43話 救出

「お前ら、何してんだ!」


 レッグズに見つかってしまった俺とユアは、すぐさまに警戒態勢に入った。

 クーはとっさにキバをむく。


「あんたたちは、子どもたちを奴隷にしたり、国王暗殺計画を進んでいたりしていたんですか?」


 張本人かどうか分からないが、ワザと怒りを込めて、レッグズに問いかけた。


「チッ、ばれちゃあしかたねぇな。フェーゴ様の言う通りだったな。だが、国王暗殺計画なんて、フェーゴ様も俺も関わっていないぜ?」


 と、レッグズは、この場でシラ切った。

 ……おかしい。この場で、知らぬ存ぜぬの一点張りをするつもりなのか。


 ユアが、先程見つけた羊皮紙を見せて問うた。


「どういうことですか? では、これは何ですか?」


 レッグズは頭を振った。


「ああ、これは受け取っただけだ。かの御方がな」


 かの御方? また、別の人がいるのか?

 ……問題はどうやって、あいつの口から吐けるかだな。


 密かに、クーを頼み、【遮断空間】を更に強化してもらった。誰にも通報されないようにするためだ。

 俺はレッグズに言った。


「分かった。あんたを拘束します」

「へぇ、お前。俺を誰だと思っている? Bランクの風情が」


 レッグズは剣を抜いて、ニヤリとあざ笑った


「俺はAランク冒険者だ。Bランク如きが俺に勝てると思ってるのか?」


 勝てると思ってるさ。俺はシリウスさんやロウさんにも認められたからな。

 俺とユアは自ら武器を取り出して、戦闘態勢に移った。クーも身を構えた。


「行くぜ!」


 レッグズが一気に、仕掛けてきた。


 だが、それは一瞬であった。


「バカな……。お前ら、本当にBランクなのか?」


 レッグズはすでに縄で縛り付けられ、動けない。

 一瞬に叩きのめされたことで、呆然としていた。

 俺はギルドへ、これまであったことを報告すると告げる。


「まてっ! それは困る! 俺はっ! 手伝っただけだ! 俺は何も悪くなっ……ぐっ……」


 弁明しようとするレッグズを黙らせるために、【睡眠魔法:スリーピング】を発動し、意識を失わせた。

 手伝うことは、共犯していることを白状したことなのだから。


 ふぅ、と溜め息をし、重大な証拠である羊紙を【次元収納】へしまいこみながら、子どもたちのところへ向かった。

 不法奴隷にされた子どもたちに、【クリアボイス 】を使って呼びかける。


「もう大丈夫だよ。ここから逃げよう!」

「お兄ちゃんたちは味方なの?」

「うん、安心してね。ユアさん、お願いします」

「はいっ!」


 ユアは【神聖魔法:シャインマインド】を唱え、子どもたちに元気を与えることにした。


「女神よ、満たされる癒しを与えよ、1つの花から散り始め、闇から解放せよ、女神の輝きを与えん、シャインマインド!」


 ユアの足元から金色の魔法陣が浮かび、光り輝く蝶々が無数、飛び散り始め、子どもたちへ羽ばたいた。

 蝶々の羽から降る光の粉を浴びた子どもたちは、みるみる笑顔になっていった。


「「「ありがとう! お兄ちゃん! お姉ちゃん! ワンちゃん!」」」

「ガウッ!?」


 クーが一気に子どもたちに触りまくられ、我慢我慢した。


「クゥーン……」


 クー……俺に甘えたそうな目で見つめられても困りますよ。


 ひとまず、子どもたちが元気になったことで、安心した。

 イツキ一行は他の敵に見つからないように、【気配遮断】を保ちながら、牢屋に囚われている子どもたちを全員、連れていく。


 なんとか、無事にフェーゴカジノから脱出したのだった。


 ◆ ◆ ◆ 


「でかした! やはり、イツキ殿は頼りになるのう」


 冒険者ギルドのギルドマスターの執務室で、ロウはイツキたちがわずか一週間で、証拠を確保できたことに嬉しそうな笑みを浮かべた。


「しかしのぅ、本当にフェーゴが不法奴隷を手に出していたとはな」


 ロウは、不法奴隷にされた子どもたちを眺めてつぶやいた。

 秘書が、子どもたちに色々と聞き取っていたことを告げた。


「判明しました。あの子たちはフェーゴという男に、さらわれたそうです。

 家族は全員、殺されてしまい、むりやり連れていかれたとのことです」


 フェーゴという男は、とある村に訪問し、色んな家族と交流していたそうだ。

 村の仲間たちに親しまれ、絶対的な信頼を得た後に、子ども以外の村人全員を殺し、連れていかれたらしい。


「これは、れっきとした犯罪じゃな。あの冒険者も共犯なわけだ。許されぬ! Aランク称号を剥奪することにする!」


 怒りをあらわにしたロウは、新たな羊紙に書きこんだのち、眉をひそめた。そして、子どもたちの方に振り向いて頭を抱えた。


「じゃが、問題はこやつらがどうやって、生活できるのかじゃな…‥」


 そうなのだ。

 救ったとはいえ、30人の子どもたちに、どうやって養うのか。

 ここで、ユアがさりげなく提案した。


『イツキさん、オルデレークさんに、そのことを伝えるといいのではないでしょうか?』


 あ、いたね。彼にそれについて相談してみよう。


 オルデレークはイシュタリア大陸へ向かう船で、出会った奴隷商人だ。

 不遇な人に希望を与え、実現することを生業している彼なら、不法奴隷された子どもたち30人に、希望を与えることが出来るかもしれない。


 そう思った俺は【クリアボイス】スキルを使い、奴隷商人オルデレークに交渉してみることをロウに提案した。


「ほう! それは助かるの! その件に関しては、イツキ殿に任せよう」


 続いて、羊皮紙に視線を向けて、つぶやいた。


「イツキ殿が持ってくれた羊紙じゃが、これは今日、実行するじゃな。――夕暮れまでか……。まずいな、あまり時間がない。どうあがいても準備が足りん」

「では、私たちが防いでみます。ただし、聞きたいことがあるのです」

「いいのかね? ワシとしては助かるのだが……。して、何かね?」


 俺は軽くひと息をし、単刀直入に尋ねた。


「フェーゴが言っていました。アローン王国は戦争をしようとしていると。しかも衛兵や騎士も王城へ戻っているらしく、王城周辺には衛兵や騎士もあまり見かけないんです。――これは一体、どういうことなんですか?」


 単刀直入に問うと、ロウは険しくなり、口をつぐむ。そして、頭を振って言った。


「うむ、そうじゃ……イツキ殿には、黙って悪かった。

 イツキ殿には、戦争に加入して欲しくなかったのじゃ。確かに、戦争は確実に迫っておる。勘違いして欲しくないのじゃが、アローン王国から仕掛けたのではないのじゃ。向こうから、仕掛けて来ておる」

「向こうって?」

「レジスタンスじゃ。国が村を皆殺しし、子どもを奴隷にしようとしている。そんな独裁国家に、反旗をひるがえせ! とうたっておるのじゃ」

「それって……フェーゴのせいで、こうなったということですよね?」

「そうじゃ、参ったわい。まさか、フェーゴが2年前から計画を立てていたとはな……。国王陛下は無実だと訴えても、レジスタンスは聞く耳持たずじゃ。やられたわい」

「今なら、なんとかなりますよね? 証拠がありますし」


 そう言うと、ロウは悔しげに、机の上にドンッと叩いた。


「証拠があっても、戦争が始まってしまうと、もう止まらんのじゃ!」


 戦争が始まると、歯止めが効かなくなり、狂気に至ってしまうだろう。欲から生まれた災いは、命も感情も何もかも、全てを奪い去る恐ろしいものだ。

 

 瞬く間に、秘書がバタバタと、駆けつけた。

 どうやら、冒険者レッグズを拷問して、白状させたことが上手く行ったようだ。


 ロウの秘書さんって怖いな。

 見かけは、すらりとしていて優しそうな男性なのに……。


 王国の滅亡計画を、企んでいる犯人が分かった。

 それは魔族2人組が、フェーゴとの計画を推し進めていたそうだ。

 戦争を仕掛けたのも、魔族2人組の策謀によるものだった。


「まずいの。王国でもレジスタンスでも、勝っても負けても結局は、魔族の思い通りになるのじゃな……。何としても、阻止しなければならん!」


 大国のギルドマスターたる迫力を見せるロウが、すぐ様に席から立ち上がり、覚悟を決めたような顔を浮かべて、声を上げた。

 

「ワシは国王陛下に直接、相談しにいく。イツキ殿は申し訳ないが、フェーゴや魔族らを捕まえてほしい。レジスタンスにそれを見せるのじゃ!」

「はい! 分かりました!」


 俺とユアはお互いにうなずき、クーと共に、フェーゴや魔族らが集まる場所へ向かった。

 この任務がイツキにとって、いかに衝撃的なことかを思い知らされるのだった。


 ◆ ◆ ◆ 


 太陽が山の向こうに隠れ、空がオレンジ色に変わりゆく。

 計画実行する時間が迫り来る頃、俺たちは、フェーゴたちが集まる場所に行き着いた。

 そこは観光エリアの中心とされる、噴水広場の近くにある路地であった。


 俺たちは、周りを見渡して、待ち伏せに適した場所を探しているところだ。


『隠れるところは、高いところから眺める方が一番かな?』

『そうですね。あ、ここはどうでしょう』


 ユアが指をさしたところは、3階建ての建物で眺めのいい場所だった。

 俺はうなずいて、その建物へ入り、部屋の窓から眺める所に【感知遮断】スキルを使って、身を潜めた。


 しばらく経つと、いくつかの人影が見えてきた。


 部屋の窓からじっと眺めると、フェーゴと黒装束を被った5人が歩いてきた。

 誰かが来るのを待っているのか、警戒するかように周りを見回っている。そして、問題ないと判断したのか、目立たないところで待機していた。


 やがて太陽が完全に沈み、周りの建物の窓からの灯りが照らす頃、2人の人影が現れた。

 見た目は、人間族と変わらないような容姿だった。頭に、角のようなものが生えている。

 ユアによると、それは魔族の特徴だそうだ。


 初めて魔族を見たけど、この世界はファンタジーだと改めて感じるわ。


 ◆ ◆ ◆ 


 青い肌、赤い短髪に、大きな角が生えている剣士が、眉を上げてつぶやいた。


「フェーゴ、もう一人の冒険者はどうした?」

「いえ……ゾルディ様、彼はしぐしったそうで今はおりません」


 ゾルディという男は、背中に大きな剣を備わっていた魔族であった。

 ゾルディが眉をひそめて問うた。


「計画はバレていないだろうな?」

「はっ! 問題ありません! ワシはこの計画のために、十分準備して参りました!」


 フェーゴは冷や汗をかきながら、手を揉んだ。


「問題ありませんわね。ワタシ、レジスタンスへの煽りは上手く行っているのですから」


 フェーゴに肩入れするレシェーナという女性は、青い肌に腰まで流れる真紅の髪、細長い角が生えている。漆黒のローブにまとっていて、見るからに妖艶さを感じる魔族の女性であった。

 ゾルディがうなずいた。


「そうだな、レシェーナ。2年を費やしたのだ。――フェーゴよ、必ず成功させよ。報酬を弾むぞ! 王国の財産を全部くれてやることを忘れておらんぞ。もちろん地位もな」

「はっ! 必ずや、成功させます!」


 フェーゴはほくそ笑む。


(バカめ、いい金づるめ。

 雇った冒険者はどこにいったのか分からんが、その分独り占めできる。国の財産を全て手に入れたら、直ぐに国を出よう)


 フェーゴは金のために、魔族をも利用し、国外逃亡を図っていた。たが、それらは簡単に叶わないだろう。

 何故なら、イツキたちが証拠見つけたことで、ロウたちも既に動き始めているのだから。

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