26話 可愛い仔犬?

『ユアさん、鑑定したんですが、その仔犬、名前は無いみたいです。種族も不明でした。ただ、ステータスが3000は超えていますね』

『仔犬なのに、3000超えていたんですか?』


 驚くユアに、俺はうなずいた。


「クゥーン……」


 その仔犬はやたらに、懐いてくれる。ペロペロと俺の手を舐めたり、すりすりとしてて、思わずほっこりする。

 ユアが微笑んで伝えた。


『イツキさん、懐いてますね。救ってくれたことで、嬉しいんでしょうね』

『そうですね。可愛いし、飼いたい気持ちですよ!』


 俺は犬好きなのだ。日本にいた時は、柴犬を飼っていた。

 そういえば、今はどうしているのかなぁ……。

 寂しい気持ちになった俺は、すりすりとする仔犬に、つい俺の飼い犬になってくれない? と頼んだ。

 その仔犬は尻尾をフリフリしながら、俺の頬をペロペロと舐めた。


 どうやら、喜んでいるようだ。


『イツキさん、飼い犬になってもいいみたいですね。ぜひ、持ち帰りましょう!』


 ユアもその仔犬を飼いたい!と、思っているみたい。ユアの意外な面を発見です。


『そうだね。――じゃあ、クーって、名付けようか』


 我ながら、安易な名付けだと思う。

 いや、ユアが仔犬を真似る仕草に、インパクトが強かったので思いついたんだ。


『クーですか。それはいいですね。愛くるしいです』


 ユアも即答だね。

 その仔犬を抱きしめて、名付けるために、つたない声で言った。


「君の、名前は、【クー】だ。よろしくね!」


 その仔犬――クーは、嬉しそうに尻尾をフリフリして、つぶらな瞳でジッと見つめた。


『ボクはクー。ご主人様、ボクを救ってくれてありがとう!』


「えっ!」

「ええっ!」


 なんと、クーから【念話】で語りかけてきたのだ。

 俺もユアも、驚きを隠せない。


『イツキさん、飼い主になれば、称号に【飼い犬】が付きます。念のために、鑑定するといいかもしれません』

『そうだね。そうするよ』


 クーを降ろして、【鑑定】してみた。

___________________________


種族 神狼 LV20/200


名前 クー 


HP:3500

MP:3000

攻撃:4500

防御:3226

魔力:3875

精神:3560


スキル:空間移動、氷魔法、暗黒魔法

称号:フェンリルの子、イツキの眷属

_________________________


 …………は?


『ユアさん、ユアさん……』

『どうしたんですか?』

『鑑定したら称号は確かに、俺の眷属となっています。もう一つ気になることが……』

『え? 眷属? 普通、仔犬とかは【飼い犬】となるのですが、まさか、この仔犬は魔物だったのですか?』

『魔物というか、神獣の方かと……。種族が神狼でした。フェンリルの子という称号がありました……』

『……え?』


 俺とユアは唖然してしまい、立ち直るのに時間かかってしまった。


 イツキが名付けたクーはSSランクの六大精霊王と並ぶ、神獣フェンリルの子どもだったようだ。

 子どもの場合、Aランクとなってもおかしくないレベルである。

 そんなAランクのフェンリルの子どもを、眷属にしてしまったのだから。


「クゥーン……」


 クーは首を斜めにしながら、ウルウルとした瞳で見つめた。捨てないでというような視線だ。

 見つめられた俺たちは心にキュンとしてしまい、結局、飼うことになった。

 ユアは喜色満面の笑みがこぼれ、「可愛い──」とクーを抱きしめた。クーはユアの頬に、ペロペロと嬉しそうに舐めた。


 そんな光景を眺めると、微笑ましくなるね。

 クーが【念話】で俺に伝えた。


『ご主人様、このあたりの花一面、ボロボロになってしまってごめんなさい』


 あ、そうだ。このあたりに凍っているところがあるし、フロストウルフの情報が聞けるかもしれない。


『このあたりに何か、争いがあったの?』

『うん。ご主人様。ボクはフロストウルフと争っていたんです』


 そうだったのか。ひどい怪我だったし、無事でよかったね。


『フロストウルフは6匹いました。残り4匹は逃げられてしまって……ボク、油断しちゃって』


 すごいな。Bランクのフロストウルフを倒せるとは……。

 逃れた4匹は俺たちが、討伐したわけなのね。


『それにしても、フロストウルフを倒すのすごいね。聞きたいことがあるんだけど、君は一体どこから来たの?』

『ご主人様、ボクは気が付いたらここにいました。ごめんなさい。

 どこから来たのかボク、分からないんだ……』


 申し訳なさそうにしょんぼりと頭を下げるクーに、大丈夫だよとクーの頭を撫でた。

 しばらくは調査だな。うん。


 ◆ ◆ ◆


 一刻が経ち、日差しが強くなってくる頃、荒れた花畑にて、生き残っていたサフランモネアを10束分、採取することが出来た。

 クーの探索能力のおかげだ。

 花畑の周りを見渡すと本当に、サフランモネアは荒れてて、あまり無いように見える。

 だが、クーがきれいな花が咲いているを隅々まで探してくれたのだ。

 

『クー、ありがとう! ユアさん、依頼分の全てを採取出来ましたね!』

『ええ、クーのお陰で、あっという間に集まりましたね』


 ユアもクーの探索能力が高いことに、驚いていたのだった。


『ユアさん、クーも一緒に旅していきましょうか。一緒にいると安らぎますし、何より助かる面も多いかなと思います』


 日本では、聴導犬という耳が聞こえない人のための補助犬がいる。クーなら、かなり助かるだろう。

 ユアもうなずいた。


『懐いてますし、可愛いですもんね!』


 そうして、イツキたちはクーを仲間入りとなった。

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