62話 トーステ王国の冒険者たち

 今日も太陽が明るく照らされ、大草原や森に囲まれた山々の緑が青々としている。ユア曰く、チュンチュンと鳥の鳴き声がよく聞こえると教えてくれた。森を抜けると海が見えてきた。


 やっと、トーステ王国にたどり着いた。


 トーステ王国は、中世漂う香りがする国だった。

 石垣で出来た道路、石組みの建物に、石組みで仕上げた荘厳な王城があり、古風に感じられる。


 これまで、アローン王国やドワーフ王国、いくつかの村や町を旅してたけど、どの国にも違った雰囲気があり、個性的だ。色々な国を巡れば、巡るほど共通点は何かも微妙に探りたくなる。

 これも旅の醍醐味の1つだろう。


 馬車を動かしている最中、リフェルは未だシニフィ語の練習をしていた。

 リフェルが眉間寄せては、ぐぬぬと呟きながらもシニフィ語を熱心に覚えてくれるので、嬉しくなり思わず微笑んでしまった。


『イツキっ! 何笑ってんのっ!』


 頬を膨らませたリフェルが、からかうように俺の脇にグーでパンチをした。


『いてっ。いやいや、それより、リフェル、もうトーステ王国だよ』


『あっ、着いたのね』


 俺はシニフィ語でお礼を伝えた。


《リフェル、ありがとう。嬉しいよ》


《イツキとは一緒にいたいからね! それと、ユアから聞いたけど、ガイア大陸にシニフィール族がいるでしょ? 会ってみたいし、話してみたいなと思ったんだ》


 リフェルはガイア大陸に行ったことがないため、行ってみたいらしい。ユアも昔は行ったことがあるが、機会があまりなく小人王国シャルロットの教会しか行ったことないようだ。

 つまり、イツキ一行は初めて、ガイア大陸に足を踏み入れることになるということだろう。



 トーステ王国の冒険者ギルドの方へ近づくと、何やら騒がしい光景になっていく。

 その光景を眺めた俺たちはユアの【共有念話】で、話し合っていた。


『何だが騒がしいんだけど、何かあったんだろ?』

 

 俺は【念話】で言い、ユアとリフェル、クーがうなずいた。


『そうですね。厄介ごとにならなければ、良いのですが……』


『国中、騒がしいみたいだね──。何か事件起きたっぽい』


『ご主人様、向こうのギルドだよね? 気配が多くいるみたいだよ』


 とりあえず、冒険者ギルドに行けば分かるだろうということで、歩いていく。


 馬車や荷物は【時空魔法:次元収納】に仕舞っているが、馬は流石に難しいので、預かり所へ預かっている。

 ステータスに【次元収納】が消えていたことで、かなり焦った。だが、【時空魔法】の1つとしてインプットされていることが分かった時は安堵したけれどね……。



 冒険者ギルドへ入ると、ロビーにいる冒険者が結構多く、何やら気が立っていた。

 俺たちへの視線が凄まじいなと感じる。


『何か、ピリピリしているよね』


 居づらそうで、俺は思わず【念話】でつぶやいた。ユアもうなずく。


『ええ、まるで戦争に行くみたいな感じがします』


 旅で採取してきた花や鉱石、討伐した魔物の素材の換金をお願いをするために早速、受付の方へ向かった。

 もちろん、俺の【クリアボイス】とユアの【共有念話】を常時発動しておいた。


 だが、受付さんが申し訳なさそうに頭を下げて言った。


「ようこそ、トーステ王国の冒険者ギルドへ。

 せっかくの中、大変申し訳ございませんが、今回は異常事態が起きたため、落ち着くまで換金は控えさせております」


「えっ、そうなんですか。何かあったのですか?」


「申し訳ありません。私からは説明できません。ただし、Bランク以上の方であれば、ギルドマスターへご案内できますが……」


 何でBランク以上なのか? Cランク以下は門払いという事なのだろうか。

 ひとまず、俺はユアとリフェルに尋ねた。


『どうする? 面倒ごとになりそうな気がするけど……』


『戦争だったら、避けたいですよね……』


『うーん、まず、トーステ大迷宮に行くことを伝えてからでいいじゃない?』


 リフェルの案に俺たちはうなずき、受付さんにお願いした。


「俺たちはトーステ大迷宮に用があります。許可証が欲しいのですが、出来ますか?」


「!!」


 受付さんが目を丸くし、真っ青になった。そして、その場にいる冒険者たちがギロリといった視線で、俺たちに集中する。


 ……どういうこと?

 

 受付さんが恐る恐ると、俺に尋ねた。


「あの……申し訳ありませんが、迷宮へ行かれるつもりですか?」


「はい。その予定で参りました」


「……今の迷宮はAランク以上でないと難しいので、お手数ですが、冒険者カードを提示して頂けますか?」


 俺たちはうなずき、冒険者のパーティカードを懐から取り出して、受付さんに見せた。

 銀色に輝くパーティカードを見つめた受付さんが、目を丸くし、声を上げた。


「えっ! 銀っ! Aランク冒険者ですかっ!?」


「はい、俺はAランクです。後ろにいる2人のパートナーは、Aランクのユアと登録したばかりのCランクのリフェルです」


「はああああぁぁあ! ギルドマスター様っ! 見つけましたぁっ! Aランク冒険者様ですうっ!」


 えっ……何でギルドマスター? と思ったら、すぐに後ろにいた。

 元からロビーにいたようだ。

 腰際に剣を備えていて、背が高く、やんちゃな感じだ。いかにも勝負好きそうな雰囲気が出ているギルドマスターからの第一声を耳にする。


「騒がしくてすまない。俺は冒険者ギルドマスターのヴォルグだ。君たちにお願いがあるので、執務室へ来ないか?」


 ああ、何やら不穏な気がする……。


 ◆ ◆ ◆ 


 執務室にて、ギルドマスターから現状について、説明を受けた俺たちは困惑していた。

 

「なるほど……今のトーステ大迷宮は、バジリスクという魔物が出現していて、非常に危険だということですか」


 そう確認すると、ヴォルグがうなずいた。


「ああ、そうだ。今は、討伐隊を結成するために集めているのだ。折り入って頼みがある。ぜひ、我々と共に討伐しないか?」


 この状況だと、エレキスライムの素材採取が難しくなるだろう。

 今のトーステ大迷宮はAランク以上しか入れないが、もしも解決しなかった場合は閉鎖する予定だそうだ。


 続いて、ヴォルグが深刻な顔つきで言った。


「改めて言うが、トーステ大迷宮はトーステ王国の収入源に大きく関わっているんだ。トーステ大迷宮が入れない今、我ら冒険者ギルドの収入が厳しくなってくる。

 もしも、閉鎖してしまったら観光収入源も大きく減ってしまう。我々は、それを避けたい。だから、協力してくれないだろうか? もちろん、報酬はしっかりと払う」


 うーむ、エレキスライムの素材が取れない今は、協力すべきことだろうな。

 俺はユアとリフェル、クーに【念話】で尋ねた。


『トーステ大迷宮討伐隊に加わって、バジリスクを討伐しようか? トーステ大迷宮が閉鎖しちゃったら、色々と困るだろうし』


『そうですね。電池が作れなくなりますと困りますね。ちょっと不安ですが、賛成ですよ』


『あたしもオッケーだよ! せっかくのトーステ大迷宮だし、レベルアップにもいいじゃない?』


『ボクは大丈夫っ!』


 静寂の青狼は全員一致ということで、討伐隊に参加すると表意した。

 ヴォルグが安堵した表情を顔に浮かべては、頭を下げた。


「ありがとう! 助かる! すまないが、改めて、確認したい。名前を教えてくれないだろうか?」


「はい、私はAランクのイツキです。静寂の青狼のリーダーをやってます」


「同じく、Aランクのユアといいます」


「私はリフェル。登録したばかりのCランクだが、南星の剣聖だ」


 威厳のある風貌になっていたリフェルが自己紹介すると、ヴォルグとそばにいた秘書、Sランク冒険者ゼンまでもが、目を大きく見開いた。


「南星の剣聖様っ! どうして冒険者に!?」


「私はゼンと言います! 剣聖様、宜しくお願いします!」


 驚きのあまりに後ずさりするギルドマスターと、やけに礼儀正しくなるSランク冒険者。

 ヴォルグがリフェルに尋ねた。


「剣聖様は何故、イツキ殿と一緒なのですか?」


「イツキは、私が一番気に入っている御方だ。ゆえに、共にいる」


 リフェルの意味深長な笑みを浮かべたことで、ヴォルグが首を傾げた。


「それは……剣聖様よりイツキ殿の方が強い、ということでしょうか?」


「どうだろうな。それは、想像に任せる」


 耳にしたヴォルグは再び、首をひねた。


 リフェルって、俺らといる時と公の場とは全然、違うんだけど……。

 これからも、ずっとそうなるのかな。いや、考えるのはよそう。


 ヴォルグが、今後の予定について説明した。 

 

「討伐を実行する日は週明けの火の日になる。集合場所はここだ。1階のロビーで集合することになる。イツキ殿、皆さま方々、その時はよろしく頼む。俺も共に向かうつもりだ」


 ヴォルグは深く頭を下げる。俺たちもつられて頭を下げた。

 週明けにギルドへ向かうことを約束し、冒険者ギルトを後にしたのだった。

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