10話 ギルドマスター

「ギルドマスターを呼びに行きますので、ここでお待ちください!」


 受付さんが声を上げて、あたふたと去っていった。


 ユアが真剣な顔で、急きょ、この世界の常識についての講座を始める! ということになった。


 英雄でもレベル100カンストでも、パラメーターは5000~6000が最大なんだそうだ。ただし、武器や防具、アイテム等で10000以上、ステータスアップすることがある。

 それなのに、俺の場合はそれ以上になるということだった。


『イツキさんは武器も、防具も、アイテムも、ですよね? それでも10000越えですからね! しかも、レベルがまだ15なんですよ!』


 この世界は人間族、獣人族、ドワーフ族、そして魔族等、様々な種族がいるが、レベル15で10000を超える人はいない。いたら、化け物だと思われるとのことだった。

 それを理解して、慎重にしてほしいということだろう。

 ユアが困った顔でつぶやいた。


『高パラメーターですと、色々と面倒なことが起きます。色々と駆け引きもあるでしょう』


 確かに、そうだ。それは困る。

 自由に旅回りたいのに、不自由になってしまうのは、勘弁してほしいものだ。


 そんな中、ギルドマスターがやってきた。


「よう、俺はここで仕切っているギルドマスター、シリウスだ」


 威厳のある風貌に、ハリウッドでもよく見かけるYシャツにボタン3つ外して胸を見せたような恰好で、ダンディーな髭を生やしていた。

 なんて、かっこいいんだと、見惚れてしまった。男としての憧れが今、現れた。


 ギルドマスターからの挨拶に、ユアが耳代わりとして対応した。


「シリウスさん。ご無沙汰しております。私は、ユアと言います。彼はイツキさんです。世界中を旅したく、冒険者登録しに来ました」

「ご無沙汰しております。ユア神官様。旅とは、勇気のある行いではないですか」


 シリウスが微笑んで、頭を下げた。続いて、俺に振り向いた。


「して、イツキ殿、君は魔導士見習いなのに、世界中へ旅するのか?」


 シリウスはその覚悟があるのか、俺を見つめた。

 しかし、俺は何を言っているのか分からず、困った顔を表へ出してしまう。それが、シリウスは覚悟がないなと勘違いすることになった。


 シリウスは怒ったような顔で説教した。


「現実は甘くないぞ! 旅することはいかに危険な──」


 ユアが、シリウスの説教をさえぎった。


「シリウス様、イツキさんは耳が遠いので、言っていることが分からないと思います」


 シリウスは目を大きく開き、俺に凝視した。

 そばにいた受付さんに、彼の鑑定プレートを見せろと手を差し伸ばした。


「それはすまなかった。――ふむ、所持スキルに念話があるようだな。幸い、俺も念話持っているから、それで話すか?」


 ユアがうなずいた。


「はい。お願いします」


 シリウスは【念話】を使い、俺にお詫びを伝えた。


『先程はすまなかった。魔導士見習いと聞くとどうしても、心配になってしまってね』

『あ、いえ。大丈夫です』


 俺は、思わず遠慮するように言ったことで、シリウスは呆れかえった。


『それを大丈夫とは、言わないところだぞ! 全く……。改めて聞くが、これから世界中へ旅立つのか?』

『はい。旅立つ予定です。 ですが、先程、ユアさんと色々相談したのです。しばらくは、ここで滞在しようと思っています。色々と、試したいことがありますので』

 

 シリウスは、安心したような笑みを見せたとたん、俺のステータスプレートを再び、見つめて尋ねた。

 

『ほう。それは助かる。――もう1つ、何故、10000越えなのだ?』

『それは……生まれてからそんな感じなので、何故なのか、俺も分からないです』


 ユアもフォローした。


『イツキさんは耳が遠くなったことも生まれつきだそうで、その影響かと思います』


 事前にユアと織り込み済みだ。

 ばれたら困るので、誤魔化すことにしたのである。


『そうか、そんな事例は今までないな。うーむ、どうしたものか……』


 シリウスは頭を抱えながら、受付さんに問いかけた。


「何か、案あるか?」

「難しいですね。本人でないといけませんよね……」

「そうだな……」


 2人はお互いに、うーむと知恵を出し合っていた。


 その間に俺とユア、2人だけ【念話】で打ち合わせた。


『ユアさん。私の失態です。世間知らずでした』

『いえ、今はタイミングが悪いので、このまま通しましょう。10000越えについてはどうするかですね』

『そのまま登録ってのは、大丈夫ですかね?』

『大丈夫ですが、色々と問題が起きると思いますよ。冒険者登録するということは、世界中のギルドにも知られることになりますから。知ってしまった人はどう行動するか、お判りでしょう?』


 厄介ごとに、巻き込まれるのかと、不安げになった。


『……チーム組もうとか、依頼が増えてしまうから?』

『正解です。それだけでなく、権力者からの悪巧みとか、こき使われる可能性もありますよ、ランクが低いとなおさらです』

『なるほどね。もしもなんですが、冒険者登録しないで、商人ギルドとか登録する場合はどうなるの?』


 ユアはうなずいては、困ったような表情を浮かべた。


『アリかと思いますよ。ただ、商人ギルドとなると登録料が金貨50枚必要なんです』

『50枚? 今更だけど、金貨の相場ってどのぐらい?』

『通貨までもですか……。商人ギルドへ行かず、正解でした』


 ユアは、やれやれと頭を振った。そして、人差し指を立てながら、通貨について説明した。


『大陸によって、通貨が違うんです。シーズニア大陸とイシュタリア大陸は一部の国を除いて、イシュ通貨と呼ばれる通貨を扱っています。

 金貨1枚で銀貨10枚、そして銀貨1枚で銅貨10枚です。私達が泊まった宿はひと部屋で銀貨10枚でしたが、あそこの宿は高めの宿なので。

 一般的の宿の相場は、銀貨2枚です。参考までにここで働いている方は、日給で銀貨5枚が相場です。

 飲み物に関しても、エール1杯で銅貨2枚ですね。食事も銅貨6枚が相場です』


 エールの入ったジョッキ1杯で銅貨2枚。

 固いパンに塩味の野菜スープ、新鮮な野菜のセットで銅貨6枚。

 昨日泊まった【真紅のクォーツ亭】は銀貨10枚。

 ──ということだね。


 うーん。ややこしいので日本円にしてみることにした。

 銅貨1枚で100円、

 銀貨1枚で1000円、

 金貨1枚で10000円にしてみよう。


 エールの入ったジョッキ1杯で200円。

 固いパンに塩味の野菜スープ、新鮮な野菜のセットで600円。

【真紅のクォーツ亭】の宿泊費は10000円。

 働いている人の日給は5000円

 

 日給と比べてみると、確かに泊まった宿屋は高いな。


 商人ギルドの登録料が金貨50枚の場合、日本円に訳すると50万円ということか……無理だわ!

 この流れだと、冒険者ギルドの依頼料でコツコツ稼ぎながら、貯めて行くしかないじゃん。


『なるほどね……そうなると、冒険者登録をどうにかしないといけないな』

『恐らく、シリウスさんは今のままで登録すると、大変な思いをするだろうと心配されているかと。それを避けたいから、色々と相談しているのでしょう』


 シリウスさん、見た目はダンディーで怖い人だなと思ったけど、めっちゃいい人でよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る