38話 アローン王国へ入国

 イシュタリア大陸は人間族が多く住む大陸であり、アローン王国、ドワーフ王国、他の大国、小さな国々で成り立っている。

 アローン王国はイシュタリア大陸三大国家の1つだ。


 俺たちは定期馬車で、アーロン王国へ向かっている。

 この辺りは見晴らしがとてもよく、爽やかな風も吹いていて、のどかな風景だ。

 海の向こうには、シーズニア大陸がうっすらと見える。


 船舶地から首都アローンまでは、3時間かかるんだと聞いたときは遠いなと思った。

 馬車がガタガタと揺れていて、座も硬いのでお尻が痛いのが耐えられなかった。

 ため息をつきながら乗客の方をチラッと見渡すと、若い商人3人、老夫婦、若夫婦に子ども2人といった家族がいた。


 やけに俺たちを見ながら、ひそひそ話している三人の若い商人。

 何やら、手を合わせて拝めている老夫婦。

 子どもはじーっと見ているし、若夫婦もチラッチラッと視線を送っていた。


 どういうことだ? 熱い視線を感じるので、何だか落ち着かない……。

 あ、そうだったか、ユアの方か。ユアは確かに大聖堂の神官だ。

 そんな有名人が、何でここにいるの? と気にしているのだろう。


 ユアはただ、景色をずっと眺めながら、太ももの上に寝そべっているクーを撫でていた。

 馬車の出入り口のそばにいるので、のどかな風景とユアとクーの姿がマッチしていて、見惚れるほど絵になっていた。

 俺は【念話】で、みんなずっと見ていますよと伝えた。


『ユアさん、どうやら、みんなはユアさんのことを気にしているみたいです。そちらの老夫婦が何やら拝んでいますし……』

『どういう……?』


ユアは気付いていなかったのか、なぜか、きょとんとしていた。そして、ふと思い出したのか、あわふたし始めた。


『あっ、そうでした。私は神官でしたね』


 ユアさんの意外な面を発見できたわ。天然なところがあるのね。


 ユアが衣服を整えて、乗客たちに向けて一礼した。 


「みなさん、ごきげんよう。女神様は今日も貴方たちを見守っておられます。女神様のご加護がありますように」


 ユアは手を合わせ祈る。そして杖を持ち、【神聖魔法:シャインマインド】を唱えた。


「女神よ、満たされる癒しを与えよ、1つの花から散り始め、闇から開放せよ、女神の輝きを与えん、シャインマインド!」


 ユアの足元から、金色の魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣から光輝く蝶々が無数、飛び散り始めてゆく。蝶々が1匹ずつ、1人1人へ向かっていた。頭上にとまり、はばたく羽からは、光の粉がキラキラと降り始める。

 光の粉を浴びた乗客たちの顔が、みるみる笑顔になっていた。


 俺までも影響を受けた。気分を明るくさせる効果があるようで、【女神の加護】を持っているせいか興奮してしまう。

 そう、倍の効果になるのであった。


 こっ、これは! 効果ありすぎたのか、たぎるっ!

 ……何だろうか。気分が落ち込んだ時に、酒に頼ると気分がハイになる。そんな感じだ。──いや、それを言っちゃ失礼だろう。

【女神の加護】を持っているせいか、酒とかアルコールの類とかは、逆に効果が無いんだよね。

 酔っ払うことができないのが、悩みどころ。

 おっと、浴びた人たちはどうなってることやら?


 若い商人3人は、険しい顔から気持ちが安らぐような顔つきになっていた。

 若夫婦は、幸せそうにお互い見つめては手まで握りしめていた。

 こども2人は相変わらずユアを見つめ、瞳がキラキラと輝かせていた。

 老夫婦も感謝に堪えないほど、深くお祈りをしていた。


「商人のはしくれで、商売が上手くいくか不安でした。ユア神官様のお陰で私たち、商売上手くいけると自信持ちました。ありがとうございます」

「ありがとうございます。私たち、また授かりそうな気がいたします。うふふっ」

「お姉ちゃん! ありがとう!」

「ユア神官様、女神様のご加護を授けていただき、ありがとうございます」


 みんな、すごく喜んでいた。

 ユアも杖を丁寧に持ちながら微笑んで言った。


「何かあっても、女神様が見守ってくれますよ」


 ◆ ◆ ◆ 


 道も傾斜が緩やかになり、太陽がちょうど1番高く昇ってきたところ、アローン王国の街並みが見えてきた。


「イツキさん、見えますか? あれがアローン王国の村になります。このままずっと真っ直ぐ向かうと、首都アローンに着きます」


 先程よりも、道幅が広くなり、大きな石畳で敷いていた。

 首都に近づけば近づくほど、馬車が走るときに響く振動が少しずつ小さくなっていく。道路の整備が、段々と良くなってきているのが分かる。

 少し進むと、道路沿いに、いくつかの商店や料理店、大衆食堂などが並んでいた。

 声掛けが大きく、ワイワイと騒がしい。


「いらっしゃいませ! ここは美味しいよ!」

「あ、そこのいい男、こっちに寄らないかい? とびきりの良い服あるよ!」

「食べるとやみつきになるよ! 取れたての野菜を塩焼きしたものだよ!」


 日本にいた時のお祭りや市場に似ている雰囲気であった。


「この国は賑やかなんですね」


 ユアは、いつもより活気が少ないと感じたのか、手を頬に当ててつぶやいた。


「いえ、ここに来るのは5年振りですが……ひと気がいつもより少ない気がします」

「5年前は、もっと賑やかだったの?」

「ええ、馬車が進めないほどですよ」


 ほうと感心して、うなずいた。


 太陽が天辺から降り始めるころ、ついに首都アローンへたどり着いた。そこに南正門の門番がイツキ達を眺めて、手に持っている槍で制した。


「ちょっと待ちな。証明になるものを見せてもらいますよ?」


 馬車の御者は通行証を見せた。若い商人らは商人カード、老夫婦や家族たちにも証明カードを見せた。

 門番は、うんうんとうなずいた。


「ふむ、問題ないな。そちらは?」


 門番が俺たちに振り向いたので、大きくBと書かれている銅色の冒険者カードを見せたとたん、門番が声を張り上げた。


「なっ、Bランク冒険者だと!」


 乗客たちまでも声を上げた。


「えっ! 神官様の護衛かな?」

「違うだろう。あんなに仲良く、花を撒き散らしてやがるから護衛なわけじゃない!」

「か、彼女が欲しい……」

「おお、女神様がお守りくださる……」

「ねぇ、パパ、どうしてBランクがすごいの?」

「Bランクはね……」


 驚愕と同時に羨ましそうに見る3人の商人、更に拝める老夫婦、子どもにランクを教える若夫婦たち。

 ユアはその場から早く逃げたいがために、門番に言い放った。


「はぁ……私たちはBランク冒険者です。申し訳ありませんが通して頂けますか?」

「あ、ああ……、通してよし!」


 唖然していた門番の兵士は、すぐさま敬礼した。


「ようこそ! アローン王国の首都アローンへ」


 アローン王国は、城壁に囲まれた国であった。

 石畳みの道、カラフルな木組みの建物が建ち並んでいた。花が溢れていて、ロマンチックな街並みに見惚れた。

 高くそびえる王城の周辺には、貴族の館らしき建物が引き締めあって並び囲んでいる。どれも大きな館であった。

 中庭もチラッと見えたが、100人もの集めてガーデンパーティーでもやるのかというぐらい、とても広い。


 街の風景を眺めながら、【念話】で交じり合う。


『ユアさん、ここがアローン王国の城下町ですか?』

『アローン王城付近あたりは、貴族のエリアとなりますね。

 イツキさん、これだけは気を付けてください。あのトンネル付近とか、路地裏は危険なところなので。近づかない方がよろしいかと』

『なるほど。この国はカラフルな家ばかりですね。陽気な街って感じです』


 瞬く間に、兵士が俺たちをめがけて、ものすごいスピードで走ってきて尋ねた。


「はぁはぁ……。そちらは、イツキ様とユア神官様ですか?」

「ええ、そうですが。どうされましたか?」

「申し訳ございません……。冒険者ギルドからの連絡です。イツキ様とユア様が来られた場合、ギルドの館へ真っ直ぐに来ていただきたいと、伝言がありました」


 ドワーフ王国ガドレアへ向かうところが、その前に寄り道しないといけないようだ。俺たちはうなずき、冒険者ギルドへ赴くことにしたのだった。

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