57話 ドワーフ王国観光

 俺たちは、せっかくのドワーフ王国なので観光しようと、街並み歩いている。

 どこからか、鉄のような匂いが漂っていた。茶色い肌をしたドワーフ族たちが歩いていたり、笑いあったりしている。

 この国は本当に、俺たちの方が一番背が低いなと感じさせるほど、背が高い人たちばかりだ。


 ふと眺めると、珍しい建物が視界に入る。


「これは何ですか?」


 俺が指差した向こうには、巨岩に囲まれた鉄の家が建っていて、いい匂いが窓から出ていた。


「ああ、これはドワーフ名物の店だ。行ってみるか?」


 ガルムル王は旅商人ガルドに変装し、ドワーフ王国の案内をしてくれている。

 ただ、宰相は「ああ、また出掛けおった」とぼやきながら頭を抱えていたが、見なかった事にした。


 ドワーフ名物の店は伝統的なドワーフ料理を扱っているらしく、どんな料理なのか興味津々だ。


「ドワーフ料理って、どんな料理なんですか?」


「そうだな。ドワーフ料理といっても、酒だな! がははっ!」


「え、酒ですか?」


「ドワーフ族は酒が強く、呑み競争するもんだ。イツキ殿は呑める口か?」


 これはイエスと答えると、呑み勝負されるな……と一瞬、迷ってしまった。だが、その一瞬を見抜いたガルムル王は、フッと鼻で笑う。


「イツキ殿、いやかね?」


「大丈夫ですよ。呑みに関しては、負けませんから!」


 ああ、ガルムル王からの挑発に、つい乗ってしまったよ。


「ほう! 今夜は宴やろう!

 ──オーナー! 今夜は宴をやりたい。良いか?」


「いいさ。急な感じだけど、集められるのかい?」


「大丈夫だ。俺の伝手で集められる。そこは、安心していい」


 そりゃあ、国王だもの。

 見た目は旅職人ガルドだけど、本当に国民と解け合ってるなぁ。

 国王なのに、国民と上手く解け合っているのは凄いことではないだろうか。


 そんな中、エールを飲みながら、ガルムル王と笑い合う。


「俺はガルドとして振る舞っているから、国民の悩み事、雰囲気を掴んでいるのだよ。王の前となると、畏まってしまうのだからな」


 そう言い、エールの入ったジョッキを持ち、一気飲みするガルムル王。


 ガルムル王の粋な計らい……さすが、ドワーフ王国のお父さんだ。


 しばらく経つと、給仕さんが料理運んでくる。

 食卓に料理が置かれているのは、何やら紫色で渦巻き模様をした大きな卵だった。


「これは、コカトリスの茹で卵だ」


 ガルムル王が食卓の上に置かれている、大きな茹で卵を手に取り、口へ運んでいく。


 ゆで卵そのものだ……


 俺も、ガルムル王と同じように食する。ユアとリフェルは、恐る恐ると口につけた。

 クーは、すぐにカブリとしていた。


「これは、濃厚ですね! 美味いです!」


「初めて食べますが、これは甘みがあってコクがあります。すごく美味しいですね」


「へぇ! こんな料理があるとは、知らなかったよ」


『ご主人様! これ、濃厚だよ』


 あまりの美味さに笑みがこぼれるが、ガルムル王の次の一言によって凍りついてしまう。


「旨いだろう? 精がつくぞ! なに、毒は抜いてある」


「……ど、毒?」


「石化作用があるのだよ。食した者が、石化になる毒だ」


 なるほど。こんな危険なものまで食べようとするとは……。食に対する欲がすごい伝わってくるのが分かるぐらいだ。さすが、ドワーフ族だ。

 コカトリスの茹で卵は、確かに美味しい。まろやかな味わいがあり、ぎっしりとしたクリームのような濃厚さがある。 

 だが、ユアとリフェルはそうでもなかったようだ。


「えっ……」


「あたし、大丈夫かな……」


 クーも口開いたまま、ボロッと卵を落としていた。


 真っ青になるユアとリフェル、クーに、ガルムル王は大丈夫だと慰めながら、クーをワシャワシャと撫でた。


 イリス火山の近くには、特別な源泉が湧いている。

 フェニックスが住む火山であって、石化や毒などを浄化する作用がある源泉として重宝されている。

 そこでコカトリスの卵を茹でたりするので、ドワーフ王国の名所となっている。

 また、毒や麻痺などの状態異常を回復する温泉もあるので、ドワーフ族からの評判が高く人気のスポットだそうだ。



 ユアは何か思い出したように、リフェルにこっそりと問いかける。


「そういえば、リフェルさんは弱体化無効というスキルをお持ちでしたね。コカトリスの卵を食べると、石化にならないのでしょうか?」


「あ──、あれね。あのスキルは、発動しないと意味がないんだよ。今回は戦闘時ではないし」


「それにしても、イツキさんは平気な顔をしていましたね。リフェルさんと同じ、スキルお持ちなのでしょうか」


「言われてみれば……確かにそうだね」とコソコソと話し合っていた。


 俺は当然、耳に入っている。いや、ユアの【共有念話】で頭に入ってくるのが正しいだろう。

【女神の加護】を持っていると、こういうことに関しては無自覚になってしまうな……と、冷や汗をかくのだった。




 夜になり、宴会が賑やかになってきた。30人ほどのドワーフ族が酒を飲んでいる。


 彼ら彼女らは、ガルムル王が誘ったらしい。食事代はガルムル王が全て負担するらしく、参加者は大いに喜んでいる。

 シンゲンも来ているみたいだ。弟子たちと門番の兵士さんもいるね。


「イツキ殿、パーティ名はなんて言うのだ?」


 ガルムル王からの問いに、パーティ名はないと答えた。


「パーティ名がないのか……珍しいもんだ」


「えっ、パーティ名がないと、まずいのでしょうか?」


 パーティ名って、意味があるのだろうか?


 その時に、シンゲンや門番の兵士が説明してくれた。


「冒険者はチーム活動が多い。パーティ名があると、呼びかけやすいし、まとめやすいからな。それだけでなく、パーティランクというのがある。ランクによって、処遇もかなり変わる」


「そうです。個人ランクとパーティランクは依頼内容も変わりますよ。例えば個人のランクがBだとしても、パーティの中にAランクの方がいること、チームワークの能力がAならパーティランクがAになるのです。

 Bランク冒険者が個人では受注不可のAランク依頼でも、パーティランクAなら受注出来ます」


 そうなのか……初めて聞いたぞ。

 ユアとリフェルに振り向くと、2人とも頭を横に振っていた。どうやら、知らなかったようだ。


「私、冒険者歴が短いので全然、知りませんでした」


「あたし、冒険者登録してないけど、やっぱり受けた方がよいみたいだね」


 リフェルの一言で、ガルムル王たちは目を丸くする。


「こりゃあ、面白いな! 本当に冒険者なのか疑うわ!」


「はははっ! 全くだ!」


「ははっ、面白い方ですね! ささっ、これも飲んでください!」


 ガルムル王たちは、ツボにハマったのか爆笑してしまったようだ。



「やっぱり、パーティ名を決めようか?」


「そうですね。迂闊でした。まさか、パーティ名まで考える羽目になるなんて」


「そうだね……じゃあ、今日中に決めよっか!」


 門番の兵士に冒険者ギルドを案内するよと勧められ、翌日、向かうことになった。

 宴会がお開きになったあと、王宮にある客人の間にて、パーティ名を何にしようか、俺たちは悩んでしまうのだった。

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