46話 孤児院

 太陽がサンサンと降り注ぐ。

 アローン王国の王城周辺にある広場に多くの人々が集まっているなか、魔族二人組のゾルディとレシェーナは、公開処刑された。

 フェーゴと黒装束5人は、犯罪奴隷として永久に鉱山で労働することになる。

 冒険者レッグズはAランク称号を剥奪され、犯罪奴隷としてフェーゴと共に、鉱山へ連れていかれたのだった。


 民衆は、歓声を上げた。


「「「陛下──! 万歳!!」」

「「アローン王国に、栄光を!!」」


 そんな光景に、俺は絶句してしまった。

 

『……これが処刑なの?』

『ええ、今回は国家を大きく揺るがすほどの大罪ですからね』


 ユアもこの光景は当然と、言わんばかりだった。

 魔族二人組は公開処刑の場で、これまでにあったことを白状し、兵士の手により命を絶つことになる。

 俺は目の前で、斬首を見るのは初めてだった。


 日本にいたころは、命の尊さを学び、命の重さを知っているゆえに、生きていれば何とかなるという考えだった。

 犯した罪を命で償う光景を実際に見て、大きな衝撃を受けてしまったのだから。


 一方で、レジスタンスのリーダーまでも、唖然としていた。


「これは今まで魔族に、騙されていたのか。国王は何も関係なかったのか……」


 そばの剣士もうなずいた。


「暗殺計画って、俺らは何も知らなかったぞ。魔族が一枚、絡んでいたとは……」


 レジスタンスは魔族の策謀によって、我々を騙しては戦争を起こそうとしたこと、レジスタンスは魔族の策謀に巻き込まれた完全なる被害者であり無実である! と国王は民衆の前で高らかに宣言した。

 さらに、レジスタンスにはこれまで通り、我が国にて歓迎する! と大きな手を挙げて威厳を放ったのであった。


 レジスタンスのリーダーは、国王の器の大きさに声を失っていた。


「ふっ……。さすが、国王だな。我々は国王に、随分と文句言っていたからな。そりゃ、処刑されて当然だろうと思っていたのだがな」

「ああ。大変、申し訳ないことした。陛下には、お礼言いたい」


 リーダーは一呼吸し、同志たちに眺めては、声高らかに宣言した。


「同胞よ! 獅子の民よ! 今日で、我々は終わりにしよう! 陛下のために! 国の未来のために! 我々は新しいことをやろうではないか!」


 レジスタンスは、共に力を合わせた同胞たちと抱き合った。

 この場で解散し、アローン国王のために働くことを決意したのである。

 この解散が、【アローン王国護衛団】になっていくのだった。


 ◆ ◆ ◆


 イツキ一行はこの場を後にし、フェーゴによって不法奴隷にされた子たちたちと一緒に、手をつなぎ、歩けなくなった子どもを抱っこしながら歩いている。


 普段は俺の影に隠れていたり、抱っこ抱っこと甘えてばかりで、めったに歩かないクーが、子どもたちと一緒に仲良く散歩をしていた。

 クーがいると、子どもたちも癒されるのをちゃんとわかっているのだろう。


 抱っこした子どもが尋ねた。


「ねぇ、お兄ちゃん。僕たちはどうなるの?」

「うん。安全なところとか、のんびり暮らせる場所を探しに行こうか?」


 そう言うと、子どもは可愛らしく小首を傾けた。


「そんなところあるの?」

「大丈夫だよ。それは、俺が何とかするから。心配しないでね」


 アローン王国行きの船で出会った奴隷商人オルデレークのところへ、相談しに向かうのであった。

 オルデレークは相変わらずニコニコしていた。

 

「イツキ殿、お久しぶりですな。これも何かのご縁です。して、なんの御用でしょうか? 子どもたちがぞろぞろと、連れていますが……」


 俺は【クリアボイス】スキルを発動して、これまであったことを説明した。


「うーむ……不法奴隷にされた子どもたちの行く先が心配です。最初から希望をお持ちなら、問題ありませんが、両親が殺された上、不法奴隷にされたという心の傷は、簡単に癒されるものではありません。

 その場合は、まずは孤児院で心の傷を癒すしかありませんな。孤児院は居住エリアにある、アローン教会の方ですよ。

 今の子どもたちを見ると、まずは孤児院にて平穏に暮らす方がよいかと私は考えます」


 住居エリアにあるアローン教会のそばに、孤児院という施設があるそうだ。

 オルデレークが子どもたちも一緒に、孤児院まで案内してくれた。


 アローン教会は、密集している住居の間に挟んでいる二階建ての建物であった。

 修道服を着ている女性が、教会の入り口あたりをほうきで掃いている。

 俺たちのことに気付いた修道女が、微笑みながら挨拶した。


「あら? オルデレークちゃん、お久しぶりですね。どうされたのですか?」

「マザー、ご無沙汰しています。ちょっと用があって訪ねました。詳しいことは中でお話ししませんか?」


 修道服を着ている女性ことマザーは、後ろに並んでいる子どもたちを眺めては理解する。


「そういうことね。中へいらっしゃい」


 ここは参拝者がいつでも拝めるような場所であった。

 目の前には手を組み、お祈りするような女神の像が建っていた。女神の眼差しは、とても慈悲に満ち溢れているかのようだった。


「ここは私の家でもあります。帰れる場所があるだけでも幸せです。私は何度もつらい思いをしましたよ。

 ここに来るたびに辛い過去も全て蘇りますが、それが自分の背中を押してくれるのです。まあ、時間はかかりましたけどね。嵐が過ぎれば晴れると同じく、辛い時必ず後から良い事が起きますからね──。ハハハ」


 と、笑うオルデレーク。続いて、


「子どものころ、暴行を受けましたし、空腹でゴミ等を漁って食べていましたし、病気かかったりしていました。

 そんな時に、マザーが私を拾ってくれたのです。

 ここが、私の思い出の場所ですよ」


 なんと、奴隷商人オルデレークは元々、奴隷だったらしい。

 長い年月で、やっと自由になった今は商人として、奴隷たちに希望を与えたいということだったのか。


「私も両親はいません。殺され、不法奴隷にされたのです。

 そんな経験があるので、今の子どもたちを見て、過去を思い出しました。

 おっと、こんな話をするために来たわけじゃないですね」


 確かに今の子どもたちは、居場所を求めているようだ。

 不法奴隷にされた子どもたちを見向くと、教会にいた子どもたちと交じり遊んでいた。


「へへ──ん! どうだ! 僕が作った木の人形だよ!」

「おお──、すげ──! かっこいいな──!」


 おお、良く見ると仲良く暮らしているね。というか、まだ会ったばかりなのに、打ち解け合っているの早くない?


 教会にいる子どもたちをよく眺めると、足がない子、ケガで包帯を巻いている人、赤ちゃんもいればお姉さん、お兄さんもいた。


「彼らは生まれたときから、そうなんですよ。

 子どもの時は自主的に生活することが難しいので、ここで保護したり、育てたりしています。

 成人になった彼らは自主的に生活出来てますし、ちゃんと働いています。鍛冶、音楽家、画家とか、色んな人が活躍しているよ。

 彼らはここが気に入っているからって、お金を出して暮らしている人もいるよ」


 なるほど。似た境遇のある人たちが集まっているので、過ごしやすいかもしれない。


 先ほどの修道女が、俺のそばに歩み寄って軽く一礼する。


「イツキ様、初めまして。私はヘレンといいます。アローン教会のマザーを務めています」


 何だか、そばにいると凄く癒される女性だった。修道服を着ているマザーに、【クリアボイス】のスキルを使って挨拶をした。


「初めまして、イツキです。子どもたちを受け入れて下さって、ありがとうございます」

「いえ、どういたしまして。イツキ様のお陰で、アローン王国の平穏を取り戻しました。大変、感謝しております」


 ヘレンは俺に深くお辞儀をした後、ユアにも振り向いて、祈るようにひざまずいた。


「シーズニア大聖堂の神官とあられるユア様、お会いできて大変光栄です」


 改めて思うんだけど、ユアさんって、凄い人なんだね。


 後日に、国王から賜わった報酬をアローン教会へ寄付したのだ。もちろん、ヘレンや修道女から多大な感謝をしてくれた。


 ヘレンに、子どもたちを頼みますと伝え、この場を離れようとするとたん、子どもたちが俺のところへ寄せ集まった。

 俺とユアの手足まで、ぎゅーぎゅーと掴む子どもたち。

 クーはなぜか、尻尾を掴まれている。

「ギャン! ギャン!」と吠えているようだが……。


「お兄ちゃん、いなくなるの?」

「離れたくないよ!」

「ヤダヤダ! もっと、一緒にいたい!」


 どうしても離れたくないと、泣きわめく子どもたちに、困惑してしまう。


「大丈夫だよ。また、遊びに行くから」

「「「いやだ! いなくなると寂しくなるよ!」」」


 安心させようとしても、難しいな。どうしたものか。


 そんな時に、ヘレンが子どもたちに注意する。


「こらこら、イツキ様を困らせちゃいけません。

 イツキ様は世界中を旅する御方。遊びに来てくれるだけでもありがたいのよ」


「……うん。分かった。お兄ちゃん! ぼく、がんばってがまんするっ!」

「お兄ちゃん! お姉ちゃん! ワンちゃんもぜぇ~たい遊びにきてね!」

「「「遊びに来て下さい──!」」」


 ユアの【共有念話】で耳に入った俺は嬉しくなり、【クリアボイス】スキルを使って大きな声で言った。


「絶対に、遊びに行くから待ってね──!」


 子どもたちは嬉しそうに笑う。みんな揃って、「絶対だよ──!」と返事してくれた。

 いつか、カレーとか美味しい料理を作ってあげたいね。

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