39話 アローン王国冒険者ギルド
冒険者ギルドの建物は5階建てだった。
青色に染まった木組の建物だ。カラフルな色なので一層、目立っていた。
道の縁側や、窓下には彩りの花が沢山咲いており、ようこそと歓迎するかのように、風に揺らめている。
冒険者ギルドの館へ入ると、何人かの冒険者がこちらに振り向いてきた。
ここは、酒場と一緒になっているギルドであった。
冒険者のたまり場と言っても、おかしくないぐらい集まっている。
その時だった。
「あんちゃんたちは、冒険者かい?」
筋肉質でがっちりとした剣士らしき冒険者が、高圧的な態度で言った。
俺は冷静になりつつ、うなずいて、
「はい、冒険者です」
そう答えると、酒場の殆どの冒険者たちがギロリといった視線で向けられた。
剣士らしき冒険者は、額に青筋を立てて睨んだ。
「おいおい、冒険者は本来、3人以上組むという事なんだぜ? お前ら、2人というのはナメてんのか?」
ケンカ吹っ掛けてくる剣士らしき冒険者は、世の中の厳しさを教えようとした。
酒場にいる殆どの冒険者は、FランクからCランクが多い。
魔物討伐や素材採集などの依頼は、3人以上組むことが当たり前になっているのだと。
剣士らしき冒険者は、自らの冒険者カードを取り出し、俺たちに提示した。
提示されたカードを見ると、青色でDランクと表示されていた。
名前は、ハーメルと書かれている。
ハーメルが声を荒げた。
「分かったか? お前らのようなFランク冒険者が2人だけってのは、冒険者を甘く見てんだよ!」
何故か、説教されてるんだけど……。
ハーメルとやり取りの間に、俺とユアは【念話】で密かに話し合った。
『あの人、一体なんなの?』
『世の中はこういう人がいるのです。無視するに限りますよ』
『そうだね。無視が良いかもね』
『そうしましょう。受付へ行きましょう』
何事もなかったように、この場を離れて受付へ行こうとすると、ハーメルが怒鳴り始めた。
「おい! 無視するな!」
場にいる冒険者全員までも睨まれ、結局、罵声や怒声を受けることになる。
「冒険者のマナーがなってないな!」
「冒険者の洗礼、受けるべきじゃないか!」
「たっぷり、可愛がってやろうぜ!」
はぁ……逃げられないのね。
やむを得ず、自らの冒険者カードを取り出そうと思ったところ、瞬く間に騒ぎを聞いた老年らしき魔導士がやってきた。
「おいおい! 何の騒ぎじゃ!」
老練な風貌に、上位魔導士のような凝ったコートを着ていた。老年らしき魔導士が目を細くし、俺たちを見つめて問うた。
「君達の名は?」
「彼はイツキさんで、私はユアといいます」
ユアがそう答えると、老年らしき魔導士は目を丸くしてしまい、場にいる冒険者たちに一喝した。
「お主ら! 失礼じゃぞ! そちらは、シーズニア神聖法皇国の筆頭冒険者じゃぞ!」
耳に入ったハーメルは、慌てるように頭を振った。
「ですが! こいつら、Fランクのくせに俺らを無視しやがったんですよ!」
ハーメルがそう言って、周りの冒険者までも便乗した。
「「「そうだ! そうだ!」」」
――いい加減にしてもらえませんか? Fランクって、格下と思われるのは心外だよ。
老年らしき魔導士はウンザリし、その場にいる冒険者たちに向けて戒めた。
「はぁ……お主ら、いい加減にせよ。目の前にいる2人は、Fランクではない。Bランクじゃ。イツキ殿、この馬鹿どもに冒険者カードを見せたもれ」
やっぱり、そうなるか……
自らの冒険者カードを取り出し、その場にいる冒険者たちに提示したとたん、またもや、騒然となる。
「なんだと! コイツらがBランクだと!」
「おかしいだろ! なんで、見習い用の杖を持ってんだよ!」
「俺らより強いのか?」
あ、魔導士の杖って見習い用の杖だったの?
ハーメルの方に目を向けると、やけに青ざめていた。
「ばかな……俺より格上だったのか……」
やれやれと呆れかえった俺は冒険者カードを懐に仕舞おうとする時、ギルドマスターがさらに爆弾発言を投下した。
「儂はこの2人に、用があるので呼び出したのじゃ」
またまた、騒然となる。
「ギルマス直接依頼だと……」
「本当に、Bランクだったのか……」
「まずい! まずい! 俺ら煽ってしまったじゃないか!」
うん。俺たちのことを見下したんだもんな。
◆ ◆ ◆
老年らしき魔導士の案内により、執務室へ向かうことになった。
「先程は申し訳ない。ここの冒険者は、血気盛んな者ばかりじゃ。困ったのう……。まぁ、これから話したいことがある。ソファへかけてくだされ」
老年らしき魔導士が手を差し出してきたので、俺とユアは軽く頭を下げ、ソファへ座りこんだ。
「儂はアローン王国の冒険者ギルドマスター、ロウ・チョウコウじゃ。ロウで結構じゃよ」
ギルドマスターのロウは自己紹介をし、軽く頭を下げた。続いて、俺たちに尋ねた。
「突然で申し訳ない。呼びかけた理由を説明する前に聞きたい。――アローン王国は初めてか?」
ユアはうなずいて答えた。
「はい。イツキさんは初めてになります。私は5年前に一度訪ねております」
「なるほどじゃのう……」
耳にしたロウは頭を軽くうなずき、深刻な色が浮かんだ。
「単刀直入に言おう。実はな、アローン王国では2年前から不穏な空気になっておる。儂らは、解決に向けて動いておるところだ」
うわ……物騒な。
「最近のことなんじゃが、アローン国王陛下から直接、儂にお願いがあったのじゃ。
今すぐにでも、優れた冒険者を雇ってくれとな。ただし、ギルドマスターが直接依頼できる程、信用できる者という条件に叩き込まれての」
なるほどね。だから、急いで俺たちを呼んだのか。
「ここ、アローン王国の冒険者は血気盛んすぎて依頼できる者が少なんだ。
そこで、神聖法皇国オブリージュのギルドマスターへ連絡したのじゃ。シリウス殿にのう。そしたら、イツキ殿とユア殿は、俺が保証する冒険者だとな」
おお……シリウスさん、買い被りすぎますよ。
「儂も一目で、分かったわい。是非、お願いしたいことがあるのだが、受けてくれないだろうか? 勿論、報酬も国王陛下からじゃぞ」
え、ロウさんもなの!?
受けるか受けないか、か……。
一体、どんな内容なのか聞いてみようと思ったとたん、ロウは申し訳なさそうに頭を振った。
「これは極秘任務になる。受けるなら説明できるが、受けないなら教えることは出来んのじゃ。これだけは教える。報酬は、聖金貨5枚だとな」
ユアが思わず目を丸くし、固まってしまった。
聖金貨5枚って……
えっ──と、聖金貨1枚で金貨100枚だから、金貨500枚になる。
日本円にすると、500万円になるのか。
えらい、破格じゃないですか!
ギルドマスターからの直接依頼は大きな依頼だが、危険度も高いということだろう。
報酬が聖金貨5枚というのは莫大なお金だから、国家を大きく左右するほどの重大な依頼かも知れない。
ユアの方を振り向くと、コクリと頷いていた。
あ、オッケーなんだ。
「ロウさん、分かりました。この依頼を引き受けます」
そう答えると、ロウが歓喜の声を上げた。
「おお……ありがとう! とても助かる」
早速、ロウから依頼内容について、説明を受ける。
要するに、内容はこうだ
何者かが、アローン国王の暗殺を企んでいるようだ。
1ヶ月前に国王暗殺未遂があり、それから厳重警戒している。
これまで何度も、襲撃を受けている。しかし、その暗殺集団にはどこにいるのか、不明で調査中らしい。
依頼は危険度Aランクで、暗殺集団の本拠地を暴き潰して欲しい、という任務だ。
ユアが小首を傾げて尋ねた。
「すみませんが、私たち、Bランクなんですが、受けてもいいのでしょうか?」
「大丈夫じゃ。シリウス殿から聞いておるぞ。お主らの実力はSランクに匹敵するとな。これも極秘情報じゃから安心せよ。知ってるのは儂とシリウスだけじゃ。
この任務を特殊ランクに、移行するつもりじゃ」
心配になるユアを、ロウが安心させる。それから、ロウが険しい顔つきになっていく。
「暗殺集団は結構、手強くてな。遮断系のスキルを持っているらしく、なかなか証拠を掴めないのじゃよ……」
遮断系スキル持ちがいるのか。
それなら大丈夫かも知れない。こっちはクーがいるし、遮断系を無効化するからね。
「分かりました。この依頼を達成してみせます」
「流石じゃな。ためらいもなく宣言しおった。イツキ殿は本当に、Bランクとは思えぬ」
ロウは感嘆し、つぶやいたのだった。
ついでに、アローン王国の情勢や冒険者ギルドの状況など色々聴き込んだりした。
イツキ一行は、アローン王国を救う為に動き始めたのである。
◆ ◆ ◆
冒険者の集いの酒場へ戻ると、冒険者達が一気に、姿勢正しく畏まってきた。
「イツキさん! お疲れ様でした!」
「先程は申し訳ありません! イツキさん、何か手伝いがあれば手伝います!」
「イツキさん! ユアさん! 何かして欲しいことありますか!?」
すごく畏まってる……。
うわー、冒険者ギルドって、かなりの体育会系なのかな?
「先程は、Bランク冒険者様になんて事を言ってしまって、申し訳ございません。
イツキさん、ユアさん。私はハーメルと言います。Dランク冒険者です。何かお手伝いがあれば、駆けつけます!」
剣士らしき冒険者ハーメルは、畏まったように頭を下げた。
お、おう……
あまりの変貌ぶりに、何て言えばいいのか、分からずじまいだった。
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