59話 ドワーフ王からのご褒美

 1週間が経ち、イツキ一行は客人の間で、サフランモネアがふんだんに使われた紅茶を嗜んでいた。

 客人の間は、大理石のような石で出来た壁と床。両手を大きく広げても届かないベッドが4台並んでいる。

 ゆったりとしたソファに、テーブルの上に紅茶カップを置いて俺は【クリアボイス】のスキルを使って、ユアとリフェル、クーに声を出す。


「ドワーフ王国って露天風呂もあって、居心地がよかったよ」


 温泉に浸かることで、天にも昇る気持ちになったのだ。日本人として、温泉に浸かるのは至福の時間なのだから。

 

「ええ、普段は川とか湖のほとりとかに入ったり、布で身体を拭きますからね。景色を眺めながら温泉に浸かるってのは、こんなに至福になるものですね」


「あたしの国でも温泉があるけど、やっぱり違うね! ここの温泉は火山の近くだから、水質が全然違う! おまけに火山とか、海とか眺めながら浸かるって感動しちゃった。あたしの国だと、建物の中なんだし」


 肌も艶々になっていると感じたユアとリフェルは、ドワーフ王国の温泉のことを大変気に入っているようだ。


「ですが、個室の風呂がないのが残念です」


「うん、あたしも。ドワーフ王国の温泉って男女別で共同浴場になっているよね」


「ええ、王宮でも同じようで、個室専用の風呂はないようです」


 2人にしては、個室の風呂がないことに落胆していた。それを耳にした俺は、聞かなかったことにし、紅茶を飲み干した。

 ガルムル王はみんなで風呂に浸かるという考えが強く、個人で風呂に入るといった考えはない。ゆえに、個室に風呂は無いみたい。


 そんなとき、ドワーフ族の兵士が呼びかけてきた。


「静寂の青狼の方々、陛下がお呼びです。ご案内いたします」


 俺たちは、冒険者ギルドで登録した【静寂の青狼】というパーティとして、活躍することになったのだ。

 Aランクとして登録しているため、世界中あちこちの冒険者ギルドまで広まっている。


「良いパーティ名だ! イメージ通りで、イツキ殿たちに相応しい!」


 と、ガルムル王からも称賛受けたのである。

 それだけでなく、侍女や兵士たちにも、呼びやすくなったと喜んでいた。


 そりゃ、そうだよね。今までは、1人ずつ呼んでいたから大変だったんだろう。本当に申し訳ない。



 玉座の間へ伺うと、そこに、ガルムル王とシンゲン、宰相が立っていた。


「よう! シンゲンがついに、防具と装飾品が出来たぞ!」


「プロメダルギウス鉱石をふんだんに使った防具と装飾品だ。全て、Aランクだから役に立つぜ」


 満足そうな表情を浮かべるガルムル王と、達成感と誇らしさをあらわにしているシンゲンが、そう口にした。

 造形を凝らした豪華な台車の上に、4つの防具と装飾品が置かれていた。


 その4つとは──


 漆黒のコート──イツキ専用の防具。

 漆黒の首飾り──ユア専用の装飾品。

 漆黒の腕輪──リフェル専用の装飾品。

 漆黒の首輪──クー専用の装飾品


 イツキ、ユア、リフェル、クーへのAランク防具と装飾品だ。


 1つ目、漆黒のコート。

 羽織るもので、魔力を強化するコートだ。防御力が高く、打撃にも強い。見た目は、貴族が着るような洒落たコートになっている。


「イツキ殿はこれだ。鉱石から塗った漆黒のコートだ。イツキ殿は、まだ旅人の服だろう? そんな服で、よく冒険者になれたもんだ。もしかしたら、魔導士のような服は好まないだろうと考えた。だからコレだ!」


 と皮肉った。


 2つ目、漆黒の首飾り。

 プロメダルギウス鉱石が六角形に美しく磨かれていた。それを銀色の鎖のような紐で通した首飾りになっている。


「ユア殿はこれだ。これは魔力を高める作用があり、弱体耐性を高める首飾りだ。神官様なのに、黒い首飾りで申し訳ない。聖女の服でも神官服でも似合うよう、シンプルな仕立てにしてある」


 3つ目、漆黒の腕輪。

 首飾りと同じような六角体や四角体、色んな形が組み合わさった腕輪だ。


「これも、プロメダルギウス鉱石を色んな形に磨いている。剣技の洗練さを高める魔力を補ってくれるものだ。大事に、扱ってくれると助かる」


 4つ目、漆黒の首輪。

 星屑の首輪を溶かし、プロメダルギウス鉱石と混ぜた首輪になっている。漆黒だが、よく見るとキラキラと輝いてる首輪だ。


「クーはまだ仔犬だからな。いつか大きくなるだろう。そのために、伸縮素材も入れ込んである。魔力をより高めることができるので、かなり重宝できるぞ!」


 鍛冶王シンゲンからの褒美で、俺たちは喜色満面の笑みを浮かべた。


「シンゲンさん、ありがとうございます! 嬉しいです! 見た目がかっこいいです!」


「こんなに素晴らしいものを下さり、ありがとうございます!」


「ありがとうございます! リフェルは、この腕輪を大事にしたいと存じます」


「ガウッガウッ」と尻尾フリフリして喜んでるクー。


「くくくっ、あんなに喜ぶ顔を見ると、鍛冶王として冥利に尽きるものだ」


 鍛冶王として、誇りに感じたシンゲンは嬉しそうな笑みを浮かべた。ふと何か思い出したように、俺にお願いする。


「イツキ殿、Sランクの神話級の武器を作り上げたい。神話級の鉱石とか、見つかったら教えてくれ!」


「神話級の鉱石……ですか?」


「そうだな。オリハルコンやヒヒイロカネといった伝説の鉱石だな」


 シンゲンによると、Sランク以上の武器を作り上げるには、伝説の鉱石が必要らしい。


 この世界で、ヒヒイロカネとかオリハルコンの言葉を聞くのは、何だか新鮮だわ。

 きっと、あるんだろうな。

 見つけたら、ドワーフ王国へ向かうことをシンゲンと約束した。



 ガルムル王が俺たちを眺め、問いかける。


「イツキ殿……いや、静寂の青狼はこれからどうするのだ?」


「エレキスライムの素材を採取するために、トーステ大迷宮へ行こうと思っています」


「なるほど、グロモア連合国に行くのか」


「……グロモア連合国?」


「トーステ大迷宮は、トーステ王国が管轄している大迷宮だ。トーステ王国はグロモア連合国の中の一つになっている」


 トーステ大迷宮は冒険者Cランク以上でないと入れないらしいが、イツキ一行はAランクパーティだ。その迷宮へ入ることを許されるだろうと、ガルムル王は答える。

 トーステ王国はドワーフ王国より北西の方向にあり、馬車で向かうのに1ヶ月はかかるそうだ。


「イツキ殿! また会おう!」


「良い素材、待っているぞ!」


「はい! 色々とありがとうございました!」


 ガルムル王やシンゲンたちとの別れの挨拶を済ませたイツキ一行は、ドワーフ王国ガドレアを後にし、トーステ王国へ向かっていった。


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