30話 ラシェルト商店②

「もし、沢山欲しいならドワーフ王国へ行くといいよ。

 ドワーフ王国は、フェニックスの加護を受けている国だからね」


 へえ、ドワーフ王国ってあのゲームによく出てる、身長が低く、髭を生やしているドワーフ族かな?


 ドワーフ王国は、ドワーフ族という種族が住む国だ。剣や防具などの製造を生業としている国でもある。

 武器や防具はほとんどランクが高く、高級品扱いだそうだ。


「そこの国なら鉱石もたくさんあるし、素材も豊富だよ。そこに行って、たくさん買うのもありだよ」


「そこの国だと、いくらぐらいか分かりますか?」


 ユアは小指より小さい鉱石が、金貨15枚ということを疑っている。


「恐らく……こぶしサイズで金貨10枚だったかと」


 高いけど……小指より小さい鉱石と比べて、はるかに安いじゃん!


「これはあまりにも、高いのではないですか?」


 ユアもぼったくりだと、言いたげな表情を浮かべていた。

 ラシェルトはサーっと青ざめ、誤解だと弁明する。


「違います! 違います!

 ドワーフ王国から、ここまでの運搬料が掛かっています!

 それとアローン王国経由だから、通行料も掛かっているのです……」


 アローン王国は中継地らしい。その為、通行料もかかるそうだ。


 シーズニア神聖法皇国オブリージュ、ドワーフ王国の他にいくつかの国はアローン王国への経路があり、その流通する品物を検査して運搬する仕組みになっている。

 何故、このようなシステムを作り出したのか? と聞いたら、小人王国シャルロットからの案らしい。経済に長けた国であり、お金持ちが多い国みたい。

 そして、運搬したものや通行人から通行料で取り、アーロン王国が豊かになる仕組みになるということだ。


 通行料で取れた通貨は、学園都市への投資をしている。そのため、学生には無料で受講する形になっていた。

 学生は多彩な種族がいる。人間族、ドワーフ族、小人族、獣人族ら、様々な種族がいて、ともに学園で学ぶようだ。


「すまない。金貨15枚だけど、これが精一杯なんだ……」


 むう、これは仕方ないか。

 金貨15枚か……。


『ユアさん、金貨15枚って大丈夫かな?』


『いいのでしょうか? 足りないと思いますよ。それと魔石とエレキスライムの素材もないでしょう?』


 言われてみれば、そうだ。1つだけ買っても、他がないと意味がないか。


『確かに……。その素材についても、ラシェルトさんに聞いてみませんか?』


『そうですね。分かりました』


 ユアがラシェルトを見つめると、ラシェルトはびくっと震えてしまっている。

 ラシェルトさん、なぜかビビっているのですが……。

 あ、ユアさんは神官だから、格上の存在だったのね。


「ラシェルトさん、聞きたいことがあります」


「は……はい。なんでしょうか?」


「エレキスライムの素材は売っていますか?」


 ラシェルトは怒られるかと思っていたが、違った話だったので何故か、しどろもどろになってしまったようだ。


「え、エレキスライムですか。何か利用するのですか?」


 俺とユアはお互いに視線を合わせて、ラシェルトへ告白した。


「電池を作るためです」


「電池? そんなもの初めて聞く言葉ですが……、もしかして、アーティファクトですか!?」


 勢いあまって近づくラシェルトさん、近いですよ! 顔が!

 うん? アーティファクト? そんな言葉、初めて聞くけど……。


『ユアさん、アーティファクトって何ですか?』


『アーティファクトは、失われた文明の道具ですね。この世界は、昔は神の世界だったと聞いています。

 神々の戦争のせいで、殆どの文明が失われています。今は、貴重なアーティファクトの1つとなっています』


 な……なるほどね。だから、ラシェルトさんは興奮気味になってたんだな。


「アーティファクトかどうかは分かりませんが、イツキさんは耳が遠い方です。そのため、周囲の音を集める魔導具を使っています。

 その魔導具の魔力が弱くなってきているので、電池という魔力を補充する魔導装置が必要になったのです」


 あれ? ユアさん、分かりやすく説明してない?


『それはそうでしょう。電池やら補聴器やら、ここの世界の人に言っても全然、分かりませんよ』


 そうだったな。うかつでした。

 ラシェルトを見やると、かなり興味を持っている。ユアの言ったことが、凄く伝わっているみたいだ。


「ほう! これは凄い魔導具ではないですか!

 確かにイツキ殿は凄腕の冒険者だと聞いてます。耳が遠いことも聞いたことがありますね。

 まさか、本当に聞こえないとは……。見た目はあまり変わらないと思いましたが……」


 ラシェルトは何か思い出したように、手をポンと叩いた。


「そうだ。思い出しました。

 エレキスライムの素材は確かに、魔法ギルドの方に何か扱っていました。雷魔法の研究を行うとか、知り合いの魔導研究家が言ってましたね」


 おお、いい情報を得たわ。


 ラシェルトはお詫びに、小さな鉱石を渡す。

 

 え? いいの?


「これはお詫びです。イツキ様は、電池という魔導装置を開発しようとされている。商人の勘といいますか。

 これは将来、大きな収益になりそうだと感じたのです。

 まぁ、投資と思ってください」


 ここでも、商人魂を感じるね。

 魔法ギルドか……。魔法ギルドも興味あるな。


 ラシェルトは、待ったと言葉をかける。


「ここだけは、気をつけてください。音を集める魔導具と魔力を補う魔導装置は、公言しない方がよいでしょう。

 色々、狙われると思いますよ。ここだけの話にしてもらえれば色々、手引きしますよ」


 公言するなということね。

 まぁ、彼もビジネスとして投資としてくれた訳だしね。


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


「ありがとう! 魔導研究家の方は秘密裏に交渉するよ。明日、同じ時間にまた来てくださいね」


 ラシェルトはニカッと、サムズアップした。



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