42話 調査難航

 調査して1週間が経つ、アローン首都全域はもう調査済みだ。


 暗殺集団は遮断系スキルで、本拠地を感知されないようにしていることをロウに聞いたが、何だか違う気がしてきた。

 クーは【遮断無効】を持っているにも関わらず、暗殺集団の本拠地を発見できていない。

 あれから調査し、確たる証拠が見つからずじまいだ。


『これは思ったより、難しいな』

『イツキさんの感知系スキルとクーの嗅覚感知でも、通用しないなんて……』

『何かしら結界とか分かれば感知できますけど、全然掴めないね』

『最初から、そういう拠点はなかったという点も……』

『その可能性はあるかもね。ロウさんによると拠点らしきものが見つかったと言ってたけど、その後、消えたらしいですし。――そういえば、クーは何か気付いたことある?』


 見下ろしてそう伝えると、クーは斜めに上向いた。


『ううーん、ボク分からなかった。たまに、匂いがエリアごとに同じ匂いがするんだ』


 ん? クーの言葉に、何か引っかかりを覚えた。


『クー、エリアごとに同じ匂いって?』

『うーん。最初にいたところなんだけど、どこのエリアでも1つだけ同じ匂いがしてたんだ』


 1つだけ同じ匂い……。

 もしかしたら、1人で各エリア廻っている? 1人で伝達とかそういう方法?

 何て、非効率的な。

 いや、かなり警戒していると思った方がいいかもな。


 伝令のような人物が回っているだろうと推測する。

 当初は拠点などで、状況報告や会議とかで行っていたのかもしれない。

 しかし、冒険者ギルドに見つかってしまい、拠点はあちこちに移ることになったのだろう。

 その為には伝令が必要になってくる。


 伝達魔法の方が早いかもしれないが、俺たちは魔法の残留に気づくことが出来るからね。

 ばれてしまう可能性があるゆえ、アナログな方法で伝達したのだろう。そうなってくると、見つけることが難しくなったと認めざるを得ない。


「これは、調査方法も変えて、もう一度やり直したほうがいいかもね」

「そうですね。やはり匂いの元へ行き、たどりながら調べるといいかもしれません」

「頼りになるのは、クーしかいないか」

『ご主人様! ボクに任せて!』


 クーはフンっと胸を張った。続いて、匂いが最も強い場所へ向かった。


 その場所は娯楽エリアであった。

 クーによると、同じ匂いが最も多かったのはそのエリアだそうだ。

 クンクンと匂いを嗅ぐクーを頼りに、俺とユアは、周囲を警戒し続けた。


 そして、クーが嗅ぎ分けた場所はまさか──

 ──フェーゴカジノだった。


『同じ匂いがここから匂うよ!』


 まさかな……。


『ユアさん、もしかして暗殺集団のリーダーってあの人かな?』

『状況から見ればそうですよね……早計ですので、様子みましょうか』


 俺とユアは、お互いにうなずいた。


『ばれると困りますので、遮断系スキルを発動しますね』


 ユアとクーと共に遮断系スキル【感知遮断】を発動させておいた。

 これなら、だれにも認識できなくなる。


 早速、フェーゴカジノの裏口から潜入することにした。

 途中、カジノの店員がこちらへ向かってきたが、イツキ一行の存在に気付かず、通り過ぎ去っていく。


『遮断系スキルは、ちゃんと機能してるね』

『ええ、こういった潜入は初めてです』


 ユアはコクリとうなずいて、じっと俺を見つめた。興奮しているような気がするが、気のせいだろう。


 フェーゴカジノの内部へ捜索するとき、隠し部屋らしき場所を見つけた。

 そこへ侵入すると、頑丈な扉がたくさんあり、鍵がかかっている部屋であった。

 頑丈な扉は無理して開けようとすると、罠が発動する魔法陣が描かれていた。


『ここの部屋は魔法陣やら罠やら厳重に守られている感じだ。そこが一番、怪しいね』

『ええ、この奥には何かあるのでしょう? 透視スキルがあると助かりますが』


 ああ、透視スキルね! ん、これって便利なスキルじゃないか!

 早速、ステータスオープンし、スキル取得一覧を表示すると【透視】というスキルがあったので、ポイント消費して獲得しちゃいました。

 さぁ、扉に目掛けて【透視】スキルを発動しよう。


 発動すると、目の瞳孔が白く輝き放ったとたん、ユアから【念話】が来た。


『イツキさん、あまり私を見ないで下さいね』


 え? 振り返るととユアは何故か、後ろ向きになっていた。

 服が透き通っていて、白い肌が見えた。後ろ姿の美しい裸体になっていた。


『あ……ご、ごめん!』


 まずかった……そのつもりはなかったけど、こんな展開になるのは、まずい!

【透視】はもう封印しておこう。


『大丈夫ですよ。イツキさんならいいんです』

『えっ?』

『そんなことより、扉の方はどうですか?』

『あ、はい。確認します』


 ユアからの【念話】で、当初の目的であることを思い出したので、すぐに扉の方へ【透視】のスキルを使った。


 おお、扉だけでなく壁までも透明化になっていて、壁の向こうがハッキリと見える。

 その向こうには、財宝がぎっしりと詰まっていた。


『金貨が沢山あります。趣味悪そうな金ピカの像までもあるね』


 いくつか扉の向こうを【透視】スキルで眺めると、どれもこれもは部屋一面、埋め尽くすほどの財宝だった。


 こりゃ、お城が買えそうだ。

 海賊の大秘宝を発見したぞ! みたいな気分で心臓が高鳴る。

 ……いかんいかん、興奮してしまいそうだ。


『でも、ここは違うみたい。暗殺集団とは関係ないようだし、別のところへ行ってみよう』


 しばらく、いくつかの部屋に【透視】スキル、クーの嗅覚で調査していく。

 最奥にある一つの部屋に辿り着いたところ、他の部屋とは違う頑丈な扉を見つける。


『ユアさん、ここが怪しいね。他の部屋と違って、扉がすごい頑丈だ』

『私も思います。クー、ここはどう?』


 クーも、うんうんとうなずいた。


『うん! 同じ匂いがそこから匂いするよ!』


 早速、【透視】スキルを発動した。

 扉の向こうに何か物体が視えてきたとたん、

 ────これは!!


『これは、首輪をしている人が何人かいるよ。奴隷かもしれない。

 ……ちょっと待って。もう一つの部屋には、無造作に置かれている羊紙があるな。多分、ここが正解かも』


 目の前にある扉をこじ開けるために、外部へ通報されないよう、クーが【空間移動】の派生である【遮断空間】を展開する。


【遮断空間】は空間内だけ、外部からでも内部からでも、魔法やスキルなどには干渉できなくなるスキルだ。


 クーも成長したものだ。レベルも結構上がっている。

 まだ可愛いのに、神狼なんだよね。1年経って可愛げがあるもの、少し大きくなっている。


 扉の周りに、透明の膜がドームのように浮かび、包み込まれていく。

 包み込んだ扉にかけられた侵入者を拘束する魔法陣も、強引に解除した。

【遮断空間】の中にいるので、魔法陣は反応しないようだ。


 魔法陣が消えたことを確認し、扉をこじ開けると、牢屋に囚われている人々がびっくりしたかように、ぶるぶると怯えていた。

 眺めると、年端もいかない少女と少年だった。結構人数が多く、30人ほどはいた。


 隣の部屋には、書斎のような部屋だった。

 机の上には、無造作に散らかっている羊紙がある。

 無造作に置かれる羊紙を覗くと、犯罪をおかしたようなことがいくつか書かれていた。

 不法奴隷、賄賂、人殺しなどが沢山やっていた記録のようだ。


 フェーゴはいい笑顔をしている裏に、あくどいことをしていたんだな、と怒りを覚えた。

 牢屋に囚われている子どもたちは、誘拐されたり、家族を殺した上に連れていかれたらしい。


 これは、あまりにもひどすぎる。


 不法奴隷にされた子どもたちは、下に向いていたり、ぶるぶると震えていたり、あばらが浮き出ているほど痩せこけている。

 船で見た希望奴隷とは違う、絶望に満ちた顔つきだ。


『イツキさん! これじゃないでしょうか?』


 ユアが何か発見したようだ。何か書かれていた羊紙だった。

 俺はそれを、読むことにした。


【アローン国王暗殺計画:女神の日の夕暮れに実行する。我々がそこに着くまで待機せよ】


 確たる証拠が見つかった。

 どうやら、暗殺計画の黒幕はフェーゴだと判断する。

 いつ実行するのか、日付を探すと──


『ちょっと待って。暗殺計画実行日は今日じゃないですか!』

『これはまずいですね。すぐに、行かないと大変なことになります』


 暗殺計画実行日が今日だということを知った、イツキ一行は急いでロウへ報告しようと、牢屋に囚われている子どもたちを連れて、この場を出ようとする。


「お前ら、何してんだ?」


 最悪なことに、フェーゴと共にいた冒険者レッグズに見つかってしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る