第6章 フレイ帝国
79話 フレイ帝国入国
静寂の青狼パーティはグロモア王国を後にし、フレイ帝国へ向かっているところだ。
グロモア王国からフレイ帝国までの道のりは、3週間ほどの距離だった。
リフェルの父君であるコンスリェロ国王から賜わった馬車は、本当に乗り心地もよく疲れにくい。
本当にありがたい。アローン王国に戻ったら、何かお礼しよう。
「戦争とかそういう争いがあったね……」
旅の途中に、フレイ帝国がグロモア連合国の1つ、ゴア王国との戦争をしていた跡があったのだ。
戦いの果てに、命を絶ってしまった両国の兵士たちがたくさん横たわっていた。
魔物が食料として横たわった兵士たちを漁っていた。また、
そんな魔物たちが俺たちに気付き、一斉に襲いかかってきたので、俺がトーステ大迷宮で覚えた【神聖魔法:シャイニング・ノヴァ】で、全てを消滅させた。
この世界では、死体をそのままにしておくと、アンデット系魔物が生まれてしまう。それゆえに、神聖魔法で浄化、あるいは完全焼却しないといけない。
目の前にガイコツの集団が押し寄せてくるなんて、怖かった。
緑一面の広大な森から通り抜けた俺たちは、フレイ帝国らしき街並みが見えてきた。
ユアは、向こうのフレイ帝国の街並みを眺めて言った。
「フレイ帝国は覇権主義帝国なので、あまり長く滞在しない方がいいです。フレイ帝国にもアローン王国行きの港があります。長居せず、向かう方といいかと」
「あたしも思うよ。昔からああいう国だからね」
グロモア王国からアローン王国までの道のりは、3ヶ月ほどかかる。だが、フレイ帝国の港にあるアローン王国行きの定期船で向かうと、2ヵ月ぐらいに短縮する。
確かに、1ヶ月の差は大きい。それならば、フレイ帝国に行く方がより早いだろう。船の乗り継ぎでアローン王国から、ガイア大陸にある小人王国シャルロットへ行く予定なのだから。
どうしてアローン王国までも、フレイ帝国と貿易しているのか、王女でもあるリフェルに尋ねた。
「あたしの国とフレイ帝国との繋がりはね。商人の繋がりが大きいよ」
「商人の繋がり?」
やはり、アローン王国もグロモア連合国と同じなのだろうか?
だが、リフェルは違うと頭を横に振った。
「商人ギルドの繋がりだよ。あたしの国の商人ギルドマスターが帝国の裏に詳しいみたいで、阻止力として繋がりを作ったんだ。
そうすることで、フレイ帝国があたしの国まで支配しないと誓約書のサインをとったんだ」
リフェルによると、フレイ帝国は当初、アローン王国にもフレイ帝国の支配領域に入れようとした。
だが、国同士の交渉を重ね、利害関係による交互理解に落ち着いたらしい。
もしかしたら、アローン王国の交渉が上手く行ったのかもしれない。
いや、経済力が高い国同士。テーブルの話し合いで互いに利になることを、上手くアピール出来たからだろう。
俺は国王でも貴族でもないから、政治に疎いので混乱しそうだ。みんな、それぞれ役割があって大変なんだろうな。
やっぱり、俺はシーズニア大聖堂の近くの村で、ありのままに過ごす方が気楽だろうね。
◆ ◆ ◆
フレイ帝国は、異様な国だった。
白い漆喰で塗ったかような壁が覆われていて、高くそびえる塔が連なっているような外見をした王城だった。
王城の周辺にも塔のような城が二重、三重と囲むように建ち並んでいた。要塞なのか、沢山の小窓が設けられていて、いかにも頑丈そうだった。
街も真っ白な街並みで明るい感じがするが、王城へつながる道も、城下街へつながる道も限られていて、いくつもの凱旋門が建っていた。
最後の凱旋門をくぐって、やっと城門にたどり着いた。
威厳を放っている城門に、帝国兵らしき門番が立っている。鋼鉄製の鎧をまとっているのか、素顔が見えないほど、深い兜を被っていた。
口まで覆われていて見えない。これは、口の形を読みとって話をつかむことができない。
──うーむ……これでは読唇術が難しいな。
「帝国に入るには、許可証を見せてもらおう」
だが、ユアの【共有念話】のおかげで、門番の言っていることが分かった。
俺はグランドマスターのラグナから頂いた入国許可証を、門番に見せた。
「ほう……! グランドマスターからの者か! これは信用できるな」
門番の兵士は頑丈そうな扉を開け、俺たちを通してくれた。
フレイ帝国には、他国の密偵が潜伏することがあるらしく、他国からの商人や冒険者には、まず入国拒否するそうだ。
貴族クラス以上、あるいはグランドマスターや外交権を持つギルドマスターからの入国許可証がないと、入国できない。
例え、通行証が偽造だったり、ギルドマスターが密偵を手助けしたと判明したら、連帯責任としてギルドマスターまでも殺処刑されることになる。
恐ろしい国だと感じた。
今は戦争に出陣しているからなのか、ひと気がなく、見回りの兵士、王城を防衛する騎士しかいない。
ユアは民衆の噂を耳にし、ホッと胸を撫で下ろした。
「皇帝はどうやら出陣しているみたいですね。運が良かったと思います」
しかし、到着した時はもう太陽が完全に沈んでいるため、薄暗い。
定期船はもう動いていないので、明日の朝に出発することになる。
「1泊、泊まってから明日に港へ行こうか?」
そう言うと、ユアとリフェル、クーがうなずいた。
フレイ帝国の中心にある大きな道路には、石で組み合わされたいくつものの帝国の紋章のモザイクストーンで敷かれていた。
炎のような模様に、上部には剣が3つ交互に合わせたような紋章だ。モザイクストーンが王城まで続き、坂道や階段は、真っ白な漆喰塗りとなっていた。
ある宿屋へ向かい、思わぬ展開に俺たちは困惑した。
俺は【クリアボイス】を使って一泊したいと宿屋の受付にお願いしたのだが、受付の男性は険しい顔で言った。
「お前は、無音の魔導士か? 静寂の青狼はお断りだ」
宿泊拒否されたことに俺たちは、怪訝な顔つきになる。
「なぜですか?」
「理由か? それは自分で考えるんだな? 次の客が待ってるのだから、早く出てけ!」
冷たい言葉を言い放つ受付の男性が、シッシッと追い払うように手を振った。俺たちは、不愉快な気持ちになった。
気持ちを切り替えて、別の宿に探そうとしたが……
「ヒュドラ討伐果たした無音の魔導士か。英雄でもすまない。別の宿に行ってくれ」
「あんたは無音の魔導士なのね。ごめんだけど、宿泊してもらうわけにはいかないねぇ」
「ここは無理だ。後ろにいる可愛い少女2人だけならいいが、お前はダメだな」
どの宿屋に行っても、断られてしまうのだった。
◆ ◆ ◆
皇帝フレイの石像が建っている噴水の広場で、俺たちは困惑していた。あまりにも冷たく、ここで文句を言うと、何かされるか分からない。
それゆえに、ユアの【共有念話】で話し合った。
『どの宿にも断られてばかりか……』
『静寂の青狼が有名になったからでしょうか』
『おかしくない? 戦争真っ最中だから、部外者はお断りなの?』
『ご主人様っ! ムカつくよ! あの宿をカチンコチンと氷づけにしたいっ!』
クーはプンプンとしていた。
『やっぱり悔しいな。泊まる宿もないなら、野営しかないか……』
前の日本でも、似たようなことは何度もあった。今回のは、さすがにこたえるな。
途方に暮れるその時、フードを被った怪しい人影が、俺たちのところに来ていることを【気配感知】で、察知した。
『誰か来るみたい』
ユアとリフェル、クーはうなずき、密かに警戒しつつ身構えた。
「すみません。あなたたちは静寂の青狼ですか?」
声をかけられた俺たちはイエスと答えると、フードを被っている女性は悲しげに小声で言った。
「ごめんなさいね。宿泊拒否されていたでしょう?
私のところへ泊まりに来てください。私のところなら安全よ」
思わぬ助けに、俺たちは驚いたのだった。
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