56話 ガドレア王のサプライズ

 5袋のプロメダルギウス鉱石がたくさん詰め込まれたデカい革袋を背負いながら、ドワーフ王国ガドレアへ戻った。


 今は、シンゲンの家にいる。


【永続補助魔法:エターナルブレイブ】はすごい魔法だ。

 全然疲れず、気分がいい。だが、魔力の消費が激しく2日ほどで枯渇してしまうのがデメリットだった。まぁ、2日なら大丈夫だろう。

 結局、デカい革袋の3袋は俺が持ち、2袋はシンゲンで持ち帰ることになったんだよね。

 

 ユアとリフェル、クーはずっと目を丸くしたままだったが……。


「やっと、帰宅出来ましたね。あ、革袋はここに置いておきますね」


「おう! ご苦労様! 普段は革袋1つ分しか採掘しないんだが、イツキ殿のお陰で大量だ。オレの腕がウズウズしているがな」


 ホクホク顔のシンゲンは、ニンマリと言った。続いて、弟子たちがデカい革袋を背負って工房へ運ばれていった。

 

「さて、王宮へ行き、ガルムル陛下へ報告しよう」


 俺たちはうなずいて、身だしなみを整えてから、俺たちと共に王宮へ向かった。


   ◆ ◆ ◆



 玉座の間にて、嬉しそうな顔になっているガルムル王は、果実酒をまったりと飲んでいた。


「ご苦労! イリス火山はどうだ? 良いところだろう?」

「いや、それがだな……」


 シンゲンはガルムル王に、イリス火山にて起きた災難を説明した。


「なんだと! お前! なぜ早く、連絡しなかったんだ!」

「仕方ないだろ! 状況が状況だったんだぞ!」

「お前たちだけで解決するな! 失敗した時はどうするんだ!」

「大丈夫だと思ったんだよ! イツキ殿がいたお陰でな!」

「だが、フェニックス様は未だ怒ってるんじゃないか!?」

「大丈夫だ! これも、既に解決してある!」

「本当か!? いや、嘘だろう? フェニックス様は規律に厳しい御方だぞ!? キレたら終わりだぞ!」


 ガルムル王が年少期の頃、イリス火山へ勝手に登ったことがあるそうだ。

 火口のところで、おふざけの度が過ぎたのかフェニックスに怒られ、大火傷をしてしまった。

 フェニックスは、相手が王族であれ、容赦なくをするらしい。

 ガルムル王は痛々しい記憶がよみがえり、冷や汗をかいたのだった。


 シンゲンは頭を振った。


「それが、難なく上手く行ったんだぞ! フェニックス様がイツキ殿のことを気に入っておられたのだからな!」

「はぁっ!? たった、1日でかっ!?」


 ガルムル王は、ハハッ、それはありえんだろう? というような顔つきになっていた。


 そんな2人はいまだ、ぎゃあぎゃあと言い合い続いている。

 ガルムル王がシンゲンの肩をつかんでユッサユッサと揺らしたりしている光景に、宰相はオロオロとぼやく。


「また、始まったか。ワシ、どうすればいいのかね……」


 側近にいた兵士までも、呆れたのか乾いた笑いをしていた。


 ガルムル王とシンゲンは仲良しがゆえに、こんな言い合いするのは日常らしい。


 うーん、これはフェニックスを呼んだ方がいいかも知れないな。

 そう思った俺は、シンゲンに【クリアボイス】を使って声をかけた。


「シンゲンさん、フェニックスさんを呼びましょうか?」


 そう言うと、シンゲンは瞬いた。とたん、納得した顔に変わった。


「ああ、そういうことか。――ガルムル陛下は頑固だから、見せた方が早い」


 ガルムル王は、シンゲンに振り向いて怒鳴った。


「おい! 今、さらっと失礼なこと言ったな! それより、イツキ殿、フェニックス様を呼ぶとは?」

「はい。来てくださると思います。ここに呼んでもよろしいでしょうか?」


 ガルムル王は玉座に座り、あごに手を当てながらニヤリと笑みを見せた。


「ほう、まことか? いいだろう。やってみよ!」

「くっくっく、ガルムル陛下、覚悟した方がよろしいですよ?」

「……ふんっ!」


 シンゲンの冷ややかな助言に、ガルムル王は鼻を鳴らした。


 2人とも本当に仲良しで。

 ――とりあえず、フェニックスから教わった上位精霊召喚魔法を脳内で唱える。


(目覚めよ、復活の奇跡、出でよ、紅蓮の炎、聖なる炎、浄化せよ、大精霊獣フェニックスよ、顕現せよ)


 赤く輝く魔法陣が浮かび上がった。とたん、鷲のような大きなクチバシが飛び出してきた。大きな深紅の翼が広げていく、そして、羽ばたいてきた。

 灼熱のようで熱い風が、こちらにさすった。フェニックスの身体が俺と同じように縮んていったとたん、鳴き声を上げた。


 ────キィィィィ!


「なぁっ!!」


 フェニックスの出現で、ガルムル王は驚きのあまりに、玉座から落ちてしまった。


「おいおい! まじかよ!」


 シンゲンは、頭を手で押さえながら唖然としていた。


 俺とフェニックスは、互いに、ふふっと笑う。


「ガルムル陛下、驚きましたか? 先ほどのお返しですよ!」


 そう言うと、ガルムル王は苦笑いした。


「くっくっく、やられたな。まさか、イツキ殿がフェニックス様と契約されていたとはな。」


 シンゲンもうなずく。


「陛下、オレもだ。イリス火山で何だかんだ仲よさそうに、語り合っていたからな……まさか召喚契約するほど、仲良くなるとは思いもしなかったぞ」

「ふふっ、ガドレア王よ。驚いたようね」


 フェニックスは、してやったりという顔つきで言った。

 ガルムル王を驚かせたことで満足したのか、フェニックスは俺に振り返って、【念話】で伝えてくれた。


『イツキよ。ガドレア王の驚く顔を見れたことで、ワタシは楽しめました。では、またお会いしましょう』


 と言い残し、フェニックスの身体が光り輝く粒子のように消えていった。


 もしかして、フェニックスも、ガルムル王とシンゲンと同類なのだろうか……

 いや、気さくな王だからこそだろう。


 普通は、王に逆鱗を触れると、制裁される。

 だが、ガルムル王はサプライズが出来る人物を好んでいるみたいだった。

 城の外ではガルドとして民のように振る舞い、後々に実は王でした! と驚かせることを面白がっている。それは、シンゲン然り、フェニックス然り。

 また、相手からのサプライズを楽しみにしている王の顔もある。

 だからこそ、ガルムル王は俺を見つめて、そんな言葉を発した。


「イツキ殿! そなたが見せたサプライズは最高だ! 報酬を与える!」


 玉座を座りなおしたガルムル王は、そう言い切り満足そうな顔を浮かべた。

 宰相や並んでいる兵士たちは、目を丸くしたまま固まっていた。


「イツキ殿たちには、我が国が誇る最高の防具を贈ろう。シンゲン!」

 

 シンゲンはひざまずいた。


「は! 1週間お待ち頂ければ!」


「ふむ……イツキ殿、1週間滞在してくれないか? ここにある客人の間で暮らすといいだろう」

「あ、ありがとうございます!」


 シンゲンが俺の肩を叩いた。振り向くと、シンゲンの顔が真剣な眼差しで、気迫に感じられる。鍛冶王の顔つきになっていた。


「イツキ殿、これから鍛治に移るので完成するのに1週間かかる。それまでは待ってほしい。鍛冶王として最高の防具に仕上げるつもりだ。期待してくれ!」


 シンゲンはそう宣言し、王宮を後にした。

 ガルムル王はスクッと王席から立ち上がり、俺たちに視線を向けて招いた。


「さぁ、みんな! 客人の間へ行こう」


 イツキ一行は王宮にある客人の間で、1週間滞在することになった。


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