76話 侍らしき男との出会い

 グロモア王国に滞在して、2日目になった。

 ユアとリフェルは2人一緒に、買い物に出かけた。俺はクーと一緒に、散歩をしている。

 街並みを歩くのが、楽しみの1つになってるんだよね。


『クー、ここは音楽とか流れているみたいだけど、どう?』


『うん! 居心地いいよ!』


 クーが喜んで何よりだ。

 補聴器の電池を交換することが出来るようになったし、まぁ、音楽が流れているのは分かるけど、何を歌っているのかは分からないんだよね。


 平らな石畳の道を歩くとき、侍のような服装を着ている中年の男性が飲食店から出てきた。

 杖で道路につついたり、足元辺りになでるよう交互左右していた。両目に包帯らしきものを巻いているが、歩き方は自然に感じられる。


 もしかして、目が見えない人なのかな?


 そう思いふける時、荒くれ者3人組がその人とぶつかってしまったようだ。

 ぶつかったとたん、侍らしき男性に罵倒をしているように見える。胸ぐら掴んだり、睨み顔で近付いたりしていた。

 今はユアがいないので、何を言っているのか分からないが、どうやら荒くれ者たちが侍らしき男性に恫喝をしているようだ。


 侍らしき男性がお詫びするように頭を下げた。

 だか、荒くれ者3人組はヒートアップしたのか、怒声を上げた。


 周辺にいる人々は怯えた目で見ていたり、困惑した表情を顔に浮かべていては知らぬふりをしているようだ。

 助けると、自分まで殺される可能性があるからだろう。


 うーん。何を言ってるのか分からないんだけど、そんな雰囲気を見てると完全にカツアゲだよね。わざとぶつけようとしていたし。

 どこの国に行っても、そういう人はいるんだな。


 よし、助けよう。


 俺は【クリアボイス】のスキルを発動し、3人の荒くれ者に注意した。


「三人方々、やめていただけませんか?」


 注意すると、沸点低かったのか3人組がキレ始めた。邪魔するな! という感じだった。

 口を大きく話しかけてくるので、読唇術で読み取れた。


「なんだと!」

「てめぇ!」

「ふざけんな!」


 と、大きな声で威嚇しようとする荒くれ者たち。


 荒くれ者3人組は、剣を抜こうとしているな。ここで争うのは勘弁してほしい。 あ、冒険者カードを見せた方がいいだろう。

 懐から取り出して、Aランクのパーティカードを見せたとたん、荒くれ者3人組は予想通り、真っ青になっていた。


「Aランク△◯★と! いえ、私が間■っ&いま▼た!」

「「「□みま●んで▼た!」」」


 言っていることは分からないけれど、その3人の雰囲気から畏まったような感じに聞こえる。

 荒くれ者3人組はそそくさと、この場から離れていった。


 ふう、ひとまず声かけるか。


 侍らしき男性の近くに寄って、【クリアボイス】を使った。


「大丈夫ですか? お怪我はありませんでしたか?」

「助かった。ありが#◇」


 あ、まずい。今はユアがいないんだった。周りにユアがいるか、キョロキョロ探したがいなかった。

 侍らしき男性は感づいたのか、じっと俺に向ける。


『お主は……耳が遠い方か? 念話なら通じるか?』


 あっ、侍らしき男から【念話】が飛んできた。


『びっくりしました。念話できるのですか?』

『ああ、念話しか出来ない種族と関わりがあったのでな』


 念話しか出来ない種族? もしかして、シニフィール族かな?


『あ、俺は耳が聞こえません。念話で助かりました』

『いや、先ほどはありがとう。お主は耳が聞こえない、拙者は目が見えない。お互い様だな』


 はははっと笑う侍らしき男は、面白いものを見たような笑みを浮かべる。

 それから、【念話】で色んな事を話し合った。


『ほう、お主はシーズニア大陸の者か。遠かったろう?』


『はい。ここの国は音楽が盛んなのですね』


『うむ、拙者は何も見えんが、聞くことは出来る。音楽は拙者にとっては、安らぎの1つよ』


『音楽は、人の心を動かすんですよね。どういう気持ちになるのか、分からないんです』


『そうか。だが、お主は見えるものに対して、心を動かすことがあろう?』


 言われてみれば……確かにそうだ。


『た……確かに、美しい景色に見惚れて感動したことがあります』


『それだよ。拙者は、それが味わえない。いや、もう味わうことができなくなった。お主が美しいものを見惚れた気持ちは、音楽が人の心を動かすのと同じ気持ちだ、と拙者はそう思う』


『は、はは……そうですね。不自由さを感じることは一人一人違うように見えるけど、気持ちは同じかもしれませんね』


 お互いに【念話】で会話しているうちに、ユアとリフェルが買い物から戻ってきた。


 ユアが来ると【共有念話】が、自然に発動してくれるんだよね。

 すごく、ありがたさを感じる……。


「イツキ! 戻ったよ──!」


 可愛らしい声を上げたリフェルが侍らしき男を見つめ、驚愕し、指を差した。


「剣聖フリードっ! なぜ、ここにいるっ!」


「おや、先ほどの声は……お主はリフェル殿か。拙者は見て通り、目が見えなくなってな」


 えっ、彼が英雄の剣聖フリードなの? 


「はい、彼は剣聖フリードさんです。彼には大変、お世話になっていました。ですが、目が見えないことを知りませんでした……」


 ユアは旅の聖女として護衛を担ってくれたのが、剣聖フリードなんだそうだ。

 リフェルはフリードからの決闘を受けたことで、七星王の南星になってしまったキッカケの人物でもある。


「目を失ったが、得たものも大きい。感知スキルも、更に強化したのだ。拙者しかできない剣術をも生み出せた。それは柔の剣術だ。

 ──確か、リフェル殿は剛の剣術だったな」


「そうね。あたしは剛の剣術を得意としているよ。

 剣聖フリードも元々は剛の剣術だったのに、今は柔の剣術になったの?」


「そうだ。もっとも大きいのは、目が見えなくなったおかげであろう。柔の剣術は、気配を感じ、魔力の流れを読み取り、斬ることを極意としている。新しい我が道を見つけたことだ」


 リフェルとの決闘に敗れた剣聖フリードは、行く道を失っていた。これでいいのだろうかと、色々と悩んだそうだ。

 その答えを見つけるために、剣術の修行に明け暮れていた。

 そんな時にカイムの兄である大悪魔アークデーモンカイリが出現し、様々な国が恐怖に陥ってしまった。

 そこで剣聖フリードが、ユウカ:カンザキや数人のSランク冒険者と協力し、大悪魔アークデーモン討伐に成功する。だが、その代償に両目を失明してしまった。

 大悪魔アークデーモンが死に際に使った呪いらしく、神聖魔法では治ることはできない。

 だが、剣聖フリードはSSランクになった誇りだ! と豪語に言っていたとか。

 それから、剣聖フリードは【常闇の剣聖】と、呼ばれるようになる。


 リフェルが小首を傾けて尋ねた。


「フリード……本当に、目が見えなくなったの?」


「何度も言ったであろう。南星の剣聖になったお主には、言われたくないものだがな」


 プイッと視線を逸らす剣聖フリードに、リフェルはわざとらしく口を尖った。


「ふーん、常闇の剣聖と呼ばれてるじゃない?」


「お主は七星王であろう?」


 お互いの視線が、バチバチと花火の音がするんだが……。

 それって、荒くれ者3人組は俺が救ったということだよね。もし、助けなかったら、この世にはいなかっただろう。


 ユアが剣聖フリードに声をかけた。


「フリードさん、御無沙汰してます。この節はお世話になりました」


「その声は……聖女ユア様か! しばらく見ないうちに、成長なさってるな」


 フリードは嬉しそうな笑みがこぼれた。


「1つ気になりましたが、自分のことを拙者と言っているのですか?」


「ユウカから拙者を勧められてな。気に入ってしまった」


 やっぱり、ユウカ:カンザキは日本人みたいだ。見た目そのものが侍だから、違和感ないね。

 侍っぽい衣装も、ユウカ:カンザキが仕立てたそうだ。フリードは気に入っているのか、誇らしい笑みを浮かべていた。


 フリードは、ふと思い出したように俺に【念話】で尋ねる。


『そういえば、お主はグロモア王国に暮らすのか?』


『いえ、食材の仕入れと観光だけなので、それが終わったら、次はフレイ帝国に行ってみようかと』


 イシュタリア大陸三大国家の1つ、フレイ帝国にも向かうと告げると、フリードが厳しい表情に変わった。


『フレイ帝国に行くのか? すまぬが、それはやめた方がよい』


 剣聖フリードから注意を受けるが、理由を尋ねてもフレイ帝国だからだ、としか答えてくれなかった。

 続いて、フリードが腰側にある刀を抜き、俺に向けて言った。


『拙者に勝てるであれば、行くことを許そう。だが、負けるであれば諦めよ』


 そういい、剣聖フリードとの決闘をすることになってしまう。


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