47話 アローン国王との謁見

 孤児院から発ち、住居エリアから観光エリアへ向かっているところ。

 少し遠いので、馬車に乗って行くことをオルデレークさんから勧められたが、アローン王国の街並みの雰囲気を味わいたいので歩くことにした。


 カラフルに彩られている建物が並ぶ街並み、道沿いにも花が沢山咲いていた。  花の世界のような風景を眺めて歩くのは、清々しい気分になれる。

 事件を解決したからなのか、以前より明るい雰囲気になっていた。


「ギャン! ギャン!」


 クーははじゃき過ぎたのか、道沿いの水路に落ちてしまったようだ。

 うん。元気でよいね。


 俺とユア、クーは、冒険者ギルドまでゆったりと散歩したのであった。


 冒険者ギルトにたどり着き、ギルドマスター執務室でロウと会話を交わう。

 ロウは、かなり嬉しそうに笑っていた。


「イツキ殿、ユア殿、此度は助かった。君たちは、紛れもなくアローン王国の英雄じゃ。シリウス殿の言う通りじゃったな」


 そう言って、俺たちに握手してくれた。続いて、クーを見やり褒めたたえながら、撫でまわす。


「チビ犬! よく頑張ったのう! 褒美に肉やろう」

「ガウ! ガウ!」 


 クーは嬉しそうに吠えた。

 ニコニコと微笑むロウが、俺に振り向いて言った。


「そうそう、国王陛下より、君たちと会いたいそうじゃ。この国を救った英雄だと称えたいと言っておったぞ。これから国王陛下が出迎えるから、ここで待機してほしいそうじゃ。良かったの!」


 えっ、アローン国王様がここにくるの?


「かっかっか、言葉のあやじゃよ。代理として、騎士団長がここに来られるよ」

「あ、そうなんですか」


 紛らわしいなぁ……。


 その時、コンコンとドアノックした音が鳴り、ドアが開く。


「失礼します。アローン王国騎士総団長ブルーノ様がお見えになっております」


 受付嬢から連絡に、ロウはうなずいた。


「来おったぞ。ロビーへ同行しよう」

 

 そう言って、ロビーのところへ向かった。


 ロビーに、一人の騎士が立っていた。

 紋章入りの鎧を着こなしていて、大剣を背負っている背の高い騎士だった。

 無論、周りの冒険者も固まったように、見つめていた。

 

 ブルーノが敬礼した。


「初めまして。我の名は、ブルーノ。アローン王国騎士団の総団長を担ってます。

 アローン王国の危機を救ってくださった英雄であられる、イツキ殿とユア殿。

 王宮にて陛下がお待ちしております。ご案内致しますので、馬車にお乗りください」


 礼儀正しく頭を下げるブルーノに、俺は「あ、いえいえ」と言いそうになったが、口をつぐんだ。

 冷静になりつつ、頭を下げる。


 いつものように、周辺はざわめいた。


「なんだって! アローン王国を救った英雄だと!」

「先ほどの魔族は、イツキ達がやったのか」

「すげぇ! さすがだな」


 周りの冒険者たちから、羨望の眼差しを浴びる俺とユアは照れてしまいそうになったが、グッとこらえながら、平常心を保つのであった。

 

 館から出たとたん、騎士たちが綺麗に立ち並んでいた。

 その手前に、金色輝く装飾に凝っている豪華な馬車であった。

 多くの住民たちまでも、じろじろと探っているのが気になる。


 英雄となると、こんなに待遇が違うのか。

 話しかけてくるかもしれないので、ユアには【共有念話】を常時発動してもらうことにした。


 馬車が走るなか、ブルーノが言った。


「イツキ殿、ユア殿、此度の戦は感謝します。陛下から詳しい事を聞いています」


 無益な戦争をしてしまいそうなところ、俺たちが見事に解決したことで、無事に免れた、民の命まで奪わなくて済んだとブルーノは頭を下げた。

 俺とユアは「いえいえ」と肩をすくめる。


「しかし、凄いもんです。まさか、魔族を圧倒するとは……。Bランクとは思えませんよ」


 はは……そう思われても仕方ないよね。


「もうすぐ、着かれます。この王宮は、国王陛下がお住まいです。謁見の間へ案内いたしますね」


 玉ねぎのような形状の屋根や、彩りのモザイク画の外壁が間近に見れて感動しそうだ。

 アラジンでも飛んできそうな、ロマンチックに感じさせる王宮であった。


 ◆ ◆ ◆


 イツキ一行はブルーノ総団長の案内のもと、謁見の間へ向かった。

 謁見の間への扉が開くと、玉座に、両陛下が座っていた。隣に、王女2人と王子1人が立っている。通路沿いに、20人ほどの近衛騎士が並んでいた。


 国王陛下が、微笑んで一礼した。


「お待ちしておりましたぞ。英雄であられるイツキ殿とユア殿。

 余はアローン王国を統べる国王、コンスリェロ・シュバリエⅨ世である。こちらは余の妻のテレーゼだ」

「初めまして。お会いできて嬉しく思います」


 コンスリェロ国王とテレーゼ王妃が、王に相応しい挨拶をしてくれた。


「私は第二王女リフェルといいます」


 リフェル王女が一礼し、第一王子、第三王女、2人それぞれ挨拶してくれた。

 俺とユアもひざまずいた。


「お会いできて光栄です。私はイツキと申します」

「ユアです。私は、イツキさんの耳代わりとなります」


 コンスリェロ国王は、首を傾げた。


「耳代わり……耳代わりとは、どういうことじゃ?」

「はい。イツキさんは耳が遠い方なのです。念話スキルでお互いに助け合っています」


 ユアの一言で、王族たちや騎士たちが騒ぎだした。


「たまげたのう。世の中は広いな。ユア殿がいることで、イツキ殿はどんな困難でも果たせるのじゃな」

「ええ、今回は本当にありがとう。魔族の企みを止めて下さって助かりました」


 コンスリェロ国王とテレーゼ王妃は国王暗殺やら、レジスタンスやら、経済が困難やら、多くの問題を抱えていて、疲労困憊ひろうこんぱい気味だった。

 イツキ一行が解決したことで、肩の荷が下りた気分だろう。


 そんな時、リフェル王女がずいっと、問いかけてきた。


「ユア殿、イツキ殿は魔導士のようだが、何が得意なのだ?」


 コンスリェロ国王とテレーゼ王妃は目を丸くし、おいおい、単刀直入じゃないかと言いたげな表情を浮かべていた。


「イツキさんは魔導士ですが、元素魔法、神聖魔法とか何でも扱えます。魔法であれば全般ですね」

「ほう、強化魔法もか」

「はい。それも扱えます」


 何か決意したかように、リフェル王女はコンスリェロ国王の御前にて、ひざまずいて宣言する。


「父上。私、リフェルはイツキ一行と同行する許可を頂きたい! 我が剣を磨くために、イツキと旅したいと所望致します」


 コンスリェロ国王とテレーゼ王妃は、目を見張った。


「な、なんじゃと!」

「なんですって!」

「「「ええっ!」」」


 その場にいた騎士団や王女、王子も目を白黒させてしまい、リフェル王女の方へ一斉に振り向いた。

 リフェル王女によって、場が騒然としてしまったみたいだ。


 両陛下はリフェル王女が旅立ちたいということに、思いもしなかったようだ。我が娘がいなくなると困るらしく、直に却下してしまった。


「ダメだ! リフェルは、この国を守る義務がある。安易に、旅立つことは許されん!」


「何故ですか! 私は十分に、守ってきました。ですが、今回は魔族の企みによって、戦争しかけてきたのです!

 もし、イツキ殿が解決しなかったら、どうなったか分かりません。私は剣聖として、力不足を感じたのです! イツキ殿と旅して、より強くなりたいのです!」


 リフェル王女の気迫に、コンスリェロ国王は困惑してしまう。


「むう……じゃが……」

 

 そのとき、テレーゼ王妃がコンスリェロ国王の腕にそっと手を軽く乗せた。


「あなた、もういいわよ。リフェル、あなたは色々と悩んでいたのでしょう。わたくしは許可します。旅立ちなさい! そして、世界を知りなさい!」

「テレーゼ!!」

「国のことは大丈夫でしょう? ねぇ、ブルーノ」


 テレーゼ王妃は、ブルーノを呼びかけ、この国には騎士団がいることをコンスリェロ国王に応えた。


「陛下。我々、騎士団はこの国を守る義務があります。リフェル殿下が無事に帰ってくるまで、守り抜くことを誓います。どうかお任せ下さい」


 ブルーノ総団長が、深くひざまずいた。

 後ろに控えていた3人の団長や騎士団にも、どうかお任せ下さい! とひざまずいた。

 コンスリェロ国王は、やれやれと諦めたのか、頭を何度も振った。


「むう……やむを得ん。リフェルよ。必ず強くなって帰って来い!」

「ありがとうございます! リフェルは最強の剣聖として、必ず帰ってまいります!」


 リフェル王女は俺たちに振り返って、背筋をピンと立てて、お願いした。


「イツキ殿、ユア殿、私もお供させていただきたい。構わないだろうか?」


 当然、ユアは呆然としていた。呆然していたあまりに、【共有念話】スキルを中断してしまった。

 そのため、俺も周りが何を言っていることが分からなくなり、混乱してしまったのだから。まぁ、後々に分かったのだが……。


『イツキさん、いつの間にか、リフェル王女様は私達と共に旅立つことになっているようです』

『はい。って、ええ?』


 どういう経緯で、こうなるんだ!?

 ユアに何故、こういう展開になったのか聞いた。


『なるほどね……どうする?』

『私は賛成しかねます。2人旅なのに、もう1人増えるのはちょっと……』


 ユアは俺と2人旅したいのが、本音みたいだ。まぁ、そこが可愛いところなんだよね。クーは、2人1匹なのだから問題ない。

 そこにリフェル王女が加入すると、2人きりができなくなるのが、ユアにとっては嫌なようだ。

 俺とユアが困惑していることに気付いたリフェル王女は、剣を抜いて首に当てた。


「連れて行かないなら、私はここで自ら斬る!」


 おいおい! 物騒じゃないか。


「リフェル! 早まるな!」

「リフェル、よしなさい!」


 コンスリェロ国王とテレーゼ王妃は、あたふたし、自決しようとするリフェル王女を押しとどめていた。騎士団も騒然してしまう。 


 折れたよ。王女様の意思は固いね。


『本気の顔ですね……リフェル王女様も一緒でいいですか?』

『イツキさんがそういうなら、仕方ないですね……』


 ユアは悲しげな顔を浮かべたが、俺の意向に賛同してくれた。

 続いて、リフェル王女に尋ねる。


「リフェル王女様、イツキさんと旅立つことですが、リフェル王女様は、どういったことを得意としているのでしょうか?」


 リフェル王女は、ぱぁっと嬉しそうに目を輝かせた。


「うむ! 私は剣を得意としている。七星王の一人、南星の剣聖リフェルだ。剣においては、誰にも負けん!」


 七星王だって! 王女様が何で、剣聖やってるの……。


「リフェル王女様の心意気、伝わりました。私からもよろしくお願いします」

「ありがとう! イツキ殿、ユア殿! 以後、よろしくお願いします!」


 リフェル王女はビシッと立ち、腰際に備えた剣を押さえ、頭を下げた。

 イツキ一行にリフェル王女が加わり、共に旅立つことになるのであった。

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