第2章 アローン王国

36話 初めての船出

 俺たちは、船上にいる。

 ユアとクーと一緒だ。

 乗船料は1人金貨5枚で、ペットや従獣魔の場合は金貨3枚かかってしまうと、ユアから聞いたときは高いなと感じた。

 俺とユア、クーと合わせて金貨13枚で、日本円だと13万円になるのだから。


 ひとまず、船上を歩き回ったとたん、船首に水瓶みずがめから水を海へ注いでいる女神の銅像が目につく。

 ユアから【念話】が飛んできた。


『イツキさんは、女神様と会ったことがありますよね?』

『あ、ああ……。ここに来た時は、女神と会いました。一方的でしたが……』

『ふふ、女神様はああ見えても、お優しい方なんですよ』


 ええっ、優しいの?

 転移された時を思い出し、本当にそうかな? と頭を傾げてしまった。

 ユアは女神のこと詳しいのだろうか。


『ユアさんは、女神と会ったことがあるのですか?』

『いえ、会ったことはありません。私が神官になるための洗礼の儀式を受ける時だけ、ご神託を授かりました』


 何で女神が優しいのか、よく分からなかった。

 俺が女神を疑うような顔に変わりゆくことに気付いたユアは、言葉を濁らせた。


『……いえ、今は言うべきことじゃないですね。あっ、女神様の銅像ですが、水瓶から流れている水は何だと思います?』


 話題を変えようとするユアに、俺はやれやれと肩をすくめた。


『水ですか……もしかして海を浄化してる?』

『正解のようで、分かりにくい答えですね』


 悪戯っぽく微笑むユアに、俺は答えは何なのか頭を捻り出した。

 何か本で読んだことあるな。魔物とか寄ってこないようにするために流してるとか。


『魔物とか、水獣とか、そういった魔物を寄せ付けない為の水ですよね?』


 そう答えると、ユアは嬉しそうに微笑んだ。


『正解です! この水は聖水です。乗船料が高い理由は、この聖水が一番かかっているんですよ』

『なるほど……旅はいかに危険なのか、理解できたよ』


 人差し指を立てて説明するユアによると、船底に聖水を容れる大きな水槽があるようだ。

 水瓶から流れる聖水は、大きな水槽から水瓶へ送水する構造になっている。


『この噴水も、聖水が流れているんですよ』


 船の真ん中にも噴水がある。

 これも聖水の力で、飛行の魔物にも寄せ付けないようになっている。


 どうやって、噴射しているのだろうか……って、造船技師すごくないか?

 ワクワク感がおさまらず、ユアにお願いした。


『ユアさん、船内にも見回ってもいいですか? 見たくなってきたので』

『あ、いいですね。じゃあ、船内へ見学しましょう』


 そう言って、船内へ向かった。


 ◆ ◆ ◆ 


 船内に入ると、木の匂いと海の匂いが混じっていて、いい香りがする。

 木組みの構造となっていて、木と木が組み合わせる部分は鉄で固定されているのが見えた。

 ユアに問うた。


「これは何ですか?」


 大きな水槽がたくさん並んでいる場所を指でさした。


「これは聖水が入っている水槽ですよ。

 先程見ました、女神様の銅像と噴水がありましたよね。そこから流れています」

「あ、そうなんですね。本当に大きいな……」


 大きな水槽が並ぶ光景に、飲まれてしまいそうだった。

 巡回していた船員が、こちらに気付き話しかけた。


「あなた達は、Bランク冒険者のイツキ様とユア神官様ではないですか?」


 ユアはうなずいた。


「はい。私たちは、船内はどうなっているか見学していました」


 船員は誇らしげに語った。


「この船はいい船だろう? この水槽はね。聖水をたっぷり入れてある。魔物や水獣に、寄せ付けないようにしてあるんだ。ただ、コストもバカにならなくてね……。まぁ、被害に遭ってから沈められるよりはマシなのさ。輸送するものが結構、多いんですよ」


 そうぼやく船員に、俺は尋ねた。


「輸送ですか。何を運んでいるのですか?」

「貴族の荷物や配達物とかだな。後は、奴隷も含まれるよ」


 船員は頭を掻きながら、困ったかように笑った。俺は奴隷という言葉に顔をしかめた。


「奴隷って?」

「ああ、奴隷は犯罪者や希望者もいるよ。まぁ、ここにいる奴隷は希望奴隷だね」


 奴隷については、あまりいいイメージしないが、希望奴隷という知らない言葉に頭を傾げた。


「希望奴隷って知らないのかな? オレは奴隷制度についてはあまり詳しくないから、詳しいヤツに聞くといいよ」


 この世界について、分からない事が多いな。

 犯罪奴隷は何となくイメージできるけど、希望奴隷ってどういう意味だろう。

 その時は、叡智様に聞いてみよう。

 叡智様! この世界における奴隷について、教えて下さい!

 スキル【叡智】を発動し、質問した。


〈奴隷は階級があります。優秀奴隷、一般奴隷、希望奴隷、犯罪奴隷の他に不法奴隷の5つが大まかに分かれています。

 優秀奴隷は、生活において困らない経済的祝福を受けている奴隷です。

 一般奴隷は優秀奴隷より祝福でありませんが、人並みに生活している奴隷です。

 希望奴隷は経済的困難な者や不遇の者などが、奴隷になる事を希望する者を指します。

 犯罪奴隷は国家転覆罪や殺人罪などの法を犯した者、敗戦者を指します。犯罪のレベルによって、5年から無期まで定められています。

 不法奴隷は人さらいによって、強制的奴隷にされた者をいいます〉


 なるほど……船員が言っていた希望奴隷は、ここにいるのか。

 気になるので、【クリアボイス】を発動して尋ねた。


「希望奴隷ってどんな人か見たいのですが、いいですか?」


 船員は目を丸くした。

 

「奴隷を見たい? 珍しいね。雇いたい奴隷がいるのかい?」

「いえ、遠いところから来ましたので、奴隷ということをあまり知らないんです」

「なるほど。確かに見た方が早いかもしれないね。では、案内するよ」


 船員の案内により、奴隷部屋へ向かうのだった。


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