81話 フレイ帝国の港
太陽が山をのぞかせ、辺り一面が明るく照らしてきた頃、俺たちは馬車を走らせて、フレイ帝国の港へ向かっている。
「フレイヤさんからもらった許可証って……。フレイヤさんって、一体何者なんだろうね」
俺は、手に持っている羊皮紙を見つめて言った。
その羊皮紙は、グリンブル亭から発するとき、フレイヤさんから頂いた乗船許可証だ。達筆な文字で書かれていて、フレイ帝国の紋章が押されている。
国外の者がフレイ帝国の港から船に乗る場合、貴族クラス以上、あるいはギルドマスターから乗船許可証を頂かないと乗ることができない。
フレイ帝国の入国許可証と同じように、偽りがあると殺処刑される。
それなのに、フレイヤが書く権利があるのはどうしてなのか、首を傾げたのだった。
「やっぱり、どこかで見たことがあるわ。ぐぬぬ、思い出せないや……」
思い出そうと頭を抱えるリフェルは、やはり、フレイヤのことを気になっていた。
港に辿り着くと、貴族や商人、冒険者や旅人たちが、大きな定期船に向かって、長い行列をつくっている。
俺たちは、あまりにも長い行列の光景に、目を瞬いてしまった。
「すごい行列だね……」
「ええ、数百人ほど並んでますね」
船に入るには検問が必要らしく、並ばないといけないようだ。俺たちはひとまず、大行例の後ろに並んだ。
俺たちの番が来るまで、リフェルが乗船許可証の羊皮紙を見つめては、神妙な顔つきになった。
『フレイ帝国からアローン王国行きの船までも、許可いるのがおかしいと思うんだよっ!』
『恐らく、乗船客のほとんどがフレイ帝国の人なのかもしれませんね。念のために、船の上では共有念話でのやりとりだけにした方が無難でしょうね』
『そうだね。そうしよう』
1日でも早く、フレイ帝国から離れたいものだ。
かなりの時間が経ったが、いよいよ、俺たちの番に回ってきた。
検問員が俺たちを見つめて、手を挙げる。
「君たちは……フレイ帝国の者じゃないね?
乗船許可証はあるのかい?」
「はい。あります」
俺はそう言って、フレイヤから頂いた乗船許可証を見せた。
「ふむ、問題ないな。入ってよし!」
あっさりと通してくれた。
ますます、フレイヤさんの謎が深まるのだった。
馬車は【時空魔法:次元収納】にしまい込んでいる。ただし、2頭の馬は、定期船内にある馬小屋へ預けておいた。
フレイ帝国からアローン王国へ向かう船は、世界を一周するのかと思うほどの大きさだ。広々としたデッキもあり、部屋までもランクによって分かれていた。
まるで、豪華客船のようだ。
船首には、剣を天に向けて掲げる皇帝フレイの像が建つ。像の真下には、左右にルビンのつぼのような形をした
その聖水は、海に潜む魔物や水獣などを寄せ付けない効果がある。
乗船口に、パーサーらしき船員が俺たちに畏まるように一礼した。
「ようこそ、我が帝国に誇るガオレイ号へ。冒険者方々、お部屋までご案内いたします」
船員の案内で部屋へ向かうと、6人は過ごせるぐらいの広さの部屋だった。
4人の相部屋。四角い小さな窓に、2台のシンプルなソファがある。2段ベッドが2台置かれていて、光を遮るようにカーテンも施されていた。
そんなイツキ一行は、ソファに腰掛けて、のんびりと過ごす。
「これでイシュタリア大陸は、ひと回りした感じかな」
第一声を出した俺に、ユアとリフェルがうんうんとうなずく。
「アローン王国の暗躍事件とか、ドワーフ王国で火の大精霊獣フェニックス様とご対面、トーステ大迷宮でヒュドラと戦ったり、グロモア王国で剣聖フリードと会ったり、グラマスとディナーとか、すごく刺激的な出来事だったね」
リフェルが、色々と思い出すような顔つきで1つ1つ、指で折っては数える。
俺はコクリと小さく頭を振った。続いて、ユア、リフェル、クーを見て思いふける。
女神が強引にアステルという世界に転移されて、ユアと出会ったこと、
そして、シーズニア大聖堂からの依頼先でクーとの出会い、
アローン王国の滅亡を企てた魔族を討ち果たしたことがきっかけで、リフェルとの出会えたことを思い出す。
何もかも不思議な出会いだった。
ただ、1つ不安がある。
トーステ大迷宮のダンジョンコアの間で、現れたアークデーモンのことだ。あのカイムという大悪魔が、最後に言っていたあの言葉……。
【我が主のために魂を捧げているのだ】と。
これからも狙われる可能性がある。
カイムは、兄であるカイリを討ち果たした剣聖フリードのことを復讐しようとしていた。カイムを倒したことで、カイムに関係する者が俺を復讐しようとするだろう。
俺は強くなって、ユアとリフェル、クーを守りたい。気を引き締めて、心にそう刻んだ。
ユアが俺を見つめて微笑んだ。
「イツキさんも前と比べて、顔つきが明るくなってきていますよ」
ユアがそう口にしたことで、リフェルが目を輝かせる。
「あ、そうそう! イツキって最初会った時は誠実そうだなぁと思ったけど、だんだんと明るくなってきているよ!」
「あ、そうかなぁ……確かにそうかもしれない」
日本にいたころは、人間関係にすごく悩んでいた。
あまりにも悩むことが多く、人と会話を楽しめていなかった。その積み重ねで自分の殻にこもってしまったのかもしれない。
だが、アステルの世界に転移されてから、念話とか魔法とか色々身につけたり、ユアと念話したりしてきた。
それが段々と自分の殻にこもったものを突き破ることで、本来の自分が戻ってきたのだろう。
でも、それはユアとリフェル、クーのおかげだ。
大聖堂の神官であり聖女でもあるユアは、俺に【共有念話】を使って、話が分かるようにしてくれた。
南星の剣聖リフェルは、熱きムードメーカーだ。
神狼フェンリルの子であるクーも、甘えてはパーティを癒してくれる存在。
俺は本当に恵まれているんだと、心に強く思った。
「ありがとう。みんなのおかげだよ。これからも、みんなと一緒にいたいと思う」
俺がそう口にしたことで、ユアとリフェル、クーは当然! と嬉しそうな笑みを浮かべた。
「当たり前でしょう。イツキさん、私も共に歩みたいと思っていますから」
ユアが本音を吐いたことで、俺は少し赤くなった。
「ありがとう。ストレートでびっくりしたよ」
ユアは一瞬、小首を傾けたが、自分の言ったことを悟ったのか、恥ずかしくなる。
「あっ、あ、あ~~、今の忘れてください! ごめんなさい。忘れてください!」
座り込み、顔を手で隠してしまうユアに、俺は忘れるものかと追い打ちをかけた。
「ユアさん、嬉しいです。心の支えになっていますし、これからも一緒だよ」
「っ! ありがとう……嬉しいです」
ユアはパッと俺を見やり、乱れた茶髪を整えるように、ごにょごにょとした。
「もちろん! あたしもイツキと、一緒だから!」
『ご主人様! ボクも一生、一緒だからね!』
リフェル、クーまでも、ねぎらいの言葉をおくってくれた。
この世界に転移して、素晴らしい仲間と出会えたことに、感謝の気持ちがいっぱいになる。
そんな仲間と一緒にいることで、苦難を乗り越えられると改めて実感するイツキだった。
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