21話 再び大聖堂へ

 太陽が山の向こうへ沈みゆき、黄昏のようになる頃、俺たちはシーズニア大聖堂へ辿り着いた。

 リリーナに、シニフィ語で身振り手振りをして報告した。


《無事、大聖堂に到着しました》

《ええ、アタシをエスコートお願いします》


 馬車から出たとたん、ガイゼルや聖騎士たちはひざまずいた。

 俺は、リリーナの手を繋いで共に歩いた。

 ユアは、俺とリリーナの後についていった。手を繋いでいることをジト目で、見つめられているが仕方ないことなんだ。ユアさん、ごめん!

 リリーナは、ルンルン♪ と俺の手を繋いで歩いていた。


 変な空気になっていた。


 迎えを待っていたメシアは、ビシッと亀裂が走った。額に青筋を浮かべながら、微笑んでいた。

 神官三姉妹リン、マイ、メイは、その場の状況が掴めていなかった。


「ねぇ、これは一体何なの?」

「イツキ様がリリーナ皇女様と……」

「私への宣戦布告かしら?」


 など、言いたげだった。


 ――――時間がさかのぼる。


「リリーナ殿下っ! それはダメですぞっ!」


 ガイゼルの怒鳴り声で、森が響いた。

 リリーナは頑なに通すつもりで胸を張った。


「いいでしょ! アタシはイツキ様と一緒ですわ! ということをお母様にアピールするのだから!」


 それでも、ガイゼルは認めようとしない。


「いやいや、リリーナ殿下! これは護衛ですぞ!!」

「何よ! ガイゼルがダメなら、アタシはどうするの?」

「身分ということです。皇女として、堂々と弁えてもらいたいのですぞ!」


 ユアも呆れたのか、ガイゼルの手助けをした。


「リリーナ皇女様、イツキさんにやらせるのはどうかと思います」

「なんで! ひどいっ!」


 2人の聖騎士までも困惑していた。

 

 困ったな。そこまで俺のことを好きでいるのは嬉しいけど、このままでは、らちが明かないな。

 でも、リリーナとシニフィ語で話し合ったことはとても楽しかった。手話で語り合うってのは、俺にとっては自然なことなんだ。

 その機会がない世界で暮らすのは、どれだけ辛いことだろうか。

 ユアに【念話】で伝えた。


『ユアさん、リリーナの希望通りに行きませんか?』


 ユアは目を丸くした。


『えっ、リリーナ皇女様のわがままですよ?』

『そうだね。わがままだね。たまにはいいじゃないでしょうか』

『はぁ……。確かにイツキさんはシニフィ語をお持ちでしたね。まぁ、イツキさんと初めての護衛ですので、いいでしょう』


 ユアは納得してくれた。そして、ガイゼルに伝えた。

 ガイゼルが眉を上げた。


「イツキ殿までもかっ!」


 リリーナは喜んだ。


「ありがとう! アタシ、とても嬉しいっ!」


 リリーナはかなり喜んでいたが、ガイゼルとユアは疲れきったのか苦々しく笑った。

 ユアに通訳をお願いした。


『もしも、シーズニア大陸から離れると、リリーナ皇女様とは、しばらくは会えなくなると思いますし、最後のわがままとして、受け入れませんか?』


 ユアの通訳で耳にしたガイゼルは、深くため息をした。


「……今回は目をつむろう。イツキ殿は本当にお優しい方だ。今、いるのはここだけのメンバーだ。箝口令かんこうれいを出すので、破ったらどうなるか分かっておるな?」


 ガイゼルは俺たちを見渡して睥睨へいげいした。ガイゼルの鋭い眼光に、俺たちは頭を縦に何度も振った。そういうやり取りが、あったのである。


 ◆ ◆ ◆


 リリーナは両手でスカートの裾をつまみ、頭を下げて挨拶した。


「ごきげんよう。お母様。シーズニア神聖法皇国、皇位継承順位第二位皇女リリーナは、女神様のご神託を授けるために参りました」

「ええ、ごきげんよう。リリーナ、今日はお疲れでしょう。祈りの儀式は、翌日に行います。お部屋へ、ご案内致しましょう」


 挨拶を終え、メシアは額に青筋が立てながら尋ねた。


「ねえ、リリーナ。何でイツキ様と手を繋いでいたのかしら?」

「はい! イツキさんはフロストウルフを討伐してくれました。彼は、アタシの王子様だと感じたのです。手を繋ぎたかったのは、アタシのわがままです。お許しください!!」

「え……。え、フロストウルフ? お、王子様?」


 呆然とするメシアを見たガイゼルが、これまでにあった出来事を説明した。


「な……なるほど……。ご無事で良かったですが、何ていえばいいことやら……」


 メシアはふらっとめまいがしそうになったが、踏ん張った。

 気を取り直して、今後の予定を説明した。


「……今日はゆっくりとお過ごしください。

 祈りの儀式は翌日に行います。晩餐会がありますので、お越しくださいませ。どうぞ、よしなに」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る