23話 祈りの儀式

 山の向こうに太陽が顔を出し、輝き始める。

 雲一つもない、晴天の日。

 清々しい朝だと、俺は背伸びをした。


 そう、今日はリリーナの祈りの儀式なのだ。


 侍女からご飯出来ましたというような手の形を作ってジェスチャーしてくれた。

 俺はありがとうと一礼してから、侍女のあとにつき食卓の間へ向かった。

 

 食卓の間に入って、つたない声で挨拶した。


「おはよう、ございます」

《『「おはようございます!」』》


 みんな揃って、挨拶返してくれた。

 食卓の間にはメシア、神官三姉妹、ユア、リリーナ、ガイゼルの他に二人の聖騎士がいた。


 あれ? 俺、最後だったのかな?

 みんな朝、早いのね……。


 がっくりとしたが、ユアが気付いてくれた。


『いえいえ、皆さん、丁度、同じ時間帯に来ていますので大丈夫ですよ。イツキさん、こっちです』


 ユアが微笑みながら【念話】で、席へ案内された。


 今日の朝食は祈りの儀式の前なのか、豪華だった。

 固いパンに具だくさんのトマトシチュー、イチジクもどきをすり潰したジュースのセットだ。


 これは美味しいかも。

 シチューは野菜が沢山入っていて、ヘルシーだった。野菜の旨味を活かしているので、凄く甘かった。

 イチジクもどきの味は、イチジクそのものだなと思った。

 見た目は、半月のような形で黄色い。日本にいた時の月と似ている。味わってみると、イチジクと同じ味だと思わなかった。


 さすが、異世界である。


 朝食が終えた後、メシアが誓いを立てたかような顔で告げた。


「これから、リリーナの祈りの儀式を行います。皆さん、見守って下さりますよう、宜しくお願いします」


 全員がうなずいた。


『イツキ様、これから祈りの儀式を行います。見守ってくださいね』


 メシアから【念話】が飛んできたので、俺もうなずいた。



 祈りの間へ案内される。

 そこは部屋の中心に、円の形をした大理石の台座がある。

 周りの床が水槽のようになっており、いくつかの彩り花がぷかぷかと浮かんでいた。

 メシアが説明した。


「ここは祈りの間です。女神様の御告げを受ける場所でもあります。リリーナのみ、こちらへ来てください」


「はい、お母様」


 リリーナは台座の中心へ向かい、両手を組みながらひざまずいた。


「女神様。──世界に大地の恵みと幸福をお与え下さい。この世に愛がある限り、オブリージュの血にかけて和平を築くことを誓います。アステルに心を尽くし、力を尽くして愛します」


 祈りの言葉を述べると、天から温かい光の柱が降り注いだ。何やらこくりと頷き、決意を得たような顔つきに変わっていった。そして、明るく照らした光の柱は少しずつ小さくなり、やがて消えていった。

 リリーナが立ち上がって声を上げる。

 

「女神様のご神託を授かりました。リリーナは第二皇女として、どうするべきか考えていきたいと思います」


 リリーナは、女神の神託により、何か決意したようだ。光の柱をこの目で見るのは不思議だった。こうやって女神の神託を授かるんだね。どんな内容なのか気になるが……。

 

 メシアはうなずいた。


「そうですか。女神様のご加護があらんことを」


 リリーナとメシアが祈りの台座から降りた後、リリーナはすぐに俺のところへやってきてシニフィ語で身振り手振りした。


《イツキさん、私、成人になりました!》

《成人おめでとうございます!》


 リリーナは悲しそうな顔で俺を見つめて身振り手振りした。


《イツキさん! 世界あちこち、旅をしても私を忘れないでください!》

《大丈夫だよ。リリーナを忘れることはないよ》


 にこやかにシニフィ語で身振り手振りすると、リリーナはぱぁっと嬉しくなり、俺を抱きしめた。

 

 リリーナって、乙女なんだなぁ。本当に妹のようで思わず微笑ましくなる。



 神聖法皇国オブリージュへ戻る時間が迫るころ、俺はギルドで受注した依頼のことをリンに【念話】で告げた。


『朝食は、とても美味しかったです。また、遊びに行きます。

 あ、そうそう、冒険者ギルドに大聖堂からの依頼があったので、私が受注することになっています。近いうちに、また行きますね。その時は、よろしくお願いします』

『あ、依頼受注されたんですかぁ! イツキ様なら成功しそうです。楽しみに待ってます!』


 リンは笑顔になって、グッとサムズアップした。


 リンさんって、ハイテンションなんだね。神官なのに、それでいいのか……。


 ◆ ◆ ◆

 

 メシアや神官三姉妹たちに、別れの挨拶を済ませ、シーズニア神聖法皇国オブリージュへ出発した。

 帰りもフロストウルフとか、Bランク以上の魔物が出ないとは限らない。

 警戒しつつ護衛したが、何事もなく神聖法皇国オブリージュへ到着した。


 大教会の謁見の間にて、ディーナ法皇は、喜色満面の笑みで言った。


「イツキ様、リリーナを護衛していただき、ありがとうございます。報酬はこちらとなります」


 執事が手に持っている豪華なトレーに、金貨10枚が入っていた。


「いえ、こちらこそ。ありがとうございます!」


 頭を下げて、トレーの上にある金貨を受け取った。

 ディーナ法皇はリリーナに振り向いて、優しげな微笑みで言った。


「リリーナ、良い旅になったでしょう?」

「お姉様! イツキさんを護衛してくれてありがとう!」

「あら、出発する前の顔とは違いますね。より乙女らしくなりました」


 リリーナは、なぜか頬を赤く染めていた。

 ガイゼルまでも、お礼するようにジェスチャーしてくれた。


「ワシにとっては、充実した旅だった。良ければ、リリーナ殿下のお付き合いも、よろしく、頼みます」


 ガイゼルもお礼についでに、リリーナの付き合いをしろと頼まれた。それと、出現したフロストウルフについても、調査するそうだ。


 そうだな。その件に関しても、シリウスさんに報告しておこう。

 そう思った俺は、冒険者ギルドへ向かうのだった。

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