プロローグ後半 女神との出会い

 目を開けたとたん、奇妙な光景に息を呑んだ。


 何だ、ここは? ……何も無い?


 どこを見ても、周りを見ても、白、白、白。


「おお……どこを見ても、真っ白なところって初体験だわ……」


 体験したことがないゆえに、感動を覚えてしまった。

 見渡すとたん、30mほど離れているところに、人影が見える。

 目を擦りながら、凝視すると、女性らしき人が俺のところに歩み寄ってきた。

 待った方がいいのか? と警戒するように身構えた。

 

「瀧島一樹よ。初めまして、私はディネヘレゥーネ。我が世界、アステルを管理する者よ。其方を招待しましょう」


 天使のように美しい姿をしているな、と思ったら女神様だった。

 背中に2対4枚の大きな白い翼があり、神々しい輝きを放つ女性は、腰まで流れる金髪に、透き通った白い肌、極薄のドレスをまとっていた。

 心を奪われる美貌さに、ごくりと息を呑んでしまう。


 ディネヘレゥーネという管理者からの挨拶に、耳が聞こえないのに関わらず、透き通るような声で驚きを隠せない。

 これが、神なのかと理解した。

 何か、されるのだろうかと警戒しつつ、挨拶に加えて、文句を言った。


「はじめまして、私は瀧島一樹といいます。ここはどこなんでしょうか? 仕事の途中に、ここを呼び出した理由を教えてください。──それと、明日、〆切なんですよ!」

「あら、呼び出して、ごめんなさい。びっくりしたでしょう? ここは私の空間でもあるの。もう、アステルにいるけれど、其方と会話するために、こんな空間を展開してあるわ。──それより、自分の思ったように喋れるでしょう?」

「あ……確かに、流暢に喋れる──って、そんなことより呼び出した理由を教えてくださいよ!」

「呼び出した理由は……そうね。其方は先程、異世界に行きたいと願っていたでしょう? その願いを叶えるために呼び出したの。まぁ、それだけではないけれどね」


 ディネヘレゥーネは俺の願いを叶えるために、呼び出したのだと微笑んでいた。


「はい? ちょっと待ってください!

 異世界に行きたいと思っていたのは確かですが、そこまで強く思っていませんよ!」

「残念ながら、願いをかなえてしまった以上、私の力では、元に戻すことは出来ないのよ」

「そんな……。私の両親や会社の仲間たちが心配してしまうんですが……」


 申し訳なさそうに謝るディネヘレゥーネに対して、俺はうろたえてしまった。

 ディネヘレゥーネは、頭を横に振った。


「安心しなさい。そこまでひどい扱いはしないわ。最低限の保障をしましょう。 突然、別の会社へ出向すること、海外へ移住することも仕上げられますわ」


 続いて、真顔でぼやいた。


「そうそう、其方の上司って、いい加減な上司なのね。その上司を洗脳するなり、操ることもお手のものよ」


 さらっと恐ろしいことを平気で答える女神様に、身震いをしてしまった。 


「……むう、どうしても戻すことは、できないのでしょうか?」

「ごめんなさい。改めて言うけど、呼び出した以上、戻すことは出来ないわ。

 ────あら、呼んでいるみたいね。とりあえず、ここの世界で生きることを決意してくれない?」

「ちょっ……」


 ディネヘレゥーネはニコっと微笑んで、手を小さく振った。


「さぁ、決まりね。これから、アステルの世界に住むのだから、其方に【言語理解】の能力と私の力を授けるわ。それと【念話】も必要になるでしょう。良き人生を──」


 そう言って、俺の足元に、魔法陣が浮かび上がり輝き始める。

 ディネヘレゥーネは俺の発言を制止し、真っ白な空間から転移させやがったよ。

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