33話 1年経ち、再び武器屋へ

 神聖法皇国オブリージュに滞在して、1年が経った。

 この1年間は、本当に色々あった。

 

 リリーナ皇女の護衛やお手伝い、ディーナ法皇との懇談、ギルドマスターのシリウスと剣技修行、魔法の習得、ユアとシニフィ語で会話練習などしてきた。


 補聴器の電池については、商人ラシェルトさんのお陰で1年分は持つことが出来た。だが、もう電池が切れてしまい、使えなくなったので【次元収納】へ仕舞い込んだままだ。

 今後も必要になってくると思うし、ドワーフ王国へ行かないといけないな。


 ここ1年ずっと、魔導士の杖を酷使してきたせいか、結構傷んできた。強い武器が欲しくなる頃だ。


「ユアさん、武器の購入とかしませんか? そろそろ、ボロボロになってきていますので」


 俺とユアは1年間、会話のやり取りを結構してきた。

 お陰で【念話】とシニフィ語、声、普段の会話でも可能になったのだ。ユア限定だが……。


 俺は耳が遠い。聞こえないので声での会話も聞こえづらいし、聞き取りが難しい。

 キャッチボールに例えると、相手はグローブを持っていて俺は素手だろう。

 投げることは出来るが、受け取るには痛みに耐えないとキャッチボールできないのだ。

 それを繰り返せば、痛みは慣れる、コツも掴めるようになる。

 痛みを気にせずボールの勢いを弱めたり、上手く受け止めるようになる。

 だからこそ、ユアとは会話を結構してきた。


 正面に向かって、会話しないと読唇術できないのが欠点だが、その時は【念話】かシニフィ語でやり取りすることができる。

 まさに、臨機応変に会話している感じだ。ただし、これもユア限定である。


「それは、イツキさんが誠実だからですよ。私はイツキさんとお話をしたかったからです」

「あっ、ありがとう……」


 真っ直ぐな目で見つめられると、照れちゃうんですけど……。


 ◆ ◆ ◆ 


 いつもの武器屋に向かった。


 はぁ、強面のニコニコスマイルの店番がいるんだよね、と軽くため息をついて、店へくぐった。

 店内に、2人の大男が交渉していた。


「売ることは出来ないな」

「いえいえ、そんな大きな価値のある剣は滅多にないので、是非にでも売らせてください!」

「しかしなぁ、この剣は人を選ぶ。いわゆる、魔剣だ。ホイホイと、売れる品物じゃねぇんだ」


 強面の店番は、厳ついごつい体をした男に必死に手を揉んでいた。

 一瞬、身震いした。

 この男の威圧が、尋常じゃないと感じた。ふと、厳つい男がこちらに気づき、強面の店番との交渉を中断して、俺たちに問いかけた。


「おや、そちらのお嬢さんは……もしや、大聖堂のユア神官様か?」


 突然、呼ばれたユアは動揺したが、コクリとうなずいて尋ねた。


「あ、はい。――申し訳ありませんが、どなたでしょうか?」

「おお、名前は聞いたことがあるのでな。俺は旅職人ガルドだ。いくつかの武器屋や防具屋へ、武器と防具を調達する商人ってことだ。

 もちろん、鍛冶もやってるぞ。何故なら、俺はドワーフ族だからな」


 旅職人ガルドは、俺より大きく2メートル程の大柄だった。

 肌がやや茶色く、ムキムキとした筋肉質でスマートに感じられる。強面の店番といい勝負になりそうだ。

 黒い短髪で、ダンディーなヒゲを生やしていて、上品に感じるのは気のせいだろうか。


 いや、それよりドワーフ族だって? 身長が低く、長い髭を生やしている種族だよね? 違うのか……。


 ガルドが俺に視線を向けて問うた。


「ユア神官様の隣にいる男は、誰かな?」

「はい。彼はイツキさんです。私は彼の耳代わりとなっています」

「ほう! ここでは結構、有名になっているぞ。ディーナ皇女様への謁見を果たし、リリーナ皇女様の護衛を任されていたとな。冒険者ギルドマスターの太鼓判でCランクに昇格した、耳が遠いBランク冒険者だと聞いてるぞ」


 ガルドは有名人と出会えたことに、歓喜しているみたいだ。

 というより、ここまで認知広まっているのか。まぁ、依頼もそれなりにこなしたし、必然だよね。

 どうやら、ディーナ法皇の計らいで、【イツキ様は耳が遠い御方。音声での会話が難しいので、しっかり対応するように】と伝達したそうだ。

 国全体に、そこまで伝達するのかと畏敬の念を抱いた。


 周りには、リリーナ皇女様の未来の王子様だとか、ディーナ法皇様の遠い親戚なのかなとか、神聖騎士団が推薦する冒険者なんやらとか、色々な噂が出ているみたいで恥ずかしくなるな。


 そんな時、強面の店番がおのずと、ガルドに問いかけた。


「あの……ガルド様。先程の続きですが、例の剣は譲ってくれるので?」


 ガルドはチッと、舌打ちする。


「ああ、やはり剣はやめておく。今回は無しにするから、ロングソード10本で卸しておく」

「そんなぁ~~」


 ガックリとうなだれる強面の店番に、ガルドは、フンッと不愛想に振った。

 俺はそんな光景を突っ込みたいと思ったが自重しておく。

 

 ガルドが、俺たちに振り向いて誘う。


「イツキ殿に伝えておいてや。折角の有名人だ。近くの酒場で話したい」


 旅職人ガルドは、俺たちと一緒に食事したいそうだ。

 もちろん、俺はイエスと答えた。

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