110話 準決勝

 俺とリフェルは、順調に勝ち抜いて進み、準決勝を迎えた。

 リフェルの対戦相手は、竜人族ドラゴニュートドラセナだ。


 ドラセナは、モルドと同じく名の知れた凄腕の格闘家であった。

 上位ドラゴンの爪で作り出された武器を装備している。その手甲で敵を突き出さし、振り下ろすと切り裂くほどの威力を持つドラゴンクローだった。

 剣聖と格闘家か。どんな戦いになるか、ワクワクするなぁ。


 ドラセナは、両方の竜爪を弾くように合わせて、不敵な笑みを浮かべた。


「拳術か剣術のどちらが強いか、試してもらうよ!」

「面白い! では、私も剣を抜かずに素手でやろう」


 リフェルがそう言って、聖剣を納める。

 ドラセナは、目を丸くした。


「なんだって! 見下すのもほどがあるよ!」

「こう見えても、私は体術も極めているぞ?」

「あはは……呆れを取り通して恐ろしいね。七星王ってのは」


 威厳のある態度で誇るように言うリフェルに、ドラセナは呆れ返っていた。


「前回の大会で準優勝したドラセナ選手と、南星の剣聖リフェル選手! 双方の戦いはどんな展開になるぅ!? ではっ、始めぇっ!」


 ──カァァ──ン!


 ララの合図でコングが鳴ったとたん、リフェルが先制に、ドラセナの腹あたりに狙いさだめ、拳を込めた。


「効かないよ! ドラゴンボディ!」


 ドラセナはとっさに、銀色輝くウロコのようなものが全身に覆われ、防御した。

 リフェルの渾身に放った拳でも、竜の硬さには届かなかった。反動を受けたのか、リフェルの素手に血が流れていた。

 リフェルは、素手をブラブラと振りながら言う。


「これがドラゴンボディ……竜人族ドラゴニュートの固有スキルだね!」

「ふっ! リフェル、行くよ!」


 ドラセナが反撃した。ドラゴンクローを火属性魔法で付与させ、手甲に炎がまとっていく。


「くらえぇぇぇいいい!!」


 ドラセナが吠えた。怒涛のラッシュで攻めていく。

 だが、リフェルは、上手くかわしながらも目を輝かせている。当たらなければ意味がないよ、と伝えている目だった。

 かたや、ドラセナは、悔しそうな顔になっていた。


 そんな双方の戦いが繰り広げられ、轟音と煙が舞い上がっている中、やがて、リフェルが勝利を確定したかように言った。


「ドラセナっ! 私の剣聖術を応用した体術を魅せてやろうっ!」


 ドラセナは、リフェルの気迫を受け、身構える。


「ッ! 来いっ!」


 リフェルが目にも止まらぬ【神速】を繰り返し、残像のように分身した。そして、圧倒的な力に危険を感じたドラセナは、【ドラゴンボディ】をさらに強化し、身を固める。


「ぐぼぁっ!」


 だが、あっけなく吹き飛ばされ、場外へ落ちていった。

 ドラセナの固有スキル【ドラゴンボディ】で防御できても、爆風のように放ち、場外へ飛ばす方法なら通用するか。

 試合のルールを上手く利用すれば勝てる、とリフェルは考えていたんだろう。


 ララが、声を張り上げる。


「おお――っ! リフェル選手の勝ちぃ――!」


 観客までも会場が響き渡るほど、歓声があがった。

 ユアとソフィ、クーも、リフェルに声援を【念話】で送る。


『リフェルさん! すごいですね!』

『決勝進出だわ! おめでとう!』

『すごいよ──!』

『みんなっ、ありがとっ!』


 リフェルは手を振って、【念話】で返す。続いて、俺に後押しするような視線を向けた。


『イツキ! 次の試合がんばって!』


 俺は、微笑んでコクリとうなずいた。


 ◆ ◆ ◆


 次の試合は、天翼族アレクだ。


「さあ――! 次は無音の魔導士イツキ選手ぅ――!」

「「「イツキぃー!」」」


 ララの声に俺が登場したとたん、観客からの歓声が身体に響くほど上がった。


 緊張するなぁ。歓声をこんなに浴びるの生まれて初めてだよ。


「次は、天空の支配者である天翼国エルムグラーナから来た天翼族アレク選手だぁ――!」


 アレクは、やや茶色い翼を大きく広げて、一気に飛び、観客にかっこよく決めた。

 ビシッと俺に指し、子どもらしい振る舞いを見せるアレクに、何て反応すればいいのか困った。


「用意はいいっ? はじめぇ! どんな戦いを魅せてくれるのかぁ――!」


 ララが合図出したことに、はっとアレクを見つめる。

 アレクが、手をクイクイと招くように挑発してきた。


「来いよっ! イツキっ!」

 

 アレクが大きく口を開いて叫んでいたおかげで、読唇術で読み取れた。


 初手は、こっちから仕掛けるか。

【元素魔法:フレイムバースト】を唱え、大きな炎の渦をアレクへ放った。

 だが、アレクは、一瞬で空へ避けられた。飛んでいくアレクから魔力が、一気に膨れ上がった。


「くらえ! ウイングブレス!」


 背の翼が大きく羽ばたき、風を引き起こした。竜巻のような突きが迫ってくる。


 よし、サラキアさんに色々と教えてもらった新しい魔法を使ってみるか。

 あらゆる防御魔法を組み合わせた複合魔法であるオリジナル魔法、【防御魔法:万能障壁プリズムウォール】を展開した。

 物理的に防御する障壁と、魔法攻撃を防ぐ障壁を何枚も重ね合わせた防御魔法。

 つまり、万能障壁プリズムウォールへ進化させたのだ。

 青、白、紫、赤、黄……虹のようにきらめく膜のような障壁を生み出し、身のまわりに包まれていく。

 強度レベルは自らの魔力に影響するけれど、ないよりはあった方がいい。


 これまでの自信のあった防御魔法は、レヴィアタンに破壊されたし、何とかしたいと、サラキアさんに色々と相談した。


《ほう、それはいくつかの障壁を複合すればいいのかえ? 二つの防壁をそれぞれ張るのは効率悪いと思うぞ?》


【物理防御魔法:エレメンタルウォール】と【魔法防御魔法:ガーディアンウォール】を同時に詠唱するのは、確かに効率が悪く、二度も手間がかかる。

 1つにまとめるのは、とても難しかった。

 だが、叡智様とサラキアさんと協力してくれたお陰で、最上位をより昇華させることに成功したのだ。


 アレクが繰り出した竜巻が、自ら張った万能障壁プリズムウォールとぶつかり、弾いていくとともに、竜巻の威力がガクンと減っていく。

 トーステ大迷宮で以前に大悪魔アークデーモンカイムが放った【暗黒結界ダークネステリトリー】を参考に、魔力も吸収する役割も加えてみたのだ。


「――――! ――□◇っ!」


 目の当たりの光景にアレクが、驚愕を染めた顔つきになり大声を上げていた。

 何やら言ってること分からないけど、かなり驚いているな。


 実況ララが叫び、ギャラリーの声までも俺に届いた。


「ええ――っ! 何ですかっ! うっとりするような、きらめいている障壁はっ! 初めて見ますぅ!」


 観客もどよめいた。


「なんだ! この魔法は! 見たことないぞ」

「なんてことだ。複合じゃと! これはありえん……」


 俺は【元素魔法:ウインド・ガスト】を無詠唱で唱えて、まだ飛んでいるアレクを、もぐら叩きのようにたたきつけた。


「――! ――!」


 上からの風撃に、アレクは、顔を歪みながらも踏ん張っている。

 それでも容赦なく、連続で攻撃しまくった。


「おぉ、お、鬼だ……。無音の魔導士はスパルタなのかぁ!」


 ララさん、スパルタじゃないって。

 いや、ユアさんのお陰かもしれない。ユアさんは教鞭の鬼だからね。

 うん、大丈夫。割り切ることにしよう。


 力尽きたのか、アレクは地面に直撃し、身代わり人形が砕け散った。


「あっと! アレク選手っ、撃沈――っ! 無音の魔導士イツキ選手の勝ちだぁ――!」

「「「うぉぉぉぉ――!」」」


 観客もビリビリするほど、沸き上がった。

 キャーキャーと歓声を上げるララの隣で、解説者バングが静かにつぶやく。

 

「あの防御魔法は見事ですね。とはいえ、かなりの魔力を消耗しているはずです。余裕で次々と魔法を唱えるとは、彼は膨大な魔力を持っていますね。実に恐ろしいものです」


 ◆ ◆ ◆


 空がオレンジ色に染まっていき、終了の火の柱が立ちあがった。


「みなさぁん! 告知でぇす! 明日の決勝戦は、無音の魔導士と南星の剣聖ですぅ! 歴代の百獣戦の中で、いっちばん、熱くなりそう! ぜひ、お楽しみに!!」


 次の試合は決勝戦だ。対戦相手は、結局は、南星の剣聖リフェルとなった。

 ユアのいるVIP室に向かおうと振り返ると、虎人族モルド、竜人族ドラセナ、天翼族アレクが待ってくれた。


「ちっ、さすがだ。静寂の青狼はバカみてぇに強いぜ!」

「リフェル! 次は負けないさ!」

「イツキっ! 強すぎるよっ!」


 モルドとアレクは固く握手し、その場で別れ、ドラセナと一緒に、ユアのいるVIP室へ向かった。


 入り進むところ、ドラセナと同じ強そうな人たちが何人か立っていた。その中心に、巨漢と思わせる壮年の男性がどっしりと座っていた。

 竜のウロコのような銀色の肌に、碧に輝く鎧をまとっていて、金銀の細工が上品さに感じさせる。


「無音の魔導士よ、いや、イツキよ。余は竜王国ドラへニアの王である。ジグルギウスだ。

 余の配下のドラセナが世話になってるな。ともあれ、決勝へ進出おめでとう。イツキとリフェルよ。余はお前たちの戦いに感心した」


 竜王ジグルギウスから称賛を浴びた俺たちは、照れるように頭を下げた。


「無音の魔導士と南星の剣聖……最強の二人じゃ、百獣戦なんぞ、へったくれではないか!」


 と、ジグルギウスはガハハと笑う。

 どうやら、ユア、クー、ソフィがいるところは、竜王国のトップぞろいのVIP室であった。

 ユアが、チクっとするように尋ねた。

 

「ドラセナさんは、何者なんですか?」

「私はね、護衛なのさ。――竜王直属護衛団の団長さ。リフェルに負けた私は、説得力ないけどさ」


 ジグルギウスは、落ち込んでしまったドラセナをなだめる。


「ドラセナよ、何を言う? 相手が悪かっただけだ。仮にも南星だぞ? お前は素晴らしい働きをした」

「陛下……畏れ多いお言葉、ありがとうございます」


 ドラセナは、涙目で深く頭を下げた。



 明日の決勝戦に控えて、早めに宿屋へ戻ろうとしたとたん、アレクが宿屋の出入り口で立っていた。


「やぁ! イツキ! 僕の父上がイツキとお話ししたいって言ってるんだけど、来ていただけるかな?」


 いったい何だろう。まさか、怒ってるんじゃないよね? 我が息子をよくもやったなとか……。

 俺たちは、ちょっと心配しながらも、イエスとうなずいて、アレクのあとについていった。

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