第4章 トーステ王国

60話 トーステ王国・大迷宮調査隊

 グロモア連合国の1つ、トーステ王国が管轄するトーステ大迷宮は地下25階層まである。

 誰も足を踏み入れてないところがあり、確認されていないところが多い。

 そのため、トーステ王国調査隊が派遣される。


 調査隊は隊長を含め調査隊員5人、トーステ王国兵士団5人、護衛を担うCランクからBランクまでの冒険者10人、

 合わせて20人が、トーステ大迷宮へ調査することになっている。


 現在、いるのは地下10階層にある【開かずの間】だ。

 見上げる程そびえる大きな門。門の前には祭壇がある。

 その中心に大きな台座があるところで、調査していた。


「状況はどうだ?」


「今回も分かりませんね」


「ううむ……そうか」


 探検家のような緑の衣服に黒い帽子を被る隊長は、

 調査している隊員に聞いてみたが、分からないと返答に頭を抱えた。


「隊長、門は開かずですか?」


「ああ、ダメだ。びくともしない。判明したのは見たこともない文字が沢山並べていることだ。恐らく古代文字だろう。それを読めないと分からんな」


「そうですか。仕方ないですね。門の先はどうなっているのでしょうか……」


 そう、地下10階層にある見上げるほど大きな門がそびえているが、何千年以上も開けたことがなく、かなり古くなっている。

 門の先はどうなっているのか、数ある調査の1つだ。



 地下10階層には、Cランクのエレキスライムが多く生息している。調査隊や冒険者にとってのエレキスライムは価値が低い。利用価値が無いゆえに、邪魔扱いとなっている。

 トーステ大迷宮は放電が帯びているところがあり、スライムはそこで帯びて、エレキスライムへ進化したのだ。

 そんな迷宮はそこしかなく、他の洞窟や迷宮は存在しない。そのため、エレキスライムは、トーステ大迷宮しか収穫できない素材だ。

 イツキとセレーヌの共同開発で【照明】という魔導具を発明した後に、エレキスライムが乱伐されるようになったことでトーステ王国が頭を悩ませたことは、また別のお話。



 そこで隊長は、周りにいる隊員や兵士、冒険者たちの方に振り返り、指示を出す。


「今回も、あの門を解析するのが難しく断念する。だが、大きな収穫は得た。王国へ戻り対策を練ろう。

 次の調査のために、地下11階層へ行こう」


 20人いる調査隊は地下10階層にある【開かずの間】を後にし、地下11階層へ向かうのだった。



 しかし……


「ぎゃあああぁぁ」


 迷宮に、異変が起きていた。

 調査隊や兵士、冒険者たちは慌てて、必死に地上へ戻ろうと恐怖に染まっていた。


「うわぁぁああ」


 悲鳴をあげた1人が、命を失っていく。


「ひぃぃいいい」


 後ろから、1人、そして1人、また1人……1人ずつ減っていく。


「まずいぞ。早く逃げろ!」


「出口まで、もうすぐだ!」


 全力で逃走する調査隊は、やっと地下11階層から抜け出す。


「はぁはぁ……危なかった……みんな、大丈夫か?」


 調査隊の隊長が周りを確認しようとすると、冒険者2人と調査隊1人しかいなかった。

 逃げ切れたのは、隊長を含め4人だけだったようだ。


「なっ……」


「早く、迷宮から出ましょう」


「ああ、5階層に地上へ出る脱出用の魔法陣がある。そこに行こう!」


 3人が頷き、地下5階層の魔法陣がある転移の間へ到着し、無事に大迷宮の入口へ戻る。

 隊長は慌てて、トーステ大迷宮の門番のところへ再び走りだす。


「迷宮から戻ってきたのか。えらい早いな」


「この迷宮は危険だ! 殆どがやられてしまった!」


「どうしたんだ? 落ち着け! 状況を説明してくれ」


「はぁはぁ……あ、ああ……調査隊と冒険者たち合わせて20人いたんだが、地下11階層に得体の知れない魔物に襲われたんだ」


 その後、詳しい事情を聞いた門番は尋常じゃないと感じ、本国へ伝達魔法を使って連絡した。

 耳に入った本国が緊急、トーステ大迷宮へ入る条件ランクを、CランクからAランクへ引き延ばしたのである。


 ◆ ◆ ◆ 


 トーステ王国にある冒険者ギルドは、騒然としている。

 トーステ大迷宮に調査隊や雇われた冒険者たちが、全滅に近い被害があったからだ。

 ゆえに、冒険者ギルドマスターは頭を抱えた。


 3人座りのソファー2台と1人座りのソファー1台が、対面に配置されている集会室のような場所に、

 ギルドマスター、秘書、トーステ王国トップのSランク冒険者ゼン、Aランク冒険者カイ、トーステ王国兵士団の兵士長が座っていた。

 緊急事態のため、討伐に向けて意見交換をしている。


「トーステ大迷宮に、得体の知れない魔物が出現したことの噂が広まっており、パニック状態だ」


 とギルドマスターが声明を発し、周りに意見を聞き出した。


「20人いた調査隊が4人まで減ってしまったそうです」


 ギルドマスターの秘書がそういい、ギルドマスターは目の前にいるAランク冒険者カイに、

「原因は分かるか?」と問いかけると、カイが聞き取り調査した内容を報告する。


「生き延びた調査隊の隊長の話によると、蛇のような巨大な魔物だったそうです。護衛を担った冒険者たちまでも蹂躙じゅうりんされ、丸呑みされたそうです。

 すぐに撤退しようとしても、魔物の方が素早かったそうで、逃げ切ることが難しく4人に減ってしまったとのことです」


「蛇のような巨大な魔物? それだけの情報では分からんな」


「はい。逃げ延びた冒険者に詳しく聞きました。麻痺、猛毒などの弱体化にされてしまい、身動きが出来なかったようです」


「これは……まさかな、情報から推測するとAランクだ。Aランクのバジリスクだと考えられる」


 何故、地下11階層に? と頭を傾げるギルドマスター。


「1匹だけじゃなかったそうです。肉眼で見た限りでは3匹はいたそうです」


「なんだと! これは、自然発生か?」


「分かりませんが、地下10階層あたりにバジリスクが出現することはありえない事です。バジリスクは本来、地下20階層以上に生息するはずです」


 Sランク冒険者ゼンが手を挙げ、提案を出す。


「3匹現れたバジリスクだけかもしれません。討伐成功率を上げるために、実力がAランク相当のBランク冒険者なら10人に1匹が良いかと。Aランク以上の冒険者は……今は不足気味ですので」


「Bランク魔物1匹に対してであれば、Bランク5人が目安ですね」


 ゼンの提案に、カイは納得したかように頷く。


「そうです。30人動員が望ましいかと。ランクがBでも実力はAランクというのが、ざらなので」


 ギルドマスターが頭を縦に振り、腕を組む。


「ゼンの案が良いだろうな。それと、トーステ王国兵士団にも参加することになっている。兵士長含め20人だ」


「討伐隊は全員で、50人ぐらいですか。バジリスク3匹に対しては、いかんせん過剰な気がしますね」


 秘書がそう口にすると、トーステ王国兵士団の兵士長がため息を吐く。


「いや……確かに20人だが、トーステ大迷宮は狭い通路がいくつかある。

 多すぎると、かえって動きづらくなる。20人が許容範囲だろう」


「うむ。念のためだ。バジリスクが3匹だけとは限らない。

 早速、Bランク以上の冒険者を集めてくれ!」


 そんな集会室にて、打ち合わせし合うのだった。



 冒険者ギルドのロビーにて、ギルドマスターや秘書、Sランク冒険者ゼン、Aランク冒険者カイが集まっていた。


「ふむ、集め終わっているな。まず人数を把握したい」


「こちら、Sランク冒険者ゼンです。15人集まりました」


「Aランク冒険者カイです。12人集めました」


 報告を受けたギルドマスターは一瞬、胸をなで下ろしたが、人数足りないことに深刻な表情を浮かべる。


「ほう、思ったより早いな。目標達成まで、あと3人か……間に合うか」


「しかし、Bランク以上の冒険者となると、人数が少なく厳しいです。Cランクなら可能ですが……」


「ダメだ。Cランクでは、危険過ぎる。もっと探せ!」


 緊急事態であり、早急に討伐しないと危険度が増すからだ。しかし、タイミングが悪く、トーステ王国にはBランク以上の冒険者が少ない。

 それ故に、ギルドマスターはそれを悩ませていた。


 しばらく、ギルドマスターやSランク冒険者ゼンたちが話し合っている最中、ギルドへ立ち寄ってくる3人の人影と1匹の仔犬が見えてくる。


「あの3人は……見かけないパーティだな……」


「ええ、旅人のようですね。一体、誰でしょうか」


「仔犬までいるようだが、見たことない犬だぞ。……魔物か?」


 その3人が受付で、冒険者カードを出しているところを見つめたギルドマスターは目を白黒する。


「銀だと? ……これは、Aランクではないか!」


「彼らを討伐隊へ加わった方がいいかと!」


「ああ、そうしよう!」


 ギルドマスターはそう言いやり、3人1匹のところへ交渉しに向かうのだった。

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