幕間 ユアの思い②

 初めて、イツキ様とメシア様、私たち6人で食事をした。


(確かに、イツキ様は誠実ですね。しかも、魔法を覚えたいとは……。

 この世界に転移して、まだ1日も経っていないのに大物だわ。向こうの世界では魔法という概念がなく、平穏に暮らしていたと聞いたのに、魔法を覚えたいというのは、かなりの好奇心旺盛なのね。……教鞭とるのは数年ぶりかしら)


 イツキの印象をより感じたユアは、嬉しそうな顔つきになっていた。


 大聖堂の中で、見ているだけで癒される大きな花畑のある広場があり、そこで私は、イツキ様に魔法を教えている。


(……すごい。教えた魔法をどんどん、吸収している。殆ど一発で、覚えるなんて……。しかも、無詠唱とはどういうこと!? これが、来訪者の力なの? ちょっと、嫉妬してしまうわね)


 魔法の才能を持っているのではと感じ、嫉妬してしまうユアだった。

 それでも。


(いっぱい、教えたくなるわね! イツキ様の魔力を見る限り、100回……いえ! 500回が妥当ね!)


 ユアの中に、教鞭の鬼が発揮した。

 それから厳しい練習をさせていく度に、イツキは恐怖に染まった顔つきになっていくが、ユアはより成長したいと思っているのか嬉しそうだった。


 そんな日々が一ヶ月間、経った頃、ユアはイツキと共に過ごすことが当たり前になる。

 気付いたら他の神官たちは、羨ましいといわれるようになっていた。

【念話】が出来る、出来ないだけで、関わりも大きく変わるのであった。


(人生わからないものね。気付いたら、イツキ様と一緒に過ごす日々が来るとはね。あくまで、魔法の指導ぐらいだけど、楽しんでいる自分がいることに気付いたわ)


 広場でイツキが一人で魔法の練習をしている光景を眺めている最中、神官三姉妹がやってきた。


「ユア! イツキ様と仲良しね! とても羨ましい~~! 

 私も念話出来るといいのに……」


 リンは文句言いたげに、ユアにビシッと指をさした。


「リン、仕方ないわ。私も同じですもの」

「同じく……」


 メイとマイも、諦め気味に、うつむいた。

 ユアはそんな3人をなだめた。


「いえ、みんなもイツキ様にしっかりとジェスチャーをしているのではないでしょうか? それも良い事だと私は思います」


 1つ加えて。


「イツキ様は誠実な御方でした。人との会話に、すごく飢えているとわかるぐらいでした」


 と、ユアはそう答えた。

 メイは思案顔になり、頬に手を当てた。


「向こうの世界では、会話少なかったのかしら。念話は魔法というより、スキルですけど……」


 我慢できなくなったのか、リンがユアにおねだりした。


「イツキ様と、お話をしたいんだけど──。念話はどうやるの──?」

「念話ですか……。スキルなので、訓練するしかありませんね」


【念話】は、コミュニケーションスキルの1つであるが、人間族のように発声できない、いや、出来なかった種族や魔物たちがコミュニケーションの1つとして、進化したスキルだ。

 ただ、人間族は別の方法がある。


 ユアは、3人の神官三姉妹に、ある方法を提案した。


「念話は私達には、馴染みの少ないスキルなので、習得するには時間かかります。手っ取り早い方法がありますよ。それは魔法念話という伝達魔法の1つです。音を利用して伝える魔法通話ではないですよ。念話のスキルと魔法念話は似ているので、やり取りはできます」


 ユアの提案を耳にしたリンが真っ先に、食いついた。


「そんな魔法があるのですか! ぜひぃ、お願いします!」

「「お願いします!」」


 リンを先頭に頭を下げた。メイとマイも追随し、頭を下げた。

 しかし、叶うことができなかった。

 ユアはイツキと、共に旅立つことになったのだから。


「魔法念話、まだなのに~~」


 しょんぼりと、へたり込むリン達。


「また戻るかもしれないので、その時まで覚えておくといいですよ」


 と、ユアがリン達に【魔法念話】の習得方法を教えた。


(イツキ様はこの世界について、分からないことが沢山あるでしょう。

 彼を支えるのは、私の役目ですから)


 彼女はいつの間にか、イツキのことを心に捧げていた。だが、ユアはそのことについて、自覚していないのだった。

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