31話 魔導研究家①
昨日はラシェルトに補聴器のこと魔導具と、魔力を補充する魔導装置こと電池について、語り合った。
ラシェルトからの紹介で、魔導研究家と会う約束したのだから。
今は、ラシェルト商店へ向かっている。
俺はウキウキしながら、【念話】でユアに伝えた。
『ワクワクしますね。魔導研究家って、どんな人か気になります』
『ええ、私もです』
ユアも楽しみにしているようだ。同じ魔導士として、何か共感しているかもしれないね。
商店へ入ると、2人の姿が現れる。
ラシェルトに、隣には頭を覆うような大きいとんがり帽子を被り、黒い絹装束を纏っていた。まるで、魔女のようだ。
とんがり帽子を被った女性が俺たちを見やり、にこやかに挨拶する。
彼女が頭を下げるとき、黒い装束の隙間から大きい膨らみのようなものが、たゆんたゆんと揺れていた。
「初めまして。ワタシは魔法ギルドの魔導研究家、セレーヌですわ。
ラシェルトから聞きました。あなたはアーティファクトを開発されているそうですわね」
魔導研究家セレーヌは俺がアーティファクトを開発していると聞き、かなり興味を持ったようだ。
「彼女は魔導研究家だが、魔法ギルドの中では一流の腕前だよ。それは私が保証するよ」
「やめて。ワタシはそこまで凄くないですわよ」
ラシェルトがセレーヌを褒め称えたことに、セレーヌは恥ずかしそうに赤く染める。
「ラシェルト、おふざけはここまでよ。あなたが紹介した方のことを教えて下さらない?」
「ごめんごめん。彼らはBランク冒険者だけど、期待の星と呼ばれているよ」
ラシェルトが目配せをし、ユアから口にした。
「私はユアで、彼はイツキさんです。──そしてこの子がクーと言います」
クーが俺の影から飛び出し、ぺこりと可愛らしいお辞儀をした。
セレーヌはクーが影から飛び出したことに、目を丸くする。
「か、可愛い……はっ、ゴホンゴホン。
ラシェルトから聞いたわ。電池とやら、魔導装置を開発するそうですわね?」
セレーヌはクーに心を奪われていたが、イツキ一行やラシェルトからの視線に気づいたのか、気を取り直す。
「はい、そうです。集音する魔導具の魔力が弱くなっていますので、電池と呼ばれる魔導装置を開発することになりました」
「集音して耳に入る魔導具と、魔力を補充する電池かしら? それは凄い魔導具のようね」
「そうですね。電池の開発の為に、素材を集めているところです。
ラシェルトさんから聞きましたが、セレーヌさんは雷魔法を研究中だそうですが、どんな雷魔法を研究しているのでしょうか?」
ユアは雷魔法の研究をしているセレーヌに、電池について協力してくれるのか尋ねた。
「よくぞ、聞いてくださいました! ワタシは雷魔法で、この松明より明るい灯りが出来るか、研究中なの!」
何故か、胸を張るセレーヌ。
胸を張ったのか、胸がぽよぽよと揺れていた。
「灯り? もしかして、電気、ですか?」
電気もないこの世界。
照明のように明るい灯りを開発していることに、目を見開いてしまい、つい口を滑ってしまう。
「電気? 初めて聞く言葉だけど、どんなもの?」
電気という言葉に感づき、どういうものなのか興味津々なセレーヌは、イツキにずいっと近付く。
顔が近い! と、あたふたしてしまう。
「あっ、いえっ、雷魔法で、灯りを、つける話で、あれば、金属線、とかで、発光が、いいかなと、思います」
「ごめんなさい……イツキ氏の言ってることが上手く、聞き取れないわ」
ユアの【念話】で通訳してもらっていて、流石に、自らの発言までは完全に出来ていない。
実際に聞き取れないと、言われると、ショック受けるな……。
仕方なくユアが、声代わりになることに。
イツキは【叡智】スキルを使って、電気の仕組みのこと、どのようにして発光するのか、ユアに【念話】で伝え、セレーヌの疑問を解かせる。
「なるほど、なるほど! これは画期的な発明になるわ!」
セレーヌは嬉しそうに、目が輝いてた。
「教えてくれたお礼に、あなた達に何か手伝うわ! たしか、電池だったわね。何の素材が欲しかったのかしら?」
「とても助かります。エレキスライムの素材を探しています。その素材はお持ちでしょうか?」
「あ、ワタシが研究している素材ね! オッケー! どのぐらい欲しい?」
ユアは1年分欲しいと答えたが、セレーヌは上機嫌な顔から悲観的な顔へ変わった。
「ごめんなさい……1年分は流石に厳しいわ。素材が3つしかいないの。1つなら渡せるわ」
そう口にしたセレーヌは、実験用に使われるフラスコを取り出す。
「中に入っているのは、エレキスライムの素材よ。この液体はピリッとするから気をつけてね」
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