22話 晩餐会


 俺たちは、大聖堂の中にある客室へ向かった。


 壁は無数に散らばっている星屑のような、複雑な幾何学模様のタイル、床は白い無垢フローリングというシンプルな仕様、広めのベッドと衣装タンス、テーブルに椅子の4点のみ置かれた部屋だった。

 それぞれ1人部屋となっている。

 ここに転移された時に、借りた部屋と同じであった。


 疲れたからゆっくり1人で過ごすことにするか。晩餐会が始まる時間までにのんびりとしておこう。


 リリーナとの出会いでシニフィ語があることに驚いたし、

 ディーナ法皇様との会食で、勇気をもって声を上げて話したことの全てが通じたことに感動したし、

 フロストウルフが出るやら、色々刺激があり濃い時間だった。


 腹減ったな……とつぶやいたとき、ちょうどメシアから【念話】で連絡が届いた。


『晩餐のご用意ができました。食卓の間へお越しくださいませ』

『ありがとうございます。早速、向かいます』


 久しぶりに神官三姉妹たちと会うことを楽しみに、食卓の間へ向かった。


 ◆ ◆ ◆


『『『イツキ様! お久しぶりです!』』』


 メイ、マイ、リンの神官三姉妹から【念話】で、挨拶してきた。


 うぉっ! 【念話】ですか! 一体いつの間に……。


 メイはしてやったり、という顔つきで【念話】で伝えた。


『はい。私達は念話のスキルを身につけることが、なかなか難しくできなかったのです。でも、魔法念話という伝達魔法があります。イツキ様と会話したくて、頑張って身につけてきました』


 おお、凄い! ってか【魔法念話】ってあるんだ。


『そうです~~。ユアから教えてもらいました! 私たち、ふんばって魔法念話の練習してきましたよ~~』


 リンは嬉しそうに、ガッツポーズした。


『メシア様とユアばかり念話されていて、私たちは何も会話できなくて……寂しかったのです。でも、今日から会話できますね!』


 マイも祈るような仕草で伝えた。


『こちらこそ、何も出来なくてごめん。声を出すことはまだまだ出来ていなくて……。それと、声の聞き取りもまだ出来ていないんです』


 申し訳なさそうに【念話】で、神官三姉妹に伝えた。

 神官三姉妹は、晴れやかに言った。


『『『いえいえ──、時間かかっても大丈夫です! 今、念話できますからね!』』』

『ありがとう! 念話とか身につけてくれて……』


 この国は、とてもいい人たちばかりで思わず、嬉しくなったわ。

 

 その時、ガイゼルが俺のところへ歩み寄った。


「イツキ殿、先程は、念話、ですかな?」


 俺はここ数日間、ガイゼルとやり取りしていたので、少しは慣れてきたのだ。

 一つ一つゆっくりと話してくれるし、読唇術でガイゼルの口の形から頑張って読み取っているのだ。


「念話は、特殊なスキル、ですからな。ワシは、出来ないので、イツキ殿と、うんと、話すことが、出来ないのも、もどかしいものだ」

「ガイゼルさん、大丈夫ですよ。ガイゼルさんとは、少し、慣れてきましたので」

「すまぬ、それは、助かる」


 リリーナが使っていたシニフィ語を見様見真似のジェスチャーで、必死に伝えてくれるガイゼルは残念そうな顔を浮かべていた。

 だが、俺は大丈夫だと元気づけたことで、ガイゼルはホッと胸をなで下ろしたのであった。


 ◆ ◆ ◆


 リリーナ皇女と神官長メシア、ユア、3人とも会話を交じっていた。


 イツキのことを気にしているメシアが、ユアに問うた。


「ユア、イツキ様との旅はどうでしたか?」

「そうですね。イツキさんは、不思議な御方です。リリーナ皇女様と出会ったり、後にディーナ法皇様と謁見したり、冒険者ギルドマスターと仲良しになったりしていましたね」


 ユアがそう言って、メシアは目を輝かせた。


「それは素晴らしいわね。イツキ様はやはり……いえ、イツキ様だからこそでしょう」


 ユアとメシアのやりとりに、リリーナは小首を傾げた。


「ん? イツキさんがどうかしたの?」


 メシアはからかうような笑みを浮かべた。


「リリーナ、それは楽しみにとっておきましょう。イツキ様を信じてあげましょうね」

「何でよ──! 教えてくれないの!?」

「ふふっ」


 メシアはリリーナを可愛い娘だこと、とうっとりしていた。


 そんなイツキ達は、にぎやかな晩餐会のひと時を過ごしたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る