18話 ディーナ法皇の依頼①

 ディーナ法皇の依頼により、リリーナ皇女の護衛としてシーズニア大聖堂へ赴くことになった。

 護衛は、俺とユア2人だけでなく、聖騎士3人加えて5名になる。

 老年聖騎士ガイゼルを筆頭に、リリーナ皇女を護衛する3人の聖騎士だ。

 全員Aランクなので、かなり強いオーラを感じられた。


 ガイゼルがにこやかに微笑んだ。


「久しいですな、イツキ殿。短い間ですが、リリーナ殿下を宜しくお願いします」


 ガイゼルが頭を下げると、後ろに控えている聖騎士2人にも頭を下げた。俺とユアもつられて、ペコリと頭を下げた。


 純白で法皇国の紋章がついたドレスを着こなしているリリーナ皇女は背筋を伸ばして凛と、シニフィ語で身振りしながら、声を上げた。


《「私はもうすぐ15歳を迎えます。大聖堂へ赴き、祈りの儀式を行います。

 皆さん、気を引き締めて護衛をお願いします!」》


 シニフィ語と人間族語を同時に行うリリーナ皇女の威厳を垣間見たようで、ゴクリと息を呑んでしまったよ。



 神聖法皇国から大聖堂までの道のりは、前と同じ道になる。

 馬車は中世の貴族が乗っていたような四角の形をしていて、それを支える4つの大きな車輪だ。


 ちなみに、俺はリリーナ皇女の隣に座っている。

  

 勘違いしないでほしい。


 リリーナ皇女のお願いで渋々、座っていることになったのだから。

 なお、反対側には、ユアが座っている。

 聖騎士たちは、特にガイゼルは猛反対したが、リリーナ皇女の強引なお願いで折れてしまったのであった。


 もちろん、俺は護衛としての仕事を担っていると自覚しているので、常時、【魔力感知】と【気配感知】で周りを警戒している。


 リリーナ皇女とは、シニフィ語で会話が中心だ。

 ユアはシニフィ語が分からないため、俺が【念話】で通訳することになっていた。

 リリーナ皇女が俺に身振りした。


《イツキ様、無理なお願いをしてごめんなさい。でも、また一緒にいて嬉しいです!》


 リリーナ皇女様は本当に嬉しそうだ。


《リリーナ皇女様、こちらこそ。きちんと護衛しますので、ご安心下さい》

《イツキ様、リリーナと呼んでください。そんなに畏まらなくて、結構ですよ》

《リリーナ皇女様、そういうわけにはいかないでしょう》

「…………」

《……リリーナ皇女様?》


 シド目で、見られても困ります……。

 沈黙が長く続くので、仕方なく呼び捨てすることにした。


《リリーナ、こちらこそ、よろしくお願いします》


 呼び捨てすると、ぱぁっと喜々顔で《はいっ!》と喜ぶ。


《イツキ様──いえ、イツキさん、こちらこそ、よろしくお願いします。シニフィ語なら、だれも分かりませんからね。ふふっ、アタシたちは特別ですね!》


 キャッキャッと喜ぶリリーナを見やると、日本にいた頃、妹のことを思い出した。ついリリーナの頭をポンポンと撫でてしまう。

 撫でた頭をさすったリリーナは、えへへと喜んだ。


 うっ、ユアから視線を感じる。

 ユアの方に振り向くと、ジト目で見つめていた。


『イツキさん、身分を意識してください』

『あ、はい』


 すみません。怒られてしまいました……。



 そんなワイワイとしているイツキ達を眺めている聖騎士たちは、羨ましそうな顔になっていた。


「はぁ、イツキという方はリリーナ皇女様に好かれていないか?」

「そうだな。かなり懐いてるようですね」


 聖騎士の2人は、ため息をした。そんな中、ガイゼルは良い傾向だと、保護者として見るような目で言った。


「リリーナ殿下は身分が高いゆえに、対等に話せる相手がいなく、寂しい思いをされていたのですな。だからこそ、大教会から勝手に出て、街歩きされたのでしょう。まぁ、身勝手さは相変わらずですがね。

 イツキ殿との出会いはリリーナ殿下にとって、運命を感じていたのかも知れませんな」


 聖騎士二人は目を開いた。


「そうだったのですか」

「確かに皇女様ですし……」


 聖騎士2人はリリーナ皇女の心境を知り、申し訳ない気持ちになってしまったようだ。だが、ガイゼルは仕方ない事だとなだめた。


「しかし、イツキ殿は頼りになりますな。リリーナ殿下と付き添いながら結界を張っておる。――これは気配感知の類ですな」


 ガイゼルは、イツキの仕事ぶりに感心するような笑みを浮かべたのだった。


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