49話 学園都市

「貴方は七星王なの?」


 これが、リフェルの最初の問いだった。

 俺は慌てて、横を振る。


『そう、じゃあ、七星王になるつもりかな?』


 リフェルが【念話】を使った一言で、場が重くなる。ズシンとくるように、身体が押しつぶされそうだ。

 そう、俺にリフェルのスキル【威圧】を放っていた。


【威圧】から逃れるために、馬車から出る。


『なりません。というより、なる予定はないです』


『イツキ。貴方は、どの七星王より強い。いえ、とっくに超えている。それなのに世界を旅するというのは、どういう意図なの?』


 リフェルはどうやら世界を害する者か、どうか見極めているようだ。

 だが、俺はそんな気はないと告げる。


『世界を旅するのは、この世界についてもっと知りたいからです』


『世界? もしかして、イツキはユウカ:カンザキと同じ異世界からの来訪者?』


『はい。女神が俺をここに呼び連れてきたのです』


『なるほど……そうだったのね』


 安堵した表情を顔に浮かべたリフェルは【威圧】を解き、場の空気がやわらかくなる。


『さっきのはごめんね。イツキのことを、確認したかったから。やっぱり、イツキは安心できる人だね!』


 嬉しそうな笑みを浮かべたリフェルが、俺の手をぎゅっと握る。


『七星王の一人、南星の剣聖リフェルはイツキを守ります。改めて、今後とも、よろしくお願いします!』


『あ、こちらこそ。……俺もリフェルさんに何かあったら、助けます』


『リフェルでいいよ。畏まると余計にね。さん付けなくてもいいから。というより、砕けた感じでくれると嬉しいな』


 あ、畏まるとリフェルにとっては失礼になるか。それなら……。


『じゃあ、リフェル、学園都市まで案内よろしく』


『うんっ! イツキ、案内するよ──』


 リフェルは俺の手を引っ張り、一緒に馬車の中へ向かった。


 顔色が真っ青になっていたユアが、リフェルにこらしめる。


「リフェルさん、おふざけはやめてくださいね。そんな威圧を出されるとハラハラしますから」


「ごめんね。ユア、イツキのことを知りたくなっちゃったから」


「まったくもぅ……」


 ユアはやれやれと、言わんばかりだ。



 ◆ ◆ ◆ 



 太陽が沈みはじめた頃の夕焼けが美しい……俺は空を見上げて、うっとりとしていた。


 イツキ一行は疲れを癒す為に、アローン王国の学園都市に立ち寄る。

 首都アローンから馬車で3日かかる場所、それが学園都市だ。学園都市は数多の国から集い、魔法研究を行ったり、剣術を磨いたり、学問を学ぶ場でもある。

 アローン王国へ通る通行料や運搬などで集めた通貨を、学園都市へ投資している。ゆえに、学費は無料になっている。

 ただ、人気があり倍率も高く、入学条件が非常に難しいようだ。


 リフェルが着いたよ――とサインを出す。


『おお、ここが学園都市なんだ? アローン王国なのに、首都アローンとは風景が違うね』


 学園都市は広大な湖を見下ろす丘の上に、いくつかの城がそびえている場所だ。

 日本といえば、丘の上に超高層ビル群が建っているといえばいいだろうか。装飾が凝った煌びやかな建築物が密集するように、一つの都市が出来上がっている。


「へへーん。すごいでしょ? あたしは過去に学んでいたし、剣術の稽古ばかりしてきたんだっ」


 リフェルは誇らしげに、語る。


 へぇ。リフェルはここの卒業生なんだな。そこにオブリージュの第三皇子がいるんだよね。


 リフェルに、【クリアボイス】スキルを使って発声してみる。


「ここに神聖法皇国オブリージュの第三皇子が学園にいるらしいけど、知ってるかな?」


「へっ!! イツキ、喋れたの!?」


「ふふっ、イツキさんは【クリアボイス】というスキルを使ってます」


「すごいなぁ……なんでもありなんだね。今は聞こえるの?」


「それは、私が【共有念話】を常時発動してます。私が聞こえる限り、イツキさんは通じますから」


 ドヤ顔で答えるユアに、リフェルはすごーいと感嘆している。


「あ、オブリージュの第三皇子ってリヒトのことだよね? いるよ──!

 今日は女神の日だから今はいないかも。明日行ってみる?」


「あ、休校日なのですね。今日は宿屋でお休みしましょうか。皆さんもお疲れでしょう?」


 ユアの提案で、俺とリフェルは賛成した。


 学園都市の通路は迷路のようで、構造が複雑だった。


 これはかなり、迷うな……。

 リフェルがいなかったら、宿屋へ行き着けなかったかもしれない。


「はい。ここが、あたしの行きつけの宿屋ですっ!」


 その宿屋を見やると、お城だった。


 はっ? 城? 本当に宿?


 密集された場所から離れた所に、きらびやかな装飾に荘厳な城で、対岸と橋でつながっている。


 貴族と王族御用の特別な宿屋って感じかな。

 

「なんていうか……外装もなんだか、歴史が長そうな感じで凄いね」


「ええ、宿というより完全にお城ですよね……ちょっと思いもしませんでした」


「じゃ、入ろっか! あたしがいるから大丈夫! 大丈夫!」



 ◆ ◆ ◆ 

 


「いらっしゃいませ。あら? こちらは王族関係者のみ承っております宿泊でございますので、あいにく、冒険者の方はお泊りできないのですが……」


 やっぱり、王族御用達の宿屋じゃないか!


「私は、リフェルだ。現国王であるコンスリェロ・シュバリエⅨ世の第二王女リフェル・シュバリエ。今回は、私の友人2人と宿泊したい」


「リフェル王女様っ! 申し訳ございませんっ! 王女様だと知らずに、お断り入れてしまい、大変申し訳ございませんっ!」


 フロントの受付の女性は、リフェルが王女だと知ると、慌てたようにお詫びをする。すぐさま、他のスタッフにも慌ただしく声かける。


 おお、リフェルは公の場となると、威厳のある風貌になるのね。あまりの変貌っぶりに、びっくりするわ。


「で、……で、では、部屋まで、ご……ご案内、いたします」


 受付さん! 手がブルブル、震えてるよ!



 案内された部屋は、王族御用達に相応しい部屋だった。天井も高く、華やかで美しくきらびやかに輝いていた。部屋もいくつか設けられている。

 まるで、高級ホテルのスイートルームのようだ。


 ベッドが3つ並んでいることに、気付く。


 え? 3人部屋? ちょっと待って。


 これまではユアと2人きりだったので、だいぶ慣れてきたけど、3人と一緒となると流石に堪える。

 俺は男だ。流石に美少女2人と一緒に寝るというのは、緊張してしまう。ゆえに、別々に寝たかった。


【クリアボイス】スキルを発動し、ユアとリフェルに話しかける。


「あの──、俺は……クーと一緒に別の部屋で……」


 言い切る前に、ユアがキッと睨まれる。リフェルは一緒でも構わないというような顔つきだ。


「どうしてですか? これまで、一緒に寝たでしょう?」


「イツキなら、一緒でも大丈夫だよ」


 2人にして、一緒に寝ろと言わんばかりだ。どうするか、頭の中がぐるぐる回ってしまう。


 あっ、叡智様に聞いてみよう。


(叡智様! 別々に寝るためには、どうすればいいですか?)


〈一緒に寝てください〉


(はぁ? なんで!?)


〈友好を高めることです。離れば、友好レベルが下がります。一緒に寝ることを推奨します。別々に寝ることは諦めてください〉


(ええっ……)


 イツキは天を仰ぎ、悟りの領域へ入ることになってしまう。そんなイツキを見つめたユアとリフェルは、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る