106話 冒険者ギルド
獣王国の正門に到着したとたん、ソフィが俺たちに振り返って、元気な声を上げる。
「みなさん! ここが獣王国ベスティリアと呼ばれる国よ」
にぎやかな国だった。
土で作られたレンガや石で積み上げたような建物が建ち並んでいて、古代エジプトのような風景であった。
ガッチリとした肉体で、たくましそうな熊耳の男性が、台車で武器を運んだりしている。
バニーガールのような長い兎耳の女性も、野菜や食材の入った樽を手に持って運んでいた。
犬っぽい耳をした子どもたちが、丸くて小さなものを蹴ったり、投げたりしてキャッキャッとはしゃいでいた。
めちゃ興奮しています。猫耳、犬耳、うさ耳とか結構多い!
「ユアさん、ここの国って、さすが獣人族の国だよね」
「可愛らしい子どもたちが多くて、微笑ましいですね」
「ここ暑いね! 男女問わず肌の露出がすごいね! みんなは恥ずかしくないのかなぁ」
リフェルは、興味津々で獣人族たちを眺めていた。
クーは相変わらず、ハッハッと舌を出している。
『クー、水だよ』
そう言って、水瓶を差し出したとたん、突っ込んでゴクゴクと水を飲むクー。
ソフィは、俺たちを見て微笑んで言った。
「ふふっ、この国はね、力のある者が頂点として統べているの。今は百獣王レオン様が王として治めているわ」
レオンという獅子族が君臨する国であり、他に熊人族、兎人族、猫人族や
数多の種族が多く住んでいるゆえに、ガイア大陸の中で最も広大な国家なのだそうだ。
「さ、冒険者ギルドへ行きましょう」
ソフィの案内で、道を歩いて、やっと冒険者ギルドにたどり着いた。
やや赤みを帯びた石積みの2階建ての建物だった。
入ったとたん、ひんやりとした空気が、火照った身体を冷やしてくれた。
外は暑かったのに、中は涼しくて居心地がいい。
見渡すと、古代エジプトの王宮かと思わせるほど、広々としたホールであった。
床面に茶色いタイルが一面敷いていて、端っこにソファがいくつか並び置かれている。そこに様々な種族が座り、笑い声や話し声が、ユアの【共有念話】で分かる。
リフェルとソフィは、ホールにあるソファで待機してもらうことになった。
クーも、ひんやりとした床でうつ伏せになっていた。気持ちよさそうな顔で寝そべっている。
俺とユアは、奥にある受付のところへ歩いて向かうと、2人のうさ耳の可愛げのある女性が、歓迎するかような笑みで頭を下げた。
「いらっしゃいませ、獣王国ベスティリアの冒険者ギルドへ。何か御用でございますか?」
「討伐した素材を売却したいのですが……」
そう言って、これまで討伐した素材を渡す。
Bランクのデザードワームの素材、帝国での戦争で討ったAランクのヘルバウンドの爪と牙、幻獣キマイラの素材だ。
うさ耳の受付嬢2人が、目を丸くした。
「えっ、ほとんどAランクじゃないですかっ!」
「すっ、すごいっ!」
場がざわざわとした。
その時、1人の女性が歩み寄ってくる。
「やぁ、私は
ドラセナという女性は、瞳はヘビのような目をしていて、肌の一部が白い鱗のように覆われていて、美しき戦乙女だと思わせるほどの女性だった。
ドラセナがまじまじと俺たちを見つめて、うんうんと振った。
「あんたたちなら、百獣戦に参加するといいかもね」
「ひ、百獣戦?」
「素材の換金が終わったら、こっちに来て。案内するよ」
首を傾げたが、とりあえず、換金の手続きを済ませて、うさ耳の受付嬢から報酬を受け取った。
◆ ◆ ◆
ホールに並ぶソファで、ドラセナから百獣戦について教えてくれた。
百獣戦は、獣王国における大きなイベントである。
予選はバトルロワイヤル形式で、勝ち抜けた者はトーナメントへ進出するそうだ。
なお、優勝者は、報酬だけでなく、なんと百獣王レオンに謁見し、願いを聞いてくれるとのことだった。
参加者は、国内外からも結構集まるらしい。一族の名誉にかけて優勝を狙う者、実力や成果を試したい者、百獣王の側近を狙う者など色々な目的があるそうだ。
ドラセナは、ソファにもたれかかりながら言った。
「どうだい? みんななら、予選突破できると思うよ」
うーん、確かに自分の実力を図りたいし、挑戦してみるのも悪くない。
そう考えたとたん、リフェルが挑戦者のような目つきで声を上げる。
「イツキっ! あたしも参加したいっ! だから、イツキも参加しようよ! イツキと戦いたいし」
「リフェル……じゃあ、俺も参加するか。ドラセナさん、参加します」
ドラセナにそう言うと、ニカッと笑った。
「いいねぇ! あんたたちと、ぜひとも戦ってみたいもんだ。──それと、ユアとソフィだっけ? あんたたちも参加するかい?」
ユアとソフィは、頭を横に振った。
「いえ、私は観戦しますね。イツキさんの戦いを見たいですから」
「ワタシも観戦でいいわ。イツキとリフェルの戦いぶりを見たいわ」
ドラセナは、残念そうな顔を浮かべた。
「そうかぁ。ま、仕方ないさ。 ――二人とも、観戦する席についてだけど、私の席のところにする?
あんたたちと同じ観客席にしておくの、どうだい? 私の仲間たちがいるから安心だよ」
ユアとソフィは、一礼した。
「ドラセナさん、助かります」
「ワタシまでも、手配してくれるんだ? 嬉しいわ!」
クーがちょんちょんと前の右足で、俺につつく。
『ご主人様! ボクも参加できるかな?』
そういえば、従獣魔の場合はどうなんだろう。
「ドラセナさん、俺の獣魔は個人として参加はできますか?」
ドラセナは頭を振った。
「あ――、ダメなんだ。獣魔とか精霊は参加できないんだ」
耳にしたクーは、ガックリとうつむいた。
ドラセナは苦笑いして、クーの頭をポンポンとなぐさめる。そして、俺たちに言った。
「善は急げだね。案内するからついてきな」
そうして、俺たちはドラセナと共に受付会場へ案内されるのだった。
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