66話 バジリスクとの戦い①

 地下10階層の【開かずの間】に、Aランクのバジリスクが3匹侵入した。

 そのあとに、奥の影から禍々しい6つの赤い眼が浮き上がる。


「シャァァアアア────!」


 死毒蛇王エキドリスク獰猛どうもうな蛇の魔物であり、頭には王冠のようなトサカの体毛に、

 周りのバジリスクよりも倍以上に大きい胴回り。

 20人の冒険者を丸呑み出来るだろうと思わせるほど、巨大な蛇だ。


 けがれの象徴として蛇系魔物に統べる王であり、遭遇したら死ぬといわれる。危険度はSランク。

 Aランクのバジリスクや蛇類の魔物を生み出す【眷属召喚】のスキルがある。死毒蛇王エキドリスクを倒さない限り、何度もバジリスクを生み出すのだ。

 それゆえに、先程侵入してきたAランクのバジリスクが13匹に増えてしまった。いや、どんどんと増えていた。


「なんてことだ……」


「これは……」


 ヴォルグとゼンが、驚愕と焦りの染まった表情を浮かべた。


「まずいぞ! Aランクのバジリスクより、強者の気配を感じるぞ」


「ああ。あんなにデカく、禍々しい蛇は見たことがない! おい! 静寂の青狼がいるBチームは、どこにいるか分かるか?」


 ゼンがBチームとCチームをすぐに【開かずの間】へ来てくれと、迷宮攻略に長けている盗賊職の冒険者を頼んだ。


「Bチームは15階層にいくと、言っていました」


「呼んでくれ! あのデカい蛇は、バジリスクの親玉かも知れん」


「了解! 呼びに行きます! 2人連れて行きます!」


「そうしてくれ! 頼むぞ!」


 盗賊職の冒険者3人はすぐさまに、地下15階層へ降りていった。



 死毒蛇王エキドリスクが一気に迫ってきた。


「シャァァッ!!」


 ――――ガキィン!


「ぐっ!」


 鋭い歯で噛み付こうとする死毒蛇王エキドリスクに、ヴォルグはとっさに自らの剣で、鈍い音を出しながら受け止めた。

 受け止めた先の歯から、ヨダレに近い禍々しい紫のような液体がポタポタと垂れ流した。


「っ!」


 身の危険に察したのか、ヴォルグはその場から後ろに飛んだ。

 液体のようなものが地面に落としたとたん、ドロっと溶けだした。


「猛毒か……やっかいな」


 ヴォルグは自らの剣を眺めると、少し溶け始めていることに気付く。直ちに【水魔法:ウォーター】で禍々しい液体を洗い流した。


「ヴォルグ! 助太刀するぞ!」


「加勢します!」


 兵士長ザガンとSランク冒険者ゼンが助けに来てくれたことに、ヴォルグは安堵し、死毒蛇王エキドリスクを見つめて言った。


「助かる! あのデカい蛇は危険だ! 周りにいるバジリスクの比じゃない。恐らく、Sランクだ!」


 ヴォルグがそう警告し、ザガンとゼンが引き詰まった顔つきになった。続いて、後ろにいる冒険者や兵士たちに振り返って声をかけた。


「全員! 周辺にいる、Aランクのバジリスクを討伐してくれ! 俺たちはあのデカブツをやる!」


「「「了解!」」」


 そう宣言し、冒険者と兵士たちがバジリスクの群れとの、戦いの狼煙を上げる。



「ゼン! 後ろだ!」


 死毒蛇王エキドリスクが吐き出した【猛毒】で、ゼンは振り向いたとたん、とっさに回避するが手甲のところに当たってしまった。

 触れたものは一瞬に溶け出し、死に至る【猛毒】だ。

 ジューっと手甲が溶け出し始めると、ゼンは慌てて手甲を外し投げ捨てた。手甲が跡形もなく、溶けていった。


 ゼンとザガンは、その光景を目の当たりにし、ゾッとする。


「もろにあたると死ぬところでした」


「ああ、猛毒だけじゃなく、眷属召喚も厄介だ」


 ゼンが周りにいる冒険者や兵士たちを眺めると、Aランクのバジリスクを1体倒しても、次のバジリスクが出現している。1体倒しても、倒しても次々に出現していた。

 まるで、延々と続くエンドレスゲームのようだ。ゼンはクソっと、悔し気にぼやいた。


「まずいですね。早くあのデカい蛇を倒さんと、みんなヤバくなります」


 ザガンがうなずいた。


「ああ、一気に倒すぞ!」


 3人かがりで、死毒蛇王エキドリスクに攻撃を仕掛けても、回避されてしまう。剣で斬りかかっても、するりとするように、避けていく。


 ヴォルグがぼやいた。


「こいつ! 素早い!」


「くそ! 図体でかいのに、あり得ないだろうが!」


 ザガンが信じられない目つきで言った。ゼンもうなずいた。


「まずいです。これじゃ、俺たちがやられる一方ですっ!」


 死毒蛇王エキドリスクとの戦いが、より激化していく────。



 そんなとき、エルフ族の精霊使いフェルミルが、再びヴォルグへ報告した。


「先程、届きました! Cチームは全滅してしまったようです! Bチームは急いで、こちらに向かっています!」


 先程の召喚魔法で、風の精霊フェアリーから【念話】が届いたようだ。Cチームが全滅してしまったことを耳にした、ヴォルグは申し訳ないと心に謝罪を込めた。


 Aチームと加わった兵士長ザガンを除く兵士団7人は、疲労困憊ひろうこんぱいに陥ってしまっている。

 周辺にいるAランクのバジリスクがに増えているからなのか、体力的に限界が来てしまった。


 そう、死毒蛇王エキドリスクを倒さない限り……。


「ぐあっ!」


「ギルマスっ!」


 死毒蛇王エキドリスクの猛攻に、ヴォルグは防御に徹底していた。

 ────というより、それしかなかった。


 だが、冒険者や兵士たちの士気を下げるのはまずい。ヴォルグは、期待を込めるような言葉を全員に声を上げた。


「みんな! 今、Bチームがここに向かっている! それまで耐えてくれ! Bチームには、七星王の南星様がいる! 間に合えば、乗り越えられるっ!」


 Bチームにいる剣聖リフェルが、何とかしてくれると声を上げて、冒険者や兵士たちに希望を持たせた。

 だからこそ、ヴォルグやゼン、ザガン、他の冒険者や兵士たちは堪えているのだ。

 しかし、時間がそれを許してくれない。だんだんと戦える者が減っていく。


 それでも、前線離脱した冒険者たちは隅で、補助魔法と回復魔法を何度もヴォルグとゼン、ザガンに必死に唱えた。


「癒しの光よ、汝の傷を癒さん、ヒール!」


「我が身を守れ、生み出せ、バリアウォール!」


「天より授かりし、肉体に力を与えよ、ブレイブ!」


 死毒蛇王エキドリスクと戦っている3人が敗北すると、確実に全滅すると分かっているからだ。

 それゆえに、自らの魔力を必死に振り絞ろうとした。

 絶望と希望の混ざった感情を持ちながら──



 一刻が過ぎ──


「ギルマスっ! 大丈夫ですか!?」


 地下11階層への階段のところから、カイの声が聞こえてきた。

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