44話 魔族との戦い

「ぐぬう、貴様! よくも俺の計画を邪魔にしたな」


 魔族の1人、ゾルディは怒りを露わにし、顔には血管があまたに浮き出て、恐ろしい形相になった。


 魔族2人組の近くにいた暗殺集団らしき黒装束の5人は、失神している。また、フェーゴもヨダレを垂らしながら、気絶していた。

 目の前にいるのは、ゾルディという魔族の男と、レシェーナという魔族の女のみだ。


 ほんの少し前の出来事。


【感知遮断】のスキルを全力で発動したことで、魔族たちは俺たちの存在に気付かず、油断している。

 その隙に、一気に打ちのめそうと考えていた。


【元素魔法:スタンクレント】という、火と風が合わさった複合魔法の1つ、雷魔法である。感電で気絶させる魔法を、全員に向けて放ったのだ。

 それゆえに、黒装束5人とフェーゴは横になって伸びている。

 だが、魔族2人だけは上手く避けられてしまった。


 流石、魔族だ。


 レシェーナは、俺たちに睨みつつ問うた。


「あなたたちは、誰? 見ない顔ね」

「国王を暗殺しようとしたでしょう」


 ユアはこれ以上答えず、短い言葉で答えた。

 耳にしたゾルディは舌打ちする。


「ちっ、フェーゴの野郎、俺たちを騙しやがったな」

「残念ね。この計画を早く終わらせて、フェーゴの命を断ちましょう」


 ゾルディとレシェーナはお互いに見やり、俺たちを睨んだ。


「ここでバレてしまった以上、お前は消えてもらう」


 ゾルディはそう言って、剣を抜いて構えた。ゾルディが手に持っている大剣は、バスタードソードだ。 

 その瞬間、大きく飛び、大剣を振りかざし、斬りかかろうした。


 だが、既に防御魔法を展開済みだ。


 ────ガンッ!


 大剣がものすごく、鈍い音で弾かれた。


「なっ!」


 俺が密かに張った防壁が反応して、大剣を跳ね返したことで、ゾルディは驚きの顔を見せた。

 透明の膜のような物理障壁は【防御魔法:ガーディアンウォール】という上位防御魔法の1つであった。

【防御魔法:バリアウォール】より上位版だ。魔力の強さによって、防壁の強度が変化する。俺は膨大な魔力を持っているため、強度がさらに強くなっている。


 ゾルディはまたもや舌打ちした。


「ちっ、無詠唱か! 厄介な……」

「ゾルディ! どいて! ワタシがやるわ!」


 レシェーナは、魔法詠唱をした。


「火よ、火の球になれ、燃やし尽くせ、ファイアバレット!」


 レシェーナの手のひらから、縦状態になった赤い魔法陣が浮かび、火の塊を何個か作り出され、弾丸のように飛ばした。


 これは中位の火属性攻撃魔法の【元素魔法:ファイアバレット】か。

 瞬く間に、魔法障壁を展開した。


 ────バシュッ!


 これでも弾いた。

 そう、防御魔法の1つ、【防御魔法:エレメンタルウォール】も展開したのだ。

【ガーディアンウォール】と同格であり、元素魔法や属性スキルを防御する上位防御魔法であった。


 シーズニア大陸にいる頃、結構、練習してきたからね。

 フロストウルフの件で自分の未熟さを感じたし、強くならなくちゃと思っていたのだから。


 火の弾丸が、魔法障壁に弾き飛ばされる光景を見て、レシェーナは驚きを隠せない。


「なんですって、物理攻撃のみならず、魔法までも……」

「お前は一体、何者なのだ? これだけの無詠唱で、高等な魔法を平気な顔でこなすとは……」


 ゾルディが問うと、俺は黙ったまま見つめた。


「ちっ、だんまりか」


 いや、何で言えばいいんだろ。

 ユアの【共有念話】で魔族2人の言ってることは分かるんだけど、【クリアボイス】スキルを使って、声を出していいのか悩むな。

 何せ、敵だし。


 レシェーナが何か唱えた。


「魔の力よ、封じ込めよ、ケーラマギア!」


 レシェーナの目の間に黒い魔法陣が浮かび上がり、黒い煙のようなものがもくもくと出てくる。

 瞬く間に、黒い煙が迫ってきた。


 叡智様! これはっ!


〈弱体化魔法:ケーラマギアは、対象の魔法を封じ込め、弱体化させる魔法です。個体名:レシェーナは主の脅威を感じたのか、主の魔法を封じ込めれば勝率は上がると判断したでしょう。しかし、主は何も問題はありません〉


 そうなの? やっぱり怖いから【防御魔法:エレメンタルウォール】を展開した。

 だが、黒い煙が魔法障壁をすり抜けて、真に浴びてしまった。


 えっ……。


〈主……。状態異常系や弱体化系に魔法障壁は通じません〉


 叡智様は呆れたのか、雑な説明だった。

 自らの身体に、何も異常がないことを確認したが、何も問題なかった。


〈だから言ったでしょう。主は【女神の加護】をお持ちです〉


 叡智様から、呆れたのかつっこまれた。


 ユアが「あっ!」と、俺に振り向いたが、何も変わっていないことに首を傾げていた。


 効いたよね? と首を傾げるレシェーナは、再び、【元素魔法:ファイアバレット】を唱えた。


「火よ、火の球に変えよ、燃やし尽くせ、ファイアバレット!」


 だが、レシェーナが放った火の球は魔法障壁によって弾かれた。

【防御魔法:エレメンタルウォール】は展開したままだった。


「なんでっ! 効いてないの!」


 レシェーナだけでなく、ゾルディもユアも目を丸くしていた。


 レシェーナは対象を状態異常にさせる魔法を得意としているゆえに、イツキとは相性が悪い。

 必死に魅了、毒、麻痺、混乱という状態にさせる魔法を何度も唱えたが、俺には何も効果なかったようだ。


 ムキになって、色んな魔法をかけようとするレシェーナが、何だが可哀相に見えてしまった。


 うん。俺は【女神の加護】というスキルを持っているからね。

 初めて身に感じたけど、あらゆる状況での状態異常を無効化するスキルって、本当にチートだわ。


 その事を知らないレシェーナは、甘く見ていたのだった。

 

「ばっ、化け物め……」


 ゾルディとレシェーナは、焦りを見せ始め、【念話】で、やり取りした。


『レシェーナ、これはまずいな。レベルが違う。このままだと俺ら、やられる一方だ』

『ちぃっ……計画は中止ね。もうじき戦争始まるのに、暗殺できないのは最悪よ』

『だが、どうやって逃げる?』

『いるじゃない? フェーゴをにすればいいわ』

『動けないフェーゴを?』

『ええ、向こうは証拠が欲しいそうだし、隠滅すればよくて』

『なるほど。その手があったか』


 納得するゾルディとレシェーナに、ユアが【念話】で割り込む。


『……それは、逃しはしませんよ』

『『なっ!!』』


 耳にしたゾルディとレシェーナは、大きく目を見張った。


 ユアは俺が作り上げた【共有念話】のスキルを発動して、2人の【念話】を聞いていた。もちろん、俺までも届いている。


【共有念話】は、俺とやり取りするだけではない。

 敵同士の【念話】でも盗み取ったり、割り込んだりすることができる。


 ユアは一瞬の隙を見せたゾルディとレシェーナに、【神聖魔法:女神の鎖】を行使した。


「女神よ、裁きを与え給え、逃さず拘束せよ、女神の鎖!」


 ゾルディとレシェーナの足元に、光り輝く巨大な魔法陣が浮かび上がった。

 そして、神々しい1本の巨大な柱が天空まで伸び、空から数多の光輝く鎖が出現し、魔族2人組をがんじがらめに縛りつけた。


「うぐっ」

「なっ」


 おおっ、すごい魔法だ……おっと、縛りつけた魔族2人には眠らせよう。

 俺は縛り上げた2人を【睡眠魔法:スリーピング】を無詠唱で行使し、意識不明にさせた。


「くそっ、こんなことでやられるとは……」

「ダメだわ……私たちは、もうおしまいだわ……」


 ゾルディとレシェーナは、この言葉を最後に昏睡したのだった。


 俺は安堵しつつ、ユアに言う。


「やっと、全員捕まえたね」

「ええ、イツキさんのお陰で助かりました」

『ご主人様! すごかったよ!』


 全員捕まえたことで、ホッと胸をなで下ろした。


「ロウさんの元へ行こう。こいつらを連れて行かないと、レジスタンスに証明することができないし」

「ええ、向かいましょう」

『ご主人様、急ごう!』


 捕縛した魔族2人とフェーゴ、黒装束5人を連れて行こうとするが、全員動けない状態だった。

 7人か、どうやって運ぶか悩むうちに、ユアが人差し指を立てて言った。


「ここは私が運びます。――浮遊せよ、あらゆる万物よ、重力に逆らえ、レビテト!」


 ユアが【神聖魔法:レビテト】を唱え、捕縛した7人がフワッと空中へ浮かぶ。


「これなら、運べるでしょう」

「ありがとう。ユアさん、すごい魔法ですね」


 ユアはニッコリと微笑み、俺たちはロウの元へ急ぎに向かったのであった。


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