18.Cherry blossom

ガラスケースには、整った顔立ちの少女型アンドロイドが眠るように飾られていた。

「これは」

「お客様、あまり近づかないほうがいいです。危険です」

心なしか敵愾心に満ちた視線をガラスケースに向けつつ、少女は解説を続けた。

確かに、美しい造形なのにどことなく落ち着かないアンドロイドだった。

なんとなく不安を煽るような……。

「“cherry blossom”は、軍事目的で作られたアンドロイドです」

「戦闘用なのか?」

そうは見えないが。

「いえ。このアンドロイドは、様々な方法で敵地に送り込まれました。志願兵として、慰安用アンドロイドとして、捕虜として、国使として、あるいは一般人に紛れて」

「スパイ活動ってことか」

納得ではある。

「いえ、少々異なります……これの運用目的は情報収集ではありませんでした。もちろん、そういう用途も皆無ではありませんでしたが」

「じゃあどういう?」

「これは、人間関係の破壊を目的に作られました。色仕掛けを含めたあらゆる手練手管を駆使して、周囲の人間関係を拗らせて破壊します。『こんなこと言えるの、〇〇くんだけだよ……』とか。ダメですよお客様。騙されては。耳を傾けた時点で術中です」

思ったより恐ろしい代物なのかもしれない。

「かなりの戦果を挙げたのですが、自軍の基地での整備中に整備士を籠絡して脱走、警備兵も全員籠絡されて基地内を混沌の渦に叩き込みました。『わたし、そんなつもりじゃなくて……』とか。ダメですよお客様。信じては」

何か恨みでもあるのだろうか?

「コホン。えー、結局、その騒動が原因で停止処分になり、終戦して放置されていたものを当博物館が回収したのですが……」

「あ、終わりじゃないんだ」

ここで続くのは珍しい。

「『見てくれがいいし、安全処理を施せば新しい案内ロボとして使えるんじゃないか?』などとふざけた事態になり、ポスターまで作られました。このわたしを差し置いてですよ。このわたしを差し置いて」

どうもこの辺が当たりの強い原因のようだった。

やけに感情的なロボットである。

「で、どうなったんだ」

「まあ、男性職員同士の殴り合いの喧嘩に発展して、再び停止処理の運びになったのですが。大変だったんですよ、職場恋愛は二組ほど破局するし館長の不倫は発覚するし」

ここの職員は、もしかして頭が悪いのだろうか?

「あ、最後の話はオフレコですよ。こ、こんな内輪の話するのは、お客様にだけなんですからね!」

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