77話 訓練場
グロモア王国にある騎士団の訓練場に案内された。
壁に囲まれていて、とても広く、向こう先に騎士たちが剣術の訓練したり、フォーメーションの練習しているのが見える。
俺たちが訓練場に入った時、騎士たちから視線が集まってきている気がする。
あ、ぞろぞろと集まってきた。剣聖フリードだぞとか、見ものだなとか、楽しみにしているようだ。
とりあえず、俺はサン・オブ・ロッドを手に持ちながら構えた。
相手は言わずと知れた英雄である剣聖フリードだ。油断できない。
『ここが拙者が
フリードさん、気迫がすごい出ていますけれど……。完全に殺る気じゃないですか。
『フリードさん、あまり過激にならないで欲しいのですが……』
『たわけ! 拙者はお主に鑑定を使ったが、上手く隠しているな。
拙者は目が見えない。だから分かるのだ。ビシビシ伝わってくる。お主は膨大な魔力を持っているであろう?』
【念話】で言い放つ剣聖フリードは目が見えなくなった代わりに、周辺を感知する【魔力感知】と【気配感知】が飛躍的に向上した。
【隠蔽】スキルを使っても、見抜くことができるというのだ。
『そもそも、聖女ユア様とお転婆娘のリフェル殿と一緒にいる時点で、おかしいと思うであろう?』
剣で一本勝負はどうだ? と、剣聖フリードから勧められたので、コクリとうなずいた。
俺は見学しにきた騎士1人のところに向かい、
「すみません、剣を貸してください!」とお願いした。
「壊すなよ……」と騎士から剣を差し出してくれたが、保証は出来ないんだよね。
その時はその時で、弁償しよう。
防御魔法を展開しておこう。次いでに、神聖法皇国オブリージュの時、シリウスさんの指導で身に付けた付与魔法を唱えた。
付与魔法の1つ、【土属性魔法:アース】を無詠唱で唱え、手に持っている剣に付与させた。
剣が折れないようにするためだ。剣がみるみると、黄色く光り輝き始める。
はい! 黄色く発光をした剣の出来上がり!
見学にきた騎士たちに、どよめきが起こった。
「なんだとっ! 魔導士が付与魔法を扱えるのか。まるで、魔剣士じゃないか!」
「あれが無音の魔導士……」
リフェルとユアも、さすがイツキ! と感心した。
「イツキって、本当に何でもありだね」
「ええ、神聖法皇国にて1年間、シリウスさんの指導の中で頑張っていたんです。旅に困らないようにしてたようですよ」
フリードは目は失っていて何も見えないが、俺が剣に付与魔法をかけていると分かるようだ。魔力の色やレベルで感覚的に掴める。
そんなフリードは俺に【念話】で問うた。
『お主、やはり付与魔法を使えるのだな。して、何ぞ? 土属性魔法をなぜ、剣に付与させる?』
『借り物の剣ですし、壊れたら困るんですよ』
「ふっ、ふはははははははははっ!」
突然、爆笑するフリードに、騎士たちはなぜ、笑うんだと戸惑っていた。
騎士たちから見れば、イツキとフリードはじっと見つめているように見えるだろう。1人対1人のテレパシーのように【念話】で語り合っているのだから、騎士たちが困惑するのは当然だ。
『面白いな!! お主はっ! 良き友でありたいものだ』
刀を手に持って構え、俺に向け、【威圧】を放つフリード。
『剣聖フリード、いざ参る!』
その瞬間、剣聖フリードの姿が消えた。
──ガギィィン!
事前に【防御魔法:ガーディアンウォール】を展開したおかげで、防壁が俺を守ってくれた。
『ほう、拙者の神速には通じぬか』
やばい! 早すぎて見えなかった。
直ちに【永続補助魔法:エターナルブレイブ】を無詠唱で自らにかけ、強化しておく。
フリードを目掛けて、中位魔法の【元素魔法:ストーンパレッド】を無詠唱で展開する。
頭一つ分の大きさの土の塊が浮かび上がらせて、弾丸のように飛ばした。
だが、フリードは一瞬で避けた。当たりそうなのに、当たらなかった。
無駄のない最低限の動きで、滑らかに身をかわされた。
これが柔の剣術なのか。
『その通り、柔の剣術は魔力の流れを感づき、軌道を読むことも予測できる。魔導士とは、相性悪いであろう?』
じゃあ、これはどうだ!
先程の魔法をもう一度、【元素魔法:ストーンパレット】を沢山撃ち放ち、【元素魔法:アクア・ヴォル】を無詠唱で唱える。
2つを同時詠唱し、天には無数の岩石のつぶてが降り注ぎ、地には大きな水の渦に押し寄せる。
『ほうっ! 同時詠唱かっ!』
剣聖フリードはイツキが同時詠唱ができることに感心したかような表情を浮かべた。
だが、フリードはそれでも回避した。
その隙に俺はフリードに向けて斬りかかろうと、剣を振った。だが、振った軌道が違う方向へそらされた。
俺の振った剣の軌道の前にするりとするように、刀で軌道をそらす技を使っていた。
すごい! SSランクは伊達じゃないな。
リフェルまでも驚いた。
剛の剣術同士なら、リフェルの方が上だ。だが、それは、以前のフリードならばの話だろう。
今のフリードは柔の剣術であり、どんな強化された壁でも剣でも、見えない急所がある。それを狙えば砕けることができるのだ。それゆえに──
その瞬間、フリードが一閃を放ったとたん、俺は剣を盾がわりに受け止めた。
──ギィン! ボキッ!
あっ! 剣がっ!
受け止めた剣が折れてしまった。
貸してくれた騎士も、頭を抱えるように悲しみの叫びを上げた。
『ははっ。お主、やりおるな。これなら、フレイ帝国に行っても問題ないであろう』
納得したのか、剣聖フリードは刀を鞘に納めた。
あれ? 終わるの早くないですか?
『言ったであろう? お主の実力をはかりたかったのだよ。お主の実力は理解した。トーステ大迷宮で、ヒュドラを討伐した英雄とはお主だったのだな』
『え、どうしてわかるのですか? 情報が早い気がしますが……』
『拙者は、SSランクだ。そんな情報は朝飯前である』
SSランクは情報入るのが早いらしく、ギルドマスターでも畏まるほどだそうだ。
『フレイ帝国についてだが……。目が見えなくなる前は気にしなかったのだが、今は好かんのだよ。お主も行けば分かる』
剣聖フリードは言葉を区切って、鞘を押さえる。
『では、武運を!』と俺たちに励まし、この場から離れていった。
そして、俺は剣を貸してくれた騎士に、ごめんなさいとお詫びし、折れた剣を弁償したのだった。
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