54話 火の大精霊獣
────ギィィィィ!!
イツキ一行が我が領地へ入ってきたことに気付いたフェニックスは、怒りを露わにイツキ一行へ目掛けて飛んできた。
フェニックスは紅蓮の炎をまとう翼を羽ばたきながら、クチバシから火炎放射らしき、炎の渦を吐く。
リフェルは炎の渦を目掛けて、一気に閃光のように鋭い真空波を撃ち放った。
「いっけぇ! アイレ・エスパーダ!」
炎の渦が真っ二つに割れ、それぞれ違う方向へ飛んでいった。
────ギィッ!
フェニックスは断ち切られたことに、我が目を疑っていた。
鋭い眼光で見つめると、七星王が2人いることに気づき、思わず【念話】が飛ぶ。
『おのれっ!』
「ちょっと待ってくれ! オレだ! 契約を破っていないっ!」
シンゲンは見当違いだ! とフェニックスに叫んだが、聞く耳持たず、ふたたび炎の渦を吐き出した。
狂気じみた怒りを当たり散らすフェニックスに、シンゲンは困惑してしまう。
(ダメだ、キレちまっている。完全に自分を失っているな。仕方ない……作戦通りに進めよう)
フェニックスは紅蓮の炎をまとい、翼を大きく広げる。
「これはまずいっ! 【灼熱の熱風】だ。イツキ殿! すまねぇ、防御を張ってくれ!」
「はいっ!」
【防御魔法:エレメンタルウォール】を無詠唱で展開し、クーも【
フェニックスが激しく燃え、ゴォ────と地鳴りとともに、
だが……。
────ギィ!?
俺の張った防御魔法によって、【灼熱の熱風】が妨げられたことに、フェニックスは驚きを隠せない。
続いて、クーが放った【
霧で見えなくなった今が、チャンスだ!
「ユアさん! 俺たちを飛ばして!」
「はいっ! 浮遊せよ、あらゆる万物よ、重力に逆らえ、レビテト!」
ユアの【神聖魔法:レビテト】で、俺とクーはフェニックスの頭上の方へ勢いよく飛んでいく。
【感知遮断】スキルも使っているので、フェニックスは気付いていない。だが、気付くのは時間の問題だろう。
フェニックスの紅蓮の翼によって発生した熱は、空へ上昇するものだ。
地上にいるより、フェニックスの頭上にいる方が全身が炎に包まれるほどの高温になっているゆえに、焼け死ぬだろう。
つまり、フェニックスの頭上に向かうのは命を投げ出すのと同じだ。
だが、俺とクーは先程に作り上げた【オリジナル魔法:クーラーボックス】を張っているので、割とへっちゃらなのである。
クーとは【念話】でやり取りしていた。
『クー、準備はオッケー?』
『もちろん!』
『よし! 行け!』
『うん! 行くよ!
同時に、俺も無詠唱で【水魔法:アクアショット】を撃ち放った。
【水魔法:アクアショット】は俺の背丈より半分ほど大きさの水の塊を生み出し、対象を目掛けて発射する中位の水魔法だ。
頭上に一人一匹の存在を気付いたフェニックスは上に振り向く瞬間、【アクアショット】と【
────グウッ!
よしっ! 顔に直撃したぞ!
フェニックスは一瞬、気をとられてしまい、頭をブンブンと振っている。
その一瞬を逃がさずユアが、【神聖魔法:女神の鎖】を展開した。
「女神よ、裁きを与え給え、逃さず拘束せよ、女神の鎖!」
『っ! こ、これはっ!』
フェニックスの中心に巨大な光の柱が立ち上がり、光り輝く鎖がフェニックスをかんじがらめに縛りつけた。
────キィィィ…………。
絡まれたフェニックスはどうやら、【女神の鎖】で我に返ったようだ。 辺りを見渡し、自分がどれほど激怒していたかに気付いたのか、冷静になっていく。
大人しくなった途端、周りの炎やグツグツと膨れ上がる溶岩が静まっていった。
やっと穏やかになり、俺たちはホッと安堵し、
シンゲンが拘束されているフェニックスの方へ近寄って話しかけた。
「フェニックス様、落ち着きましたか?」
『シンゲンか。ワタシは怒りで我を失っていたのね』
申し訳なさそうな表情を浮かべるフェニックスは、シンゲンの他にも数名いることに気付く。
『ああ……』
俺を見つめたフェニックスは、なぜか悲しそうな顔つきになっている。
え? 俺に何か? 何で、悲しそうになるんだ?
『貴方はイツキね。悪いことをしてしまったようね』
そう口にするフェニックスは、しょんぼりとしている。
この光景を眺めたシンゲンたち、ユア、リフェルは目がぱちくりと俺を見つめた。
「フェニックス様が何故、イツキ殿の前で頭を下げているんだ……」
「ごめんなさい。私も混乱していて、掴めません……」
「展開が読めないんだけど! イツキって何者なの?」
フェニックスは、俺に真剣な眼差しで見つめては【念話】で話しかける。
『ここだけ、イツキに伝えたい』
フェニックスの話を聞くと、六大精霊王は女神の眷属であり、【女神の加護】を持つイツキは特殊な存在だそうだ。
そんなの初耳なんだけど! と目を見張ってしまう。
『上位精霊召喚魔法を授けます。いつでも、どこでもワタシを呼ぶといいでしょう。
そうそう、ドワーフ王国ガドレア王の前に召喚して、あの王を驚かせますか?』
『あ、それいいですね! ガルムル陛下にはドッキリの仕返ししたい』
『ふふふ、ワタシとは気が合うようですね』
俺とフェニックスは、お互いに悪い笑みを浮かべていた。
なぜか、悪巧みコンビ誕生である。
仲睦まじい様子を見やるシンゲンは、イツキという存在に怖れを抱いていた。
リフェルは、茫然と見つめている。
ユアは【共有念話】を発動したままだ。イツキとフェニックスの間での、【念話】のやりとりを聞いていた。
(イツキさんはやはり、女神様の……。こんなに仲睦まじいのは、女神様の繋がりがあるからでしょうか)
『その通り。ユアよ。【女神の鎖】を扱ったのは貴方でしょう?』
突然、ユアの頭の中にフェニックスからの【念話】が届く。
「っ!」
『驚かなくても大丈夫です。ワタシは女神様の眷属であり、六大精霊王の一柱。
何かありましたら、協力してあげましょう』
『あっ、ありがとうございます』
ふふっと微笑するフェニックスに、ユアはペコペコと頭を下げた。
『フェニックス様、ドワーフ城の中は狭く入れないのではないでしょうか? それに……城ごと燃えてしまわないのでは?』
『あら、そうだわね。でも、ワタシの体は自由自在にできるのよ。それぞれの空間に合わせて大きくもなり小さくもなる。それだけでなく、炎の調節も“我が意思”のままよ』
『我が意思のまま……ひょっとして、お城を燃やすことも?』
『それもアリよ。国ごともね。ふふふ』
【念話】で聞いていたユアはサァ――っと青ざめて、必死にシンゲンに伝えた。
すると、シンゲンは青ざめてばっと振り向く。
「フェニックス様! それは勘弁してくれ──!」
シンゲンの声が、イリス火山で大きく響くのだった。
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