幕間 リフェルの意地

「父上! ご無事ですかっ!」

「う……うむ、危ない目に遭ったわ」


 目の前には、黒装束を覆った影が転がっている。胴体が真っ二つになっており、血飛沫によって絨毯じゅうたんが真っ赤に染まっていた。

 リフェルが、父上を守り抜いたからだ。


「まさか、本気で暗殺を実行するとはな。これ以上は、待てん!」


 


 この事実がはっきりした今、リフェルは、我が父上に、こんな悲劇に遭わせてたまるかと守る決意をする。

 リフェルは七星王の一人である、南星の剣聖だ。


 コンスリェロ国王は、アローン首都に滞在している騎士たち、巡回している兵士たちを全員呼び集めよと、総団長ブルーノに命令を下した。


「はっ! 直ちに準備いたします」


 とブルーノは手短に口をし、王の間を後にしたのだった。


 時間が過ぎ去っていくなか、リフェルたちは苛立っていた。

 父上や側近たちが戦争を避けるために、色々な対策を練っていたが、まだ解決できていない。

 コンスリェロ国王が、頭を抱えてぼやいた。


「リフェルよ、余はどうしようもない。我が諜報部隊から良い結果が出ておらず、困難を極めておる」


 父上は一睡もしていない。それゆえに、目がクマになるほど、顔色が悪い。

 暗殺未遂とはいえ、いつ起きるかどうかは分からない。

 やはり、父上を守護する直属騎士団のそばにいた方がよいのだろうか。


 だが、私は王女であり、父上の子なのです。

 父上に何かあると、とても心配になります。


「私が父上を守ります。解決するまで、私はどこにも行きません」

「リフェル……。すまぬな。不甲斐ない父で。――助かる」


 そう宣言したことで、父上は安堵してくれた。

 テレーゼ王妃にも心配しているゆえに、父上に案を出す。


「あなた、やはり、冒険者を依頼してはいかがでしょうか?」

「むう、冒険者か。信頼できるのか? 金目当てしか寄ってこないぞ」


 そう、アローン王国の冒険者は金しか考えていない冒険者が多く、殆どがフェーゴの管理下となってしまっている。

 そのため、コンスリェロ国王は信用できず頼りにならないとぼやく。


 テレーゼ女王はここで1つ、提案を示した。


「では、信頼できる冒険者を頼めばよいのでしょうか? 冒険者ギルドマスターのロウ殿は信頼できますし、何か伝手があるかもしれませんよ」

「む、確かにそれはそうであるな。──諜報部隊よ! ブルーノに、直ちにロウ殿を呼ぶように伝えよ!」


「はっ!」


 コンスリェロ国王は諜報部隊に、ロウを王の間へ来るよう命令した。

 リフェルは両陛下を眺めながら、ソファに座って思考していた。


(身動きが出来ないとは……、これも向こうの策略か。剣聖である私をここに封じ込めるとは大したものだ)


 レジスタンスの策略の手腕に称賛するリフェルは、目をキリっとする。


(だが、私がいる限り、絶対に成功させない!)


 リフェルは、父上を守る決意を固めたのだった。


 ◆ ◆ ◆ 


 ロウから、ある冒険者が集めた情報を聞き入れたコンスリェロ国王が声を荒げた。


「なんだと! 魔族だと!」


 父上が大きな声をあげたことに、リフェルは眉をひそめた。


(魔族か。レジスタンスじゃなかったのね。心底、ガッカリしたな。私達もレジスタンスも魔族に踊らされた訳か)


 そして、ロウがその情報を集めた冒険者は何者か、これまでの経緯を詳しく説明する。


(イツキ……。剣聖である私でも解決できなかったことを、あっさりと解決した冒険者か。一体、どんな人物なのか気になるな)


 リフェルはイツキという冒険者のことを、気になり始めたのである。


 ◆ ◆ ◆ 


 戦争を阻止できたこと、魔族2人組は既に拘束されていることの情報を、耳に入った王族たちは胸を撫で下ろした。

 イツキとユアの実力の片鱗を垣間見ることで、どんな人物なのか知りたくなっていた。


「ぜひ、我が国を救った英雄二人とも会ってみたいものだな」

「そうですわね。招きましょう」


 両陛下がイツキたちのことを称賛している最中、リフェルはイツキとユアのことをますます興味が湧いてきたようだ。


 第二王女リフェルの部屋は、花びら模様のソファに食卓、天蓋ベッドの他に、剣聖に相応しい剣や衣服が並べている。

 リフェルは1人で、窓の向こうの景色を眺めていた。


(やはり、あの二人は普通の冒険者ではないようだな。

 先程見た、あの【女神の鎖】はシーズニア大聖堂の神官しか出来ないと言われている神聖魔法だ。そんな魔法を扱える者は恐らくユアだろう。

 しかし、疑問だ。何故、あの方が冒険者になる? イツキとは、一体何者だろうか)


 イツキ一行が証拠をつかんだ羊皮紙のことを思い出し、ため息をつく。


(私は未熟だな。七星王の南星という称号を持つ私でさえ、父上を守る事しか考えておらず、何も役に立たなかったとは……。知らない世界があるのだな。どうやら世界を知るべき時期が来たかも知れない。それを教えてくれたのは、イツキという御方だ)


 部屋の周りを眺めながら、腰際に備わっている剣を抜く。


(何としても、イツキとユアと共に旅をしたい。その為にはどうするか考えよう。世界を知るのは今しかない。是非とも、加わりたいものだ)


 どうするか考え込むリフェルは、研ぎ済まれた剣先を眺めて、フッと微笑む。


(父上と母上には申し訳ないが、私はこの国から離れたいのが本音だよ)


 そう思いふけるリフェルだった。

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