第1章 シーズニア大陸

1話 異世界からの来訪者


 白い空間が晴れると、大理石のような壁に囲まれていた。

 足元へ見下ろすと、直径10メートルほどの魔法陣が描かれた台座の上に立っているのが分かった。

 どうやら、魔法陣が描いたところへ転移したようだ。

 ふと周りを見ると、宮殿なのか、神殿なのか、ファンタジー系の映画でも見るような大きな柱がいくつか支えていた。


「はぁ……いきなり異世界に転移するなんて、急展開すぎますよ……」


 と呆れて、またもや文句言いたくなった。

 あの女神はアステルの世界って、言っていたな。元の世界に戻れないんだよね。

 割り切って、ここの世界で生きることを決意するしかないのかな。


 そう思いふけるとき、俺の肩に、何か白い手が出てきた事で思わず、声を上げてしまった。


「うおっ!」


 ビックリした! その存在に、気付かなかったよ。

 振り向くと、神官らしき女性は白肌の美しい手を口元に添え、クスッと微笑んでいた。

 すごく綺麗な人みたいだけど、誰なんだろう。


「来訪者様、女神様より、その者をもてなしせよと、神託を授かっております。

 わたくしの名はメシアといいます。

 こちら、シーズニア大聖堂を任されている神官長ですわ。宜しくお願い致します」


 腰まで流れるような金髪に、ブルーオーシャンのような澄んだ瞳、神々しく煌びやかな衣装をまとっている妙齢の淑女が、見惚れるようなお辞儀をした。


 俺は耳が聞こえないため、読唇術で、

「女神、もてなし、メシア、大聖堂、神官長、宜しく」

 と、単語いくつか読み取れなかった。

 読み取れた単語を並べては、空白を埋めるかのようにつなげて意味を掴みつつ、解釈した。


 この女性はメシアという神官長で、先程会ったディネヘレゥーネという女神をお仕えする方なのかな?

 持て成しって、おもてなしをしなさいと指示したのかもしれない。

 だが、どうやって、挨拶を返せばいいんだろうか? 俺の声が聞き取れないと言われたことあるし、発声で通じるかな……と、ちょっと不安になった。


「初めまして。瀧島一樹です。宜しくお願いします」


 と挨拶してみたが、メシアは聞き取れなかったかのような顔つきで戸惑っていた。


 やはり異世界でも、【言語理解】の能力を得ても、発声は難しいかと、残念な気持ちになった。


 どうやって伝わればいいのか……。あ、女神から【念話】も頂いたんだ。

 【念話】とは、思ったことを言葉にして、相手に伝えるように念じることで意思伝達するスキルだ。

 まぁ、いわゆるテレパシーみたいなもんだ。


 ────よし、やってみよう。


『初めまして。瀧島一樹です。宜しくお願いします』


 と【念話】で伝えてみた。


 メシアは、きょとんとした。


『あら、念話ができるのですね。もしかして、発声は出来ないのでしょうか?』

『はい、私は耳が聞こえないのです。発声は難しいので、念話で伝えさせていただきました』


 そう伝えると、メシアは、微笑んだ。


『そうなのですね。では、念話で会話しましょう。まず、ご案内させていただきますね』


 人とコミュニケーションとる方法が【念話】って、凄いファンタジーだわ!

 俺は感動しきれない気持ちで、一杯になっていた。

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