20話 ディーナ法皇の依頼③

  日が昇り始める頃、テントや野営道具などを片付けた後、ガイゼルが点呼する。


「皆、揃っているな? 今日の夕方あたりに、大聖堂に着く予定だ。気を引き締めていこう」


 森が陽射しをさえぎっていて、優しい風が頬にさすった。清々しい森の匂いに、気持ちが明るくなった。

 ――しばらく歩いている最中、【気配感知】が察知した。


『ユアさん、これまでにない強い魔物が来ます! 4匹ほどです』


【念話】で状況を伝え、耳にしたユアが気を引き締めて、ガイゼル達に伝えた。


「なんだと! どこからだ!」


「向こうの茂みに気配を感じます!」


 俺が指さした方向に、樹木が群がっているところの茂みがガサガサと揺れる。

 そして、4匹の影が飛び出してきた。

 白っぽい毛を覆っていて氷のように鋭いたてがみをしていて、4m超えている程大きい。巨大な狼のようだ。

 ガイゼルは冷や汗を流し、強張ってしまう。


「まずいな。これはBランクだ。フロストウルフだぞ。1匹なら、まだ良いが4匹とは……」


 フロストウルフ? とりあえず、スキル【鑑定】を使ってみる。


 フロストウルフはBランクの狼系魔物だ。

 氷属性のスキルを使うため、火属性魔法で防ぐ必要がある。なお、防御がかなり高い為、パワーのある戦士、または弱点である火属性魔法を扱える魔導士が必要になるようだ。


 直ぐにフォーメーションを決め、聖騎士3人は前衛に、俺とユアは後衛になる。


 リリーナは怯えてしまい、すくんでしまっていた。

 

《大丈夫です。私達が守って見せます》


 リリーナに安心させるように身振りしてあげた。リリーナは、コクリとうなずいて後押しするように身振りした。


《イツキさん! 気を付けて!》


 聖騎士3人をより強化するために、【補助魔法:ブレイブ】を無詠唱でかけた。

 ガイゼルたちの足元に魔法陣が浮かび、魔法陣から赤い光がガイゼルたちの身体に包まれていく。

 一定期間に攻防を上昇したガイゼルたちは、決意を込めた顔つきになった。


「イツキ殿! 助かる!」

「「イツキさん! ありがとうございます!」」


 さらに、【防御魔法:マジックウォール】を展開した。大きな薄い膜のようなものが浮かびあがり、自らを守ってくれるように包まれていった。

 この防御魔法は、魔法や属性スキルから被ダメージを低減させる障壁を張る魔法である。

 フロストウルフは、氷属性のスキルをよく使うみたいだからね。


 ガイゼルが腰際にある剣を抜き、渾身の一振りで倒せるか先制攻撃を出す。

 斬りかかった時、フロストウルフが氷のように鋭いたてがみで受け止めた。


「グルワァァァ!!」


────ギィン!


 ガイゼルの一振りを弾くような鈍い音を出したことで、反動を受けたガイゼルは少しひるんでしまった。

 その瞬間を逃さないフロストウルフがガイゼルを噛みつこうとしたが、ガイゼルは防御に長けているのか、とっさに剣を盾代わりに防いだ。


「くっ! 噂通り、硬いな」


 ガイゼルは、睨みつけながらぼやいた。

 この瞬間、ユアが【元素魔法:フレイムバースト】を唱えた。


「灼熱の炎よ、全てを焼き尽くし、爆発せよ、フレイムバースト!」


 数多にある炎の渦のようなものが対象に目掛けて、集束し爆発する中位元素魔法である。

 油断していたフロストウルフの1匹が、避けきれず真に受けて悲鳴を上げた。


「ギャン!」


 先制攻撃に成功し、ガイゼルを噛みつこうとしていた1匹を仕留めることが出来た。フロストウルフの弱点は火属性なので、効果てきめんだった。


「ッ! グルルル……」

「「ガゥ! ガルル……」」


 炎の渦から回避した残りの3匹のフロストウルフは、警戒しだしたとたん、身を溜めていた。

 何やら、魔力が急激に高めていくのが分かる。


「グルォォォ!」


 フロストウルフの口から【ブリザードブレス】を吐き出した。


 口から吹雪のようなものが、広範囲へ伸びてきている。

 フロストウルフから直線上にある木々や草花が、吹雪のようなものを触れた瞬間、氷漬けに変わっていった。

 やがて、俺たちの方へ迫ってきた。


 これは危険だと感じ、ユアたち全員に【防御魔法:マジックウォール】を何度も重ねるように展開した。

 ゴォーと強風が吹きつけているのか、身体に響きわたった。


【ブリザードブレス】を何とか防ぎ切ったが、周りにある木々が氷漬け状態になり、辺り一面が銀の世界のようになってしまった。


「大丈夫か!?」


 ガイゼルが周りを確認した。

 俺の防御魔法で防いだからか、装備類は少々凍っていた。だが、無事に守りきれたことに一息ついた。


「一気に倒し切るぞ!」


 ガイゼルの号令により、全員でフロストウルフへ向けて、一気に攻撃開始した。

 まずは、聖騎士たちが剣で斬り攻めた。フロストウルフ3匹を中心へ追い込ませた。追い込ませた隙に、俺とユアは同時に【元素魔法:フレイムバースト】で、まとめてトドメをさした。

 だが、1匹逃れてしまったフロストウルフは俺に目掛けて、噛みつくために猛スピードで突進してきた。


「うわっ!」


 俺はとっさに、先程に唱えた【元素魔法:フレイムバースト】を放った。


「ガゥ!?」


 フロストウルフは俺が無詠唱で発動したことに、一瞬、気をとられた。

 その瞬間が命取りとなった。


「グルォォ……」


 最後に残ったフロストウルフはもろに受け、燃え尽きていき絶命した。


 ふぅ……。Bランクの魔物は回避能力が高く、広範囲の攻撃を持っているんだな。シーズニア大陸は確かに平和な大陸だし、弱い魔物が多いから、油断していたわ。


 ガイゼルと聖騎士2人が喜び、俺に称賛した。


「イツキ殿! すごいではないか。無詠唱ができるとは」

「助かりました。イツキさんが掛けた補助魔法のお陰で、討伐できました」

「イツキさん、ありがとうございます」


 言っていることが分からなかったが、ユアが、【念話】で通訳してくれた。

 俺は嬉しくなり、聖騎士達に頭を下げた。


『イツキさん、やはり凄いですね』


 ユアにも尊敬のまなざしで微笑んだ。


《イツキさん! かっこよかったです!》


 リリーナは、シニフィ語で褒めながら俺を抱きしめたが、ユアが引き離して注意した。


「リリーナ皇女様、身分をわきまえてください」

「むう──!! ユア様っ! アタシはアタシなのっ!」


 リリーナはプンプンと頬を膨らませた。

 そんなやり取りを見た聖騎士たちは、苦笑していた。


 ガイゼルが気を引き締めて言った。


「この大陸に、フロストウルフが出るなんて……ここら辺じゃ出ない魔物だぞ」


 ユアも同じことを思っていたのか、うなずいた。


「フロストウルフは、ガイア大陸に生息する魔物です。ここに出たというのはガイア大陸に、何かあったという事でしょう」

「だがな、Bランクじゃ外周の聖騎士が防衛しているはずだ。逃してしまうとはいえ、4匹もだぞ」


 二人の聖騎士も意見を出した。


「これは魔族の仕業ではないでしょうか?」

「何者が仕組んだことでは?」


 ここでユアが、これ以上は分からないので打ち止める。


「みなさん、ここで話し合ってもきりがないので、まずはリリーナ皇女様を大聖堂へ送る任務を果たしましょう。フロストウルフの件は、情報が少ないので」


 ガイゼルも安堵したかのようにうなずいた。


「そうだな。もうすぐ、大聖堂に着くぞ!」


 そうして、シーズニア大聖堂へ向かうのだった。

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