65話 不穏な状況

 俺たち、Bチームは【赤い太陽】の7人と、【静寂の青狼】の3人1匹、トーステ王国の兵士6人合わせて、16人1匹。

 Aランク冒険者カイがリーダーとして、先頭に立って地下へ向かっていく。


 今は、地下11階層のところだ。


 そこに生々しい血の跡が、いくつかあった。その辺を調べると、魔物の残骸や冒険者らしき屍があちこちに横たわっていた。

 頭が割れて中身が見えていたり、噛み砕かれてしまったのか、あちこちバラバラにされていた。

 ヴォルグから聞いた情報によると、彼らはトーステ王国調査隊のようだ。


 そんな光景を見た俺は一瞬、顔が引きつるほど、恐怖を感じた。


 これは、ひどいな……。

 俺はカイに、【クリアボイス】を使って、尋ねる。


「彼らは、ここで全滅されたんですか?」


「そうです。バジリスクによって殺されたんです」


 ……恐ろしい。だが、先程から血臭があまりしないのは、何故なのか?

 そんな疑問に、カイが頭をコクリと小さくうなずいて答えた。


「それはですね。エレキスライムは、迷宮の掃除屋と言われています。その魔物たちが、迷宮内の死骸や臭いまで綺麗にしてくれるんです」


「エレキスライムって、そんな役割があるんだ」


 確かに、ここまで歩く度に、何度かエレキスライムと鉢合わせしたんだよね。

 その魔物がいる場所は臭いもなく、清潔だった。



 俺とクーは既に感知スキルを展開しているが、地下11階層にはいないようだ。

 だが、もっと深くのところから魔物の反応がすることに気付く。


「気配感知で反応があったけど、地下15階層あたりかな……複数のバジリスクがいるみたい」


 俺がそう告げると、カイの仲間までも同じことを口にした。


「イツキさんの言う通り、もっと下にバジリスクらしき魔力を感じます」


「なるほど……それなら、下へ行ってみよう」


 と、カイが引き締まった顔つきで言い、階段へ降りていく。


 地下12階層から14階層までも、タイルのような壁や床が延々と続く。

 歩くたびに頭がおかしくなりそうで、分からないほどの迷路だ。


「みなさん、こっちです。地下15階層への階段があります。オレの後についてください」


 カイたちが率いる仲間は盗賊職だ。探知系スキルで進んでいくのだから、とても頼もしい。



 ついに、地下15階層へ辿り着いた。 

 そこで辺りをあちこち見回すカイが、全員に確認した。


「いたか?」


「いえ、見つかりません!」


「この近くにはいないのか……。バジリスクは近くにいるか警戒してくれ!」


 気を引き締めながら、探索する冒険者や兵士たち。


 俺は地下15階層を中心に、再び【気配感知】を発動し、バジリスクいるか確認しようとしたが首を傾げた。


『あれ? さっきまではこの階層にいたのに、突然消えたみたい』


『うん。ボクも! いつの間にか、匂いが消えたよ!』


 俺とクーは、お互いに見つめた。

【気配感知】とクーの【嗅覚感知】まで通用しないことを不思議に思った。

 盗賊職の仲間までも、突然消えた事に戸惑ってしまう。


「おかしいぞ! なぜ、消える!」


 うろたえる仲間が荒げる声を耳にしたカイが、どうしたんだと問いかけてきたが、仲間も俺も分からないと頭を横に振った。


 どうやら、地下15階層からバジリスクの存在が一瞬で、消えたようだ。


 ◆ ◆ ◆


 同時刻、Cチームは13階層にて探索していた。

 だが、冒険者たちは、つべこべ文句ばかり言っていた。手に持っている短剣をクルクルと回していたり、やる気がなさそうにあくびをしていた。


「全く、だりーな。本当にバジリスクなんて出るのかよ?」


「全滅したっていう話だぜ? まぁバジリスクって、素材がめちゃええもんな」


「そういうこった。道端にエレキスライムが出るけど、邪魔なんだよな。素材が乏しい上に、価値ねーもんだ」


 エレキスライムは意思を持たない魔物であり、基本的に攻撃することはない。

 だが、冒険者たちは邪魔だと感じていたのか、通るたびに足で何度か蹴りだしている。まるで、サッカーボールのように歩きながら蹴っていた。


 その時──


「「シャァァ──…………」」


 奇怪な声を耳にした冒険者や兵士たちは一瞬、ぴたっと時が止まったかように警戒し始めた。


「何だ! ついにバジリスクか?」


「おお! ささっと討伐しよーぜ!」


 15人程いたCチーム冒険者と兵士たちは武器を手に持ち、じりじりと獲物を狙うかような目つきで、周りを見回ると壁の向こうに、バジリスクが動き回るのを発見する。


「いたぞ! こっちだ!」


「おう! 火よ、火の球になれ、燃やし尽くせ ファイアバレット!」


「みな! 用意せよ! フォーメーションAで行くぞ!」


 そう言い、バジリスクを目掛けて総攻撃しようとした。

 だが──


「なっ! あんなに、デカいのがいるのか! これは、本当にバジリスクなのか?」


「やばいぞ! 何匹もいる! ぐぁっ!」


「くそっ! いけ! 氷よ、巨大なこぉ──……」


 数匹のバジリスクの蹂躙じゅうりんにより、僅か数秒で15人程いた冒険者、兵士たちは一瞬で食い荒らされ全滅してしまった……。


 ◆ ◆ ◆ 


 Aチーム率いるヴォルグとゼンのチームは、地下10階層の【開かずの間】にて休憩しているところだ。

 BチームとCチームの帰りを待っているところだろう。

 それなのに、ヴォルグとゼンは警戒心をむき出しにしたままだ。

 1匹だけかと思いきや、2匹目も、3匹目も続いて出現していたのだから。

 ヴォルグが腕を組んで、ゼンに尋ねた。


「まずいな。バシリスクは3匹だけじゃないようだ。それ以上、いるのか?」


「確かに、おかしいですね。もしかして、増えていたりしませんよね?」


 ゼンがフラグを立てるかような事をつぶやいた。ヴォルグは、頭を横に振ってぼやいた。


「それは勘弁してほしいものだな……」


 その時、1人の女性が手を挙げた。

 耳が尖っていて、金髪の長髪に、露出度が少し高めの軽装な服装を着ている。エルフ族の精霊使いフェルミルだ。


「わたし、精霊召喚魔法を使えますので、何匹いるか探索してみます」


 ヴォルグが、うなずいた。


「フェルミルか、頼む!」

 

 フェルミルが、目を瞑り両手を重ねるように風の精霊召喚魔法を唱える。


「風よ、知らせよ、我らに導け、フェアリーよ、ここに顕現せよ!」


 魔法陣が緑色に輝き、風の精霊フェアリー3体が出現した。

 背中に2対の羽根が生えていて緑色の羽衣をまとっている。とても可愛らしく小さな妖精だ。


「バジリスクは、どこにいるか教えて!」


 フェルミルのお願いで、風の精霊フェアリー3体は微笑みながら緑輝きなびかせ、迷宮のあちこちへ飛んでいった──。



 しばらく時間が経つころ、風の精霊フェアリーからの【念話】がフェルミルに届いたとたん、ありえないというような恐怖に染まった表情を浮かべた。


「…………何てこと」


「ど、どうしたんだ?」


 ヴォルグが不安げになり、フェルミルに問いかけた。


「バジリスクは、さっきまで討伐した3匹だけではなかったわ。ほかにまだ3匹いるみたい」


 フェルミルの一言により、その場にいた冒険者や兵士たちが騒然としてしまう。

 また、別の風の精霊フェアリーから再び【念話】が届くと、フェルミルが思わず声を上げた。


「ああっ!!」


 フェルミルの叫び声に、周りの冒険者や兵士たちが再び、振り向いた。


「3匹いるバジリスクの他に、もっと大きいバジリスクが1匹います」


 ヴォルグが焦り出した。


「なにっ! どんな状況だっ!?」


 フェルミルは一呼吸した。


「一回り……いえ、2か3倍ぐらい、それ以上に大きくて眼がいくつもあるそうです」


「なんだと! これは、まずいな……」


 ヴォルグは、最悪の展開が当たってしまったかように、恐れを抱いた。

 ゼンが怪訝な顔つきで尋ねた。


「ギルマス、どうしたんですか?」


「ああ、最悪の事態だ。Aランクのバジリスクが3匹の上に、親玉がいるようだ。まずい。BとCチームを呼び戻してくれ! 撤退だ!」


 ヴォルグが全員に手を挙げて、撤退宣言を出そうとした。


「もうダメです! 撤退しても間────」


 ──ドガァァン!


 フェルミルが言い切る前に、ごう音が鳴り響いた。頑丈な扉が崩壊し、【開かずの間】が震えた。

 砕かれた扉が開き、向こうの暗闇から、複数のバジリスクが侵入し、こちらに押し寄せてきた。

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