64話 トーステ大迷宮
大迷宮討伐日――――
冒険者ギルドのロビーにて、30名ほどの冒険者が集まっていた。
そこで、ギルドマスターのヴォルグが場にいる冒険者たちに点呼をしようとしているところだ。
イツキ一行が現れると、ロビーがざわざわとする。
「そこにいるのは、Aランクの静寂の青狼じゃないか」
「青い服を着ている少女って、剣星様じゃないか」
前日の騒然で、ロビーにいた冒険者たちは俺たちのことを色々と調べ上げたようだ。
ドワーフ王国ガドレアでパーティ登録していたので、簡単に調べられるため、一気に有名になっている。
その時、ヴォルグの点呼に俺たちのパーティが呼ばれ、ユアが手を挙げる。
反応した周りの冒険者たちが、またもや騒然となる。
「あのパーティが、神聖法皇国の冒険者だろ?」
「そのようだ。あの男、二つの花を持ち合わせていやがる。見ていると、なんだかムカムカしそうだ」
「無音の魔導士、大聖堂の神官、南星の剣聖とは……実力はどんなものか、楽しみだな」
うーん、シリウスさんの言う通りだったな。
神聖法皇国オブリージュに滞在していた時、剣技の指導を受けていただいたシリウスさんの言葉を思い出す────
『イツキ殿、冒険者は荒くれ者や力自慢の奴らが多い。自分より劣る者には見下し、勝る者には軽蔑か嫉妬する奴がいる。だから、自分を失うな。自分を信じろ! それが周りに流されず、自分の意思で貫くことの秘訣だ。
それと、ユア神官様を信じてやるいい。彼女は信頼できる御方だ』
『助言ありがとうございます。あまり殺さずに、更生する方法もありますね』
『……イツキ殿は、本当に優しいな。だが、世の中は、優しさだけでは出来ないことがある。時には、冷酷になることも必要になるだろう』
『は、はい……』
『いつかはわかる。ゆっくりと、旅を楽しむといいだろう』
────確かに、協力関係とは言え、どこかで利害関係が生まれるだろう。
エレキスライムの素材の採取が本来の目的だから、バジリスク討伐のついでに密かに採取することを意識しておいた方がいいかもな。
点呼が終わったギルドマスターのヴォルグは、目の前にいる冒険者たちを見渡し、宣言した。
「皆の者! よく聞け! 今回の依頼は、トーステ大迷宮の11階層にAランクのバジリスク3匹が出現したと情報が入っている。ひとまずは、皆にバジリスクを討伐してもらう。勝手な行動は、慎むようにな。
今回は我ら冒険者は30人、兵士団からは20人だ。よって、討伐隊は50人体制で行く。15人程でバジリスク1匹討伐する形とすることを理解するように。では、向かおう!」
30人いる冒険者を3組に分ける。1組で10人として、5人程の兵士を加えての15人パーティになるようだ。
ちなみに、【静寂の青狼】のパーティはBチームになる。俺たちはクーを除いて3人だから、他の7人はどういう人だろうか。
そんなことを考えているうちに、1つのパーティが俺のところにやってくる。
「初めまして。僕らはAランク冒険者パーティ、【赤い太陽】です。僕はAランクのカイと言います。同じBチームで、心強いです。剣聖様がおられるのですから」
ニッコリと微笑むカイが頭を下げる。俺たちも、
「こちらこそよろしく」と会釈した。
Aランク冒険者のカイは【赤い太陽】のリーダーで、他の6人はBランク冒険者という7人のパーティのようだ。
「イツキさんは2年でAランクになったのですね。剣聖様がCランクということは……もしかして、登録したばかりでしょうか?」
「そうだ! イツキと同じようにAランクになるつもりだ」
「さすが、静寂の青狼パーティです。普通の冒険者じゃないなぁと、ひしひしと感じますよ」
それからカイにトーステ大迷宮について、詳しく教えてもらった。
その大迷宮は地下25階層まであり、最深部にはSランクのヒュドラという怪物が財宝を守っているそうだ。
その奥にダンジョンコアがあるそうで、辿りついたものはユウカ:カンザキと剣聖フリードといったパーティーのみ。
ただし、まだ足を踏み入れていない場所がいくつもあり、罠も多い。感知系スキルや探知系スキルも必要になってくるため、迷宮攻略は盗賊職の冒険者がいると楽になる。
「迷宮攻略には、盗賊系スキルがある冒険者がいると安心しますし、助かる面も大きいんですよ」
なるほど……今後も洞窟や迷宮がある場所へ向かうには、そういったスキルがあるといいかもしれないね。
俺は【共有念話】で、ユアとリフェルに尋ねた。
『折角だから、トーステ大迷宮の最深部に行って攻略したいと思っているんだけど、いいかな?』
『私も腕試しになりますし、攻略しましょう!』
『あたしも! ヒュドラっていう怪物と戦ってみたい!』
2人とも、腕試しになるとメラメラ燃えていた。
そんな談笑が続く中、一刻ほどでトーステ大迷宮に到着する。
入り口の方に兵士長が立っていて、その後ろに兵士団19名が並んでいた。
「ヴォルグ! 待ったぞ!」
「すまん、待たせた。────こちらがトーステ王国兵士団の兵士長ザガンだ」
銀色に輝く鎧をまとっていて、若々しく、たくましい男性が頭を下げる。
「我の名はザガンだ。冒険者方々、宜しく頼みます」
冒険者30名とトーステ王国兵士団20名が合流し、50名集まった討伐隊は、
いよいよ、トーステ大迷宮に発生したAランク魔物のバジリスク討伐へ向かう。
◆ ◆ ◆
トーステ大迷宮は、古代遺跡のような場所だった。
床面には大きな四角いタイルのような石が敷かれていて、見たこともない古代文字が記された石の塔が左右対称に並べて建っている。その奥には3メートルほどの大きな門がそびえていた。
その近くに、出張所があり、門番が座っている。
「宜しくお願いします」と会釈する門番の兵士2人が、大きな門をフンっと力いっぱい開けた。
門の先へ踏み入れると、目先に大きな階段が見えてきた。奥の方には、真っ暗で見えない。
そこで、ある冒険者が【神聖魔法:ライト】を唱えた。
「光よ、暗闇から照らせ、ライト!」
天井や壁が明るく照らし、辺り一面が明るくなる。階段の奥まで見えるようになっていく。
階段はらせん状になっていた。カツンカツンと歩く音を鳴らしながら降りていくと、そこに地下1階層が見えてきた。
地下1階層は広大な空洞になっていて、壁面には造形に凝ったパネルが並べている。
先に一歩、歩くと、壁面に貼られているパネルがオレンジ色に輝いていて明るく、歓迎しているのかワクワクさせるような雰囲気が出ていた。
そんな光景に、俺はテンションが高くなってしまう。
『おお、これが迷宮の中なんですね』
リフェルまでも目を輝かせた。
『確か、ここが観光地だったんでしょ!?』
『そうですね。ほら、あそこに売店とか、建っているみたいですし……おそらく、事件が起きてから閉鎖したんだと思います』
ユアが指差す方向にそって眺めると、売店や飲み屋のような簡易のテントが割と多く張られていた跡がある。
今は閉鎖しているため、シンとしていて静かだ。
確かに、一目で観光地だったと分かる。
ここの階層は観光地だからなのか、冒険者の出入りが多いからなのか、魔物があまりいない。
ヴォルグが手を挙げて言った。
「ここに、地下5階層へ向かう魔法陣がある。そこから行こう!」
ヴォルグが向かった先は大きな台座があり、その上面に魔法陣が描かれていた。10人立つほどの広さなので、順番に地下5階層へ転移する。
転移した先は石積のような壁で、どこから見ても同じ壁。
地下6階層から地下9階層も同じような光景でかなり迷う。迷ったら、おしまいだろう。
感知系や探知系スキルが必須だ、と言われた意味が理解できたわ。
迷宮に潜むCランクのタラテクトの蜘蛛系の魔物やDランクのトーステウルフなどの魔物たちを討伐しながら、数時間ほど進んでいく――
やっと、地下10階層にある【開かずの間】へ到着する。
そこには、地下1階層と同じような広い空洞になっているが、天井が異様に高く、見上げる程大きな門がそびえていた。
さらに奥の方には、滝のようなものが流れている。
廃墟になってしまったスポーツスタジアムのような形をしているな……。
その中心に大きな台座のある祭壇に面して立つ大きな門は、苔があり、古びていて何千年も開かれていないと分かるぐらい大きな門だった。
その門に、文字らしき模様や見たこともない絵が描かれていた。
壮観この上もない光景に、息を呑んでしまった俺はユアとリフェルに【念話】を飛ばす。
『すごい……これが開かずの間と呼ばれている、あの門ですか?』
ユアは呼吸を忘れるほど、大きな門を見つめて伝えた。
『ええ、とても大きいですね。門に描かれているのは、古代文字でしょうか?』
リフェルも小首を傾げる。
『何か書いているんだろ? 全然分からない』
俺は大きな門に、描かれている古代文字を読もうとしたら────
【聖なる炎の浄化 水の恵みにて生命の誕生 揺るがす大地の起伏 数多の息吹を運びる風 希望を満たす光 平穏を与える闇】
────と書かれていた。
えっ……。
古代文字を読めるようだ。読める事に、驚きを隠せない。これは……【言語理解】のスキルのおかげだろうな。
この古代文字から推測すると、六大精霊王のことだろう。
続きにもあるようで、再び読み続けた。
【大精霊獣レヴィアタン ここに君臨せし】
もしかして、この門の先には、SSランクの大精霊獣レヴィアタンが住まう場所なのだろうか。
そう考えているうちに、ヴォルグが大きな声を出した。
「ここから分かれるぞ! バジリスク1匹倒したら、開かずの間で待機だ!」
カイが俺たちに、
「イツキさん、行きましょう」と呼びかけられたことで、大きな門の事は後回しにした。
その後、AとB、C、それぞれ3組に分かれ、次の階層へ向かうのだった。
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