27話 大聖堂へ到着

『イツキ様、ユア、お帰りなさい』


 大聖堂の正門に待ってくれたマイが【魔法念話】で、微笑んだ。

 迎えに来てくれたのかと、嬉しくなった俺は、マイに挨拶した。


『マイさん、こんにちは。お迎えありがとうございます。依頼こなしてきました』


 【次元収納】からサフランモネア10束を取り出し、マイに手渡した。


『どこから……、あっ、ありがとうございます。……確かに、サフランモネアの10束ですね』


 受け取ったマイは一瞬、目を丸くした。気を取り直して、依頼通りに揃えていることに胸をなで下ろした。

 そして、俺たちに振り向いて言った。


『今日は遅いですし、良かったら宿泊しませんか?』


 俺は助かりますと頭を下げた。


『そうそう、クー、出ておいで』


 と俺の影から、にゅっと頭のみ出てきた。

 クーは空間移動のスキルがあるらしく、俺の影の中に潜めることができる。なんていいスキルだろうと思った。


「ヒィッ!」


 マイが思わず、絶叫した。いきなり生首が出て来たかような展開に、恐れを抱いてしまった。

 

『あ、大丈夫ですよ。クーは人に害を与えない獣ですので安心してください』


 そう落ち着かせたがマイから、どういうこと! 心臓に悪いわ……と睨まれた。


 ユアが、クーの出会いからイツキの眷属になったことを伝えた。


「ああ、クーというのね。落ち着いてみると、確かに可愛いわね。仔犬みたいだけど、フェンリルの子なんて信じられないわ」


 神獣フェンリルは神話しか知られておらず、目撃した者は1人もいないそうだ。

 そのため、マイは目の前に「クゥーン」と鳴く小さな獣がフェンリルの子だということを信じることが出来なかったのである。


 ◆ ◆ ◆


 中央の間へ入り、そこにはメシアとメイ、リンがいた。

 メシアが俺に、【念話】で挨拶した。


『ごきげんよう。イツキ様。あら? 可愛い仔犬ね』


 メシアは前回、居なかったはずのクーが連れていることに気付く。

 俺はメシアたちに【念話】で伝えた。


『この子はクーといいます。サフランモネアの採取の時に大怪我をしていたので助けました。今はこうして懐いています』


 メイとリンも「可愛い仔犬ね──」と目をキラキラした。


『イツキ様は会う度に、驚くことを持ち出しますね。イツキ様は、サプライズ運をお持ちでしょうか』


 メイは【魔法念話】で、からかう様に、皮肉った。


『サフランモネアの採取をありがとうございます。サフランモネアは女性にとっても、いい素材ですので助かりました』


 どうやら、今回の依頼はリンだったようだ。

 リンはここで、爆弾発言を【魔法念話】で投げた。


『今だから言いますけど、この依頼の本当の理由は、イツキ様に私たちが念話できることを驚かせたかったのです。

 でも、タイミングが合わなかったですね。リリーナ皇女様の護衛で来るなんて』と、はにかんだ笑顔を浮かべた。


 耳にした俺はパッとユアを振り向いたが、ユアはサッと視線を逸らす。


 ああ、なるほどな。だから宿屋の時、話がちぐはぐだったのね。納得したわ。やられた……。でも、【魔法念話】とか覚えてくれて嬉しかったし。

 俺は納得してしまったのか、恥ずかしそうに頭をポリポリと掻いた。


 ここでメシアが場面を切り替えた。


「皆さん、お食事のご用意ができましたので、食卓の間へ行きましょう」 


 と告げた。俺に振り向いて、【念話】で伝えた。


『イツキ様、お食事のご用意ができました。食卓の間へ行きましょう』



 本日の食事は焼き野菜のソテー、固いパン、トマトのスープ、そして紅茶だ。

 焼き野菜はトウモロコシのようなもの、玉ねぎ、シャガイモはあるが他に見たことがない野菜がいくつかある。

 見るからに、美味そうだ。

 紅茶はサフランモネアの素材を使っている。

 

 やっと依頼をこなしてよかったなぁと達成の喜びを味わい、ゆっくりと食べたのだった。


 ◆ ◆ ◆


 今は、神官三姉妹たちと談笑しているところだ。


 メイが紅茶を嗜んで【魔法念話】で伝えた。


『イツキ様、サフランモネアを採取してくれてありがとうございます。

 身体が軽くなった気がします』


 確かに、体が軽くなった気がする。

 サフランモネアは美容効果だけでなく、肉体促進や魔力を回復する効果もあるみたいだ。


  マイはリンが淹れたサフランモネアの紅茶を結構、気に入っていたのかリンにおねだりした。


「リン、サフランモネアの紅茶を毎日、作って欲しいね。結構、おいしいわ」

「ふふ、お任せを!」


 リンは胸を張って言った。


 メイはクーを撫でながら、俺に【魔法念話】で尋ねた。


『クーはどこから来たのか、分からないのでしょうか?』

『そうなんです』


 クーがフロストウルフと争っていたことについて、説明した。クーは、何故そこで争っていたのか、突然ここにいたのか、記憶がなかった。


『――今、聖騎士達と冒険者ギルドは、フロストウルフについて調査中なんです』


 そう告げると、人差し指を頬に当てて首を傾げてるリンが問うた。


『フロストウルフってガイア大陸に生息している魔物ですよね? でも、シーズニア大陸に侵入した痕跡も見つからずじゃないですか?

 外周に防衛している神聖騎士団からの連絡は来ていませんし……イツキ様の言う通り、大草原の花畑から発生したという推測が最も当てはまると考えられますね──』


 花畑に入る跡が全くなく、花畑から出た跡しかなかった。まるで、花畑のところからフロストウルフやクーが現れたような感じだった。

 クーに訊いても、気づいたら花畑にいたと言っていたのだから。

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