19話 ディーナ法皇の依頼②

 旅途中に、襲い掛かってくる魔物を蹴散らす聖騎士たちは凄かった。襲ってくるシーズニアウルフやゴブリンたちを剣の一振りで、一刀両断するほどだった。


 いつの間にか、俺とユアはリリーナ皇女のそばにいること、聖騎士たちは迫りくる魔物を蹴散らすという役割になった。その形で、シーズニア大聖堂へ向かう流れになっていたみたい。


 この世界は15歳が成人と見なすため、15歳になった暁に大教会へお祈りする決まりがある。女神の祝福を授けるためだ。

 ただし、皇族は神聖法皇国の頂点のため、シーズニア大聖堂まで出向き、お祈りしなければならない。皇位継承順位第二皇女であるリリーナの他に、第三皇子までもいる。その二人は、ゆくゆくは公爵となる流れになるようだ。

 リリーナ皇女が身振りした。


《そう、ディーナお姉様が法皇になったので、アタシと弟は公爵になるの》


 なるほど、公爵令嬢みたいな感じかな。

 ディーナ法皇はまだ20歳になったばかりで、リリーナ皇女は15歳を迎える感じか。そういえば両親はいるのだろうか?

 俺はリリーナ皇女に身振りしながら尋ねた。


《リリーナ、両親の方はどんな仕事をしているのかな?》


 そう質問したら、リリーナは無言になった。


 あれ? 失礼なこと言ってしまった?


 ユアが【念話】で教えてくれた。


『リリーナ皇女様の御母君は、大聖堂の神官長メシア様です。そして御父君は上皇になり、神聖法皇国を影で治めています』


 えっ、メシアさんって、リリーナのお母様だったんだ……。

 すごく良き御方だったし、【念話】できるのも助けられたんだよね。


 リリーナ皇女は強張った顔で身振りした。


《うう、お姉様が法皇に就いてから4年経ちます。あれから4年振りにお母様とお会いするのですが、どうしても緊張してしまいます》


 4年って! 4年も会わないことに驚いた。一般と皇族とは違うことカルチャーショックを受けた気分だ。


 リリーナ皇女はうなずいた。


《はい。謁見式や世界会議があるときは会えますけど……》

 

 ああ、なるほど。法皇から神官長、上皇までいると責任も大きいのだな。

 そんな重圧かかっても、寂しくても堂々としていたのか。こんなに、小さな女の子なのに立派だよ。

 感心しているうちに、リリーナ皇女が笑顔に変わった。


《でも、イツキさんがいるのでアタシはすごく楽しいから!》


 場が和やかになった。

 ユアも俺も、リリーナ皇女が元気になったことで、ほっと胸をなで下ろした。


 薄暗くなってきたので、テントを張る準備することになる。ただ、聖騎士たちがいるので、【次元収納】は控えることにしよう。

 見張りは交代制で、まずは俺とユア2人組、次に聖騎士3人だ。リリーナは皇族専用のテントで寝ている。


 バチバチと火が立っている中、俺とユアは【念話】で、やり取りをしていた。音もないので、聖騎士たちには分からないのが良いところだろう。

 まず、ユアに【念話】でねぎらった。


『ユアさん、お疲れ様です。今日は半分ほど、進みましたね』

『そうですね。イツキさん、リリーナ皇女様と随分、仲良しになりましたね』

『はい。そこまで仲良くなるとは、思いもしませんでした。リリーナと呼び捨てしてほしいとまで、言われた時はどうしようかと思いましたよ』


 そう言って、頬をポリポリとかいた。

 ユアが耳にしたとたん、絶句した。


『呼び捨て? シニフィ語だったので良く分からなかったのですが、まさか、リリーナ皇女様が呼び捨てしてほしいと頼むなんて……』

『はい、一度断りを入れましたが、リリーナ……皇女様が不機嫌になってしまいまして、止む無く、呼び捨てしてしまいました』

『まぁ……リリーナ皇女様が喜んでいたようですので、仕方ないですね』


 ユアはやれやれと、頭を振った。


 そんな時、ガイゼルと聖騎士2人がやってきた。ガイゼルが愉快そうに声を上げた。


「見張りご苦労。今回の旅は愉快だった。さて、交代の時間だ」


 2人の聖騎士までも羨ましそうに言った。


「ええ、イツキさんはリリーナ皇女様に、好かれていてニクイですよ」

「リリーナ皇女様と身振りしているのを見ていると、楽しそうでしたよ」


 ユアは苦笑した。

 俺はガイゼルと聖騎士二人に、つたない声でお礼を言いジェスチャーした。


「はい。何も、異常は、ありませんでした。――いえいえ、こちらこそ、お世話に、なってます」


 ガイゼルたちとしばらく、やりとりした後、俺たちはテントへ寝入った。

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