14話 少女

「きゃっ!」


 武器屋から出たとたん、いきなり小さな影が出てきてぶつかってしまった。

 ぶつかった先に振り向くと、年端もいかない少女だった。

 転んでしまったのか、すり傷が見えた。


「ごめんなさい、大丈夫、ですか?」


 と、つたない声を出した。そして、手を指し伸ばそうとしたら、冒険者らしき男二人組が吹っかけてきた。


「おい! そこのお前! そこにいるガキを捕まえろよ!」


 ユアが【念話】で俺に助言を飛ばした。


『どうやら、少女を追っていたようです。その少女は知っている御方なので、守りましょう』


 俺はうなずいて、年端もいかない少女を守るように身を構えた。

 冒険者らしき二人組は、チッと舌打ちした。


「なんだぁ、そこのガキを守るのか。食べ物を粗末しやがったんだぜ? お前! 弁償しろよ」


 その二人組が何を言ってるのかわからないけれど、【ガキ、食べ物、お前、弁償】というキーワードだけ読み取れた。そのキーワードから推測すると、カツアゲだろうな。

 何だろう……冒険者というより、荒くれ者じゃないかと感じられた。


 瞬く間に、その荒くれ者2人組がいきなり、殴りかかってきた。

【防御魔法:バリアウォール】を無詠唱で展開し、荒くれ者2人組は見えない壁をぶつけたように、

 ──ガンっと鈍い音を出し、尻もちついた。


 この魔法は、下位防御魔法であり、被ダメージを低減することができる。荒くれ者たちは攻撃力が低かったのか、壁にぶつかったような衝撃になっていた。

 続いて【下位風魔法:ウインド】を無詠唱に行使し、荒くれ者二人組をピンポイントに吹き飛ばした。


「ぐぇっ!」

「ぐあっ!」


 飛ばされた荒くれ者2人組は向こう壁にぶつかった。うめき声を上げてそのまま、気絶し倒れていった。


 シーズニア大聖堂の広場にて、ユアから教えてもらった【下位風魔法:ウインド】は、小さな竜巻で対象を吹き飛ばすだけの魔法である。


『お見事!』


 ユアから拍手してくれた。そして周りも大喝采だ。


「おお──! すごいな!」

「助かったよ──! あの荒くれ者には、困っていたんだ!」


 どうやら、荒くれ者2人は他の国からの者で、周りに困らせていたようだ。

 巡回している騎士が俺たちに感謝の意を述べ、荒くれ者2人組は気絶したまま連行していった。


 年端もいかない少女に俺は、大丈夫ですかと、再び手を差し伸べた。

 ユアも、その少女に近寄って言った。


「リリーナ皇女様。何故、ここにいるのですか?」

「すみません。ユア神官様、街歩きしたくて……。でも、助けてくださりありがとうございます」


 リリーナ皇女は差し伸べた俺の手を掴んで、頬を赤く染めた。

 ユアが言った。


『彼女は、この国のリリーナ皇女様です』


 助けた少女はリリーナ皇女だということを、目を丸くした。

 ふんわりとしてて可愛らしい金髪、愛くるしく清々しい少女だった。

 

 リリーナ皇女は、小首を傾げていた。


「何をしているのですか?」


 ユアが慌てるように説明した。


「あ、申し訳ありません。彼はイツキと言います。彼は耳が遠い方ですので、念話でやりとりをしていました。先程は、この状況について説明していたのです」

 

「あの方は耳が遠い方なんですねっ!」


 リリーナ皇女は、ぱぁっと喜色満面な笑みを浮かべた。手や腕に、何か形をしながら身振りをした。


《ごきげんよう。シニフィ語は使えますか? 私はリリーナというの。イツキ様》


 こっ、これは! 手話じゃないか!

 この世界にも、手話があるのか。

 日本にいた時の手話とは全く違うけど、【言語理解】というスキルがあるからなのか、[見る]ことで理解できた。


 手話というのは手や腕の動きを中心として、頭、表情、口、上体などの動きによって表現するコミュニケーションの1つである。

 身振り、手振りでコミュニケーションをとる方法といえば分かるだろうか。


《初めまして。リリーナ皇女様。

 私はイツキ:タキシマといいます。手話が出来ることにビックリしました》


 手話で返答すると、リリーナ皇女は、はてなマークを頭に浮かんで俺に尋ねた。

 

《手話というのですか? シニフィ語ではなくて? 先程は、シニフィ語みたいですけど?》


 え? ここの世界は、シニフィ語っていうのか。


《……多分、シニフィ語です》


 同じなのか分からないため、曖昧に答えた。


 『この世界はシニフィ語っていう言語があるようだけど、普及されているの?』 と【念話】でユアに尋ねた。


『先程のやり取りはシニフィ語でしたか。そうですね。この世界はシニフィ語があります。普及されているかどうかは分かりませんが、神聖法皇国はそういうやりとりしている方はいましたよ』


 この世界ではシニフィール族という種族がいて、その種族の言語だそうだ。その種族が以前に、神聖法皇国にいたらしく、リリーナ皇女はその種族とお話したことがあった。

 その理由で、シニフィ語を身につけたのだと。


 なるほど。異世界でもこういう言語があることに驚いたわ。


 リリーナ皇女とやり取りしている中、白銀の鎧を纏っている老年の聖騎士がやってきた。


「失礼します。リリーナ殿下! 勝手に、大教会から出ないでください。随分、探しましたぞ!」


 老年の聖騎士を見ると、かなり困っていた。心配していたようだ。リリーナ皇女は皇族出身である。皇族の方が行方不明になると、老年聖騎士にとっては青ざめる展開となるのだから。


《またお会いしましょう》


 手をひらひらとするリリーナ皇女は、老年の聖騎士とともに軽く一礼をすませ、この場から離れていった。


 そんな二人を眺めたユアがつぶやいた。


『まさか、リリーナ皇女様がお転婆娘だったなんて驚きでした』


 聞いた話によるとリリーナ皇女は、しっかりしていて皇族という立場をわきまえていたそうだ。

 見た目は14歳あたりっぽかったから、もしかして遊びたい年頃なのだろうか。



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