28話 神狼

 何やら閃いたマイは、こう推理する。


『こうは考えられませんか? 召喚魔法の類で、ここに転移したということを。

 フェンリルの子というのは、親であるフェンリルに何かあったのかもしれません。神話でしか知られていない神獣の子どもですし』


 なるほど。そう考えられるね。でも、フロストウルフが4匹逃げた理由は何だろうか?


 尻尾をフリフリしながら、俺の膝に乗ってくるクーがじっと見つめて【念話】で答えた。


『多分、ボクが暗黒魔法で2匹を仕留めたからだと思うよ。ビビッて逃げたということなら、分かるけどねー』


 可愛いのに、恐ろしいことをさらっというのね。

 もしかして、俺より強いのではないだろうか。

 うーん、クーも記憶にないそうだし……。やはり、保留しかないか。


 メイが重々しい顔を浮かんで、アドバイスした。


『私は、クーが神獣フェンリルの子であることを、秘密にした方がいいかもしれません。いえ、フロストウルフとの関わりがあったことも、秘密にした方がよいかと』


 あ、そうか。フロストウルフに関わりのあったと判明してしまうと、クーに何かされるかもしれないな。

 神聖騎士団や冒険者ギルドまで敵に回すとややこしくなるし、仮にSSランクの神獣フェンリルの子であり、余計に警戒を強める恐れが出てしまう。

 それが広まれば、やがて、他の国からも狙われてしまうだろう。


『やっぱり、秘密にした方がいいね。なら、可愛いから拾った、ということにするか』

『『『可愛いのは確かにそうですが、そんな理由ですか……!』』』

『ねぇ、ボクはそんな理由で拾ってくれたの?』


 神官三姉妹は【魔法念話】で、見事にハモってしまった。

 クーもくすぐったいような顔になる。

 あ、まずかったかと焦ってしまったが、割り切ることにした。


『そう、クーのことを可愛いと思っている。何より俺は耳が遠い。だから一生、一緒にいたいと思っているよ』


 キリっと【念話】で、そう答えた。

 まさに、愛の告白である。


『ありがとう! ボク、ご主人様のことが好きだよ!』


 クーは嬉しそうに飛びかかった。

 ひしっと、抱き合うクーとイツキ。そんな光景を眺めた神官三姉妹は羨ましい……と見つめていた。


「あらあら、イツキ様は人たらしで、犬たらしですわね。リリーナの次に、クー様なんですね」


 ユアと共に戻ってきたメシアは、悪戯っぽく微笑んだ。ユアまでも、ジト目で見つめていた。

 そんな視線に、俺はさりげなく、そっと目を逸らした。


 ◆ ◆ ◆ 


 2つの月の明かりで部屋が薄暗く、ほんわかと照らしている。

 俺は1人部屋で、クーとじゃれ合っていた。


『今日も一緒だね。クー』

『ご主人様の温もりが凄く、たまらない……』


 クーは俺の服の中に潜っていた。モフモフしてて気持ちいい。

 メイから【魔法念話】が俺に届いた。


『すみません。イツキ様、お時間ありますでしょうか?』

『あ、はい。大丈夫ですよ』


 ドアを開けたら、メイは、白いキャミソールワンピースを着ていて思わず、ドキッとした。

 いつもは神官服で着ているのに、私服姿だと印象が違うね。

 おっと、ここは紳士的に。さりげなく椅子を動かした。


『どうぞ。おかけください』

『ありがとう。――イツキ様、今日は色々とありがとうございました』


 こちらこそ、【魔法念話】の習得も大変だったろうに……。


 メイは、ベッドの上で寝そべっているクーを撫でていた。

 2つの月の明かりからメイの姿が神々しく輝いていて見惚れるほどだ。

 絵になるほど、美しかった。

 メイは腰まで流れる黒髪に、ブラウン色の瞳をしている。日本人に最も近い容姿をした、惚れ惚れするような美少女である。

 メイは視線を俺に向けた。


『イツキ様、ユアとの進展はどうでしょうか?』


 ん? ユアの話?


『ユアさんはすごく頼りになっています。分からないこととか色々教えてくれたりします。まぁ、ツッコミされたりしますが、とても楽しいですよ』


 そう告げると、メイは一瞬、寂しそうな顔になった。


『……それは良かったですね。ユアはああ見えても、抜けてるところがありますからね』

 

 そう言って、苦笑した。

 

 確かに抜けているよね。受け入れすぎるというか……何というか……。

 

 ユアのことを思いふけるとき、メイが俺の隣に座って、そっと寄り添った。


『イツキ様、今日は添い寝してもよろしいでしょうか?』


 ローズのような香りが漂ってくることで、思わず心が揺さぶられそうだ。


『気持ちは嬉しいのですが、ユアさんに迷惑かけてしまうんじゃないかと思います……』

『あら? ユアのことが心配?』

『添い寝って、あれですよね?』

『ふふ、一緒に寝るだけですよ』

『あ、ただ、寝るだけなのね』


 嬉しいような残念ような……そんな複雑な気持ちになった。

 いやいや、ダメでしょ。

 寝るのも……いや、ユアと一緒に寝ることが当たり前になっていた自分がいることに気付いた。

 この世界では、どうやら恋愛とかスキンシップに関してはオープンらしい。

 うーん。この世界の恋愛基準が分からないな……かといっても、聞きづらい。


 クーは自覚がないのか、2人の桃色の雰囲気を壊すように甘えた。


『ご主人様、ボクも一緒に寝たいです──』


 俺とメイは、思わず苦笑した。

 嬉しそうな笑みを浮かべたメイが、ベッドに横たわった。


『ふふ、イツキ様は相変わらず誠実ですね。大変好意持ちました』


 結局、俺とクー、メイと川の字のように寝るのだった。

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