32話 魔導研究家②

 セレーヌから頂いたフラスコの中には、エレキスライムの液体だった。黄色い色をしていて透明のような液体だ。

 こういう素材を眺めると、日本にいた時、かき氷にかけるレモンシロップに似た感じだ。


 これで3つの素材が揃ったので、電池作りに移るか。

 俺の電池作りに、ラシェルトとセレーヌは興味津々で、まじまじと見ていた。


 さっそく、【叡智】スキルを発動し、教えてもらうことにした。


【まずは周りに被害が出ないよう、結界を張ってください。そして、プロメダルギウス鉱石を火属性魔法で溶かしてください】


 叡智様の助言通りに、進めていく。


【液状化にしたプロメダルギウスを、事前に作っておいた2つの小さな丸い箱へ4分の1ぐらい流し込み、氷属性魔法で冷却してください】


 小さな丸い箱というのは、中身にあるものを取り除いた空っぽの電池だ。それを流し込み、瞬間冷却する。


【エレキスライムの素材と粉状にした魔石を混ぜ込んで、3分の4まで流し込み、残りの4分の1は液状化したプロメダルギウスを流してください。その上に蓋をしてください】


 叡智様の的確な助言により、異世界バージョンの電池が完成する。


『やりました! 電池完成です!』


『良かったですね! これで音は入るでしょう』


 ユア、クーは喜び、俺と手をつなぐ。

 一方で、ラシェルトとセレーヌは呆然としていた。


「すごいです。こんなに、あっさりと完成するとは」


「ワタシ長年、研究に明け暮れていたけれど、イツキ氏はただ者じゃないわ。エレキスライムよ? 失敗率が高く、成功することが難しい素材の1つよ? ビリっとしたら、素材がダメになるのよ。

 こんなに、あっさりと成功するなんて……」


「そうなのですか。そんな素材が……」



 早速、異世界バージョンの電池を補聴器に入れ込み、スイッチを入れた。


────ポロン♪ ポロン♪


 オルゴールのような音が流れてくるってことは、ちゃんと動いたってことだ!

 おお、周りの声が流れてくるのが分かる。


「イツキさん、聞こえますか?」

『ユアさん、ありがとう! 聞こえます!』


 ユアの声を聴けるのは、久しぶりだ。


「ラシェルトさん、セレーヌさん、ありがとうございます。電池完成しました」


「おお! おめでとうございます。電池というのは、豆粒のような小さな箱だったのですね」


 電池というのは大きい箱かと思っていたラシェルトは、豆粒ほどの小さな電池だということに、目を丸くしていた。

 セレーヌがまたもや、ずいっと俺の耳元に近づいて見つめる。


 あっ、近い……。


 ハーブのような香りが、ふわっとしてきて思わずドキッとしてしまった。

 セレーヌが俺の耳につけている魔導具を見つめながら言った。


「イツキ氏、この電池って、松明とか明かりに使えるのかしら?」


 セレーヌの一言で、イツキは頭を縦に振りながら【念話】でユアに伝えた。


「イツキさんによると、金属線の説明があったように、電池も加えると、より長期的に発光できるそうです」

「へぇ! やはり、電池も必要ですわね! せっかくなので、共同開発しない?」


 セレーヌから思わぬ提案に、俺たちは嬉しくなり賛同した。


「ありがとっ! まずは、素材集めね。時間がある時に、ワタシの家にいらっしゃい。待っているわ!」


 イツキたちは、セレーヌと共同開発することになる。

 これが近い将来、世界に衝撃を与える程の人気商品になることは、また別のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る