58話 パーティ登録

 王宮にある客人の間で、うーん……うーん……と唸り声が聞こえる。


 その声は俺たちだ。パーティ名は、どうするか決めかねていた。

 周りからは沈黙のパーティだと思われているらしく、【沈黙の無言パーティ】と勝手に呼ばれているらしい。


 確かに【念話】で、やり取りしているからね。

 周りから見れば、無言で歩いているように感じるのだろう。そういうイメージを持たれたことに、ショック受けたが仕方ない。


 うん。沈黙は金、雄弁は銀だ。

 もしかしたら、案外かっこいいかも知れないと、前向きに考えておこう。

 ちょっとヤケクソになりつつも、色々な案を考えてみたのだが……。


『ボク、このネーミングセンス微妙』


 クーの一言により、皆が固まる。


 うう……だって、こういう二つ名を考えるのが苦手なんだ。


「じゃあ、これはどう?」


 リフェルが手に持っている羊皮紙を見やると、だった。


 そうか! これだよ!

 クーの被毛は青と白が混ざった模様だ。青毛の方が多く占めているので青い狼がいいだろう。

 沈黙は威圧的に感じるし、無言も何かホラーっぽく怖いし……。


 よし、決めた!


「みんな、【静寂せいじゃく青狼せいろう】はどう?」


 ユアとリフェル、クーにパーティ名について提案を出す。

 おおっ! と嬉しそうな顔になっていた。


「これは、いい名前ですね!」


「イツキ! これ、いい名だよ!」


『ボク、自慢の狼になるよう頑張る!』


 ついに、パーティの名前が決まったことを皆で喜び合う。


「明日、リフェルさんを冒険者登録して、正式にパーティ登録しましょうか」


 ユアの言葉に皆が頷き、やっとお眠に……。

 そして、柔らかな日差しの朝を迎える。


 ◆ ◆ ◆ 


「ここが冒険者ギルドだよ」


「門番さん、案内してくれて、ありがとうございます」


 ドワーフ王国の冒険者ギルドは巨岩で出来た建物ではなく、鉄で出来た建物だ。流石に壁だけは木板で出来ているのか、かなり分厚い壁。


 早速、冒険者ギルドの建物へ入ると、そこに何人か冒険者がいるが、俺たちの方に振り向いただけで割と静かだった。


『アローン王国と違って、絡むことはないみたいだね』


『そうですね。ひとまず、安心しました』


『悪かったね! あたしの国なんて!』


 何事もなく受付のところへ向かう俺たちだったが、リフェルだけジト目で、俺を見つめてはムスっとしている。


「ようこそ、ドワーフ王国冒険者ギルドへ」


 受付さんはドワーフ族の女性だった。背が高く、肌が茶色いのに、胸あたりが風船みたいに見えるのは気のせいだろうか。

【クリアボイス】のスキルを使って、受付さんにお願いする。


「リフェルの冒険者登録をお願いします。新たに俺たちと加わることになりました」


「リフェル……すみませんが、リフェル様はどなたでしょうか?」


「私だ! 私がリフェルだ」


 いつの間にか、リフェルは威厳のある風貌に切り替わっている。


 まさか……いつもの展開じゃないよね?


「リフェルだとっ! 南星の剣聖じゃないか!」


「うわぁぁ! 剣聖様が何故、ここに!」


「美しい……。生で見れるなんて!」


 場が騒然していた。


「まさか、剣聖様が冒険者として登録されるなんて……夢のようです」


 何故か、感涙しているドワーフ族の受付さん。


『リフェル! あまり威厳見せないで!』


『はっ、あたしとしたことが……ごめんなさい』


 しかし、七星王って、思ったより大きな称号なんだね。

 気を取り直して、再び問いかける。


「俺たち、冒険者パーティ登録したいのですが、どうやって登録すればいいのでしょうか?」


「はっ……、申し訳ございません。心が乱れてしまいました。

 はい。パーティ登録するには、冒険者カードをご提出いただき、認証後、そのままパーティ登録ができます」


「え? それだけなんですか?」


「はい。それだけなんですよ。あとパーティカードの発行をしますので、一刻お待ちいただければ」


 どうやら、パーティ登録するとパーティ専用のカードが出来るようだ。

 俺とユアの冒険者カードを提出すると、ドワーフ族の受付さんが目を丸くする。

 

「えっ、Aランク冒険者様なんですかっ!」


「はい。俺たちはAランクです。3人パーティとして登録して頂けますか?」


「ちょっと、お待ちください。ギルマスへ伝えておきますので……いえ、ご案内します」


 Aランクになると、そのままパーティ登録するわけにはいかないらしく、ギルドマスターと対面しないといけない規則があるようだ。

 何故なのか理由を聞いてみたら、あるAランク冒険者が何人かのパーティへ行き渡ったり、賄賂したりしていた。これが問題になったらしい。

 あれからギルドマスターと対面して、許可を得る形になったそうだ。



 案内されたところは、ギルドマスターの執務室だった。


「ようこそ。アタイは、ドワーフ王国ガドレアを属する冒険者ギルドマスターのカフニールだよ」


 180センチメートル程、背が高く茶色い肌をしているドワーフ族の女性で、野生を感じさせる風貌だ。書斎のそばに斧が置いている。斧を扱う戦士だろうか。


「はじめまして、私たちはパーティ登録をお願いに来ています」


「聞いたよ。ギルドマスターは世界中のギルドから情報入ってくるから。

 もちろん、2人のことは耳に入ってるよ。アローン王国の暗躍から救った英雄になったことで、Aランクへ上がったんじゃないかい!」


 なるほど。シリウスさんの言う通りだったね。登録すると世界中のギルドへ通達されるって言っていたな。


「リフェル様は、剣聖様だし、アタイのギルマス権限だと、Cランクまでしか引き上げられないんだ。ごめんなさいね」


「いや、大丈夫だ! イツキとユアは、最初はCランクだっただろう。それなら問題ない。私も依頼をこなして、イツキと同じくAランクへ上げるつもりだ!」


「ほう! 言うじゃないか! さすが、剣聖様だ。頼もしい」


 カフニールが、期待を膨らませたような表情を浮かべた。



「こう乗せればいいのだな」


 早速、リフェルがステータス鑑定石で調べるとレベルアップしていたようだ。


____________


種族 人間 LV99/100


名前 リフェル・シュバリエ 南星の剣聖


HP:16000

MP:7000

攻撃:17000

防御:15050

魔力:7020

精神:13180


スキル所持:剣聖術、剣神解放、威圧、弱体化無効


称号:七星王・南星の剣聖、英雄アローンの血族、アローン王国第二王女、剣術の極めし者

____________



 あとレベル1で、カンストになるそうだ。


「これが……剣聖様の力なのか」


「凄い。雲の上の存在です」


 どうやら、リフェルの片鱗の垣間見せた、カフニールと受付嬢は驚愕に染めた顔つきになっていた。


「いや、それは私より強い存……」とリフェルが言い切る前に【念話】で飛ばし、押しとどめる。


『リフェル、俺のことは言ってはいけないよ。秘密だよ』


『どうしてっ? イツキなら、大丈夫でしょ?』


『まだ早いよ。シリウスさんと約束しているんだ。ここでばらすと、シリウスさんの顔に泥を塗ることになるから……』


『シリウスって、ギルドマスター?』


『うん、最初に登録した神聖法皇国オブリージュの冒険者ギルドの方だよ』


『そっか──、分かった! 言わないことにするっ』


 リフェルの冒険者カードとパーティカードが出来上がるとたん、リフェルは冒険者になったぞ──! と喜んでいる。

 同時に、パーティカードも手に取った。Aランクの場合は銀色のカードになる。


____________________________

静寂の青狼


パーティランク A


イツキ 冒険者ランクA

ユア 冒険者ランクA

リフェル 冒険者ランクC

____________________________


 発行したパーティカードを見つめたカフニールが、頭を傾げる。


「あれ? 沈黙の無言パーティじゃなかったのかい?」


「そんなネーミングセンスは、微妙だったので却下したんです」


「微妙かぁ。アタイは脳筋だから、沈黙の無言ってのが好きなんだけどさ。あはは……それで、静寂の青狼ってどういう意味なんだい?」


「それは……リフェルのアイデアで決まりました。から参考にしてます。うちにはクーという従獣魔がいます。クーは青い体毛なので、青狼にしたんです」


 獣魔ではなく本当は神狼なんだけど、ここは伏せておこう。


「なるほど! それはいい名じゃないか。誇りを持って活躍してくれよ! アタイはそんなパーティをすごく期待しているからさ」


 カフニールは嬉しそうに、ニッと口元を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る