度重なる戦争に、魔族との争いが重なっていることもあって、景気があまり良くありません。民の不安も広がり、動きが鈍い模様です」


 レオンは、石板を見やりながらぼやく。


「ふむ、獣人国も以前と比べると減少しつつあるな……」

「はい。小人族としては、各国と協力して流通した方が長くはもつかと思います」

「そうだな。よく150年間持ちこたえたものだ」


 獣王レオンは、うなずいた。そして、集まった各国のトップたちを見渡す。

 これからの話す次の内容は、百獣戦の話題である。


「百獣戦は、今までよりにぎわっていたな」


 エルフの遣いは、うなずいた。


「ええ、今年の参加者は、結構強い人ばかりでした」


 レオンは、ニィと笑みを浮かべる。


「ああ、良い戦力になるだろう。すでに、80人ほどはオレに協力をすることが決まったぞ」


 マクスウェルは、レオンを見つめて問うた。


「獣王よ。獣人国は、今も軍事力を高めているところか?」


 レオンは、誇らしげにうなずいた。


「そうだ。すでに数万は超えている。――見せよう」


 キツネ耳の執事が畏まって、それぞれの石板に魔法をかける。

 各席の石板が白く光った。軍の増加率が分かる図が浮かび上がってくる。計画までも映し出されていた。


「――ということで、これなら北へ向かえる。各国の王たちよ、協力をお願いしたい。あの忌まわしき脅威を消し去るために!」


 レオンの宣言によって、連合軍の加盟の有無を投票させる。


 結果は――

 エルフの里は、連合軍の加盟。

 竜王国ドラへニアは、援軍を見合わせる。

 天翼国エルムグラーナは、辞退。

 他国は、保留か武器・兵站の提供だった。


 レオンは眉をひそめて、あおるように声を上げる。


「おいおい、保留が多くないか? 我々獣人族を守るつもりはないのかよ。もしかして、魔王を恐れてるのか?」


 竜王ジグルギウスは、呆れたように頭を振った。


「そうもいうな、レオンよ。悪いが、余はこれ以上、兵士の命を無駄にしたくない」


 レオンは、笑った。


「はははっ、オレは勇敢な王だと言いたいのか? 1つ言うが、人間族からも援軍くれたぜ?」


 エルフの遣いが問うた。


「レオン陛下、それはどの国でしょうか?」

「アローン王国、グロモア連合国軍だな。どうやら、フレイ帝国は単独で行くそうだ。ああ、ドワーフ王国は、武器だけ提供してくれる」


 レオンの言葉に、マクスウェルは、困ったような顔で問いかける。


「獣王よ。大戦を起こすつもりなのか?」


 レオンは、そうだ! と頭を下に振る。

 マクスウェルは、呆れたようにため息を吐いた。


「北は、恐ろしい存在だぞ? 余は、150年前の繰り返しはしたくない」


「マクスウェルよ。今は密談の場だ。ここだけ言うが……天星であろう方が恐れるのは、魔王はそこまで強いのか?」


 マクスウェルは、鋭い目でつぶやくように答える。


「そうだ。余は、長い目で見てきた。無駄な争いを避けるべきであろう」


 レオンは、ふっと冷笑するように反論した。


「長い目? それは嘘だな。戦いたくないだけだろう? 世界を支配できるほどの力を持つ貴様が言うのは、オレにとっては信じられないが」


 マクスウェルは、目をつむり、深くため息を吐いた。


「もういい。我が国、天翼国エルムグラーナは……辞退する。獣王よ。復讐するつもりであろう? それを我々に巻き込ませるつもりなのか?」


 レオンは、クククっと笑い浮かべる。


「世界を守るためだ。オレの祖父は行方不明に、親父は魔族によって殺された。それでも、獣王国は誇りを失うことはない!」

「それは自業自得ではないか? 攻めたのは、連合軍ではないか?」

「マクスウェル。貴様は、150年前のことを知っているのか?」

「ああ、知っている。だからこそ、余は、無駄な争いだと何度も言っているであろう?」

「教えてくれ! 当時は何故、オレの祖父は行方不明になったのだ?」


 レオンは、マクスウェルの警告を無視して、じっと見つめた。

 圧倒的な力を持つマクスウェルの前でも、恐れず立ち向かって問うレオンの姿だった。


「……それは知らん。余はその場はいなかったのだ」

「本当だろうな? 何千年も生きる貴様が……」


 マクスウェルは、無言でうなずく。レオンは、ため息を吐いた。


「答える気はないか。では、マクスウェルにもう一度聞く。貴様は、世界を救うことを放棄するつもりなのか?」

「そうではない。北の存在は、獣王が思うよりもずっと強大だ。我々が行っても束にならん。そもそも倒せたとしても、新たな争いが始まる。支配者が消えたら、次の支配者を狙う輩が増えるぞ」

「なら、オレが支配者になればいい。そうだろう? フレイ帝国こそ、世界を支配しようとしていると聞く。対抗すればいいではないか」

「ふっ、80年も満たない若造が支配者になるだと? ふざけるのは大概にせよ!」


 マクスウェルが声を荒げた。そして、もう1人が手を挙げた。

 竜王ジグルギウスであった。レオンを見つめて不機嫌そうに言う。


「獣王よ。余はしばらく考えたが……連合軍加盟は、やはり辞退することにした」


 レオンは、信じられないと顔を浮かべた。


「ジグルギウス……オレたち獣人族のことを見捨てるつもりなのか?」


 ジグルギウスは、頭を振った。


「そうは言っていない。余が言いたいのは戦力不足だということだ。仮にも魔王だぞ? 勇者不在で攻めるなんて自殺に等しい」

「勇者は……今は、いるのか?」


 レオンが問うと、各国の王たちは分からないと頭を横に振った。

 小人王国シャルロットの外交官は、双方の威圧感に冷や汗を掻きながら意見を出す。


「恐れながら、わたくしめの考えといたしまして、百獣戦で優勝した無音の魔導士こそが、勇者ではないでしょうか? 南星の剣聖を打ち勝った彼の魔力は膨大で、まだまだ余地がありそうでした」


 レオンは、はっとするように小人族の外交官に振り向いた。


「確かに、彼の力を見ると勇者に相応しいだろうな」


 巨人族の王が、つぶやくように言う。


「彼を協力してはいかがでぇすがな?」

「巨人王、珍しいな。ずっと寡黙だった男が答えるとは。

 ――そうだな。いい機会だ。二日後に無音の魔導士……いや、静寂の青狼というパーティとの引見がある。協力してもらおう」


 レオンは、不敵な笑みを浮かべた。

 かたや、マクスウェルは、やはりとイツキの無事を祈るのだった。

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